Dinner




アレルヤとハレルヤ、そしてロックオン・ストラトスは訳あって一つ屋根の下に一緒に住んでいる。
アレルヤたちは双子で、そっくりな割りに性格は全然違うのだけど、二人揃って同じ人物を好きになってしまった。
それが、ロックオンなのだが。
彼はもう二人の気持ちも知っていて、その上で三人絶妙なバランスを保ちながら、何とかやっている。
どっちかなんて選べないと言うのが彼の答えらしい。それは恋愛感情なのか世話好きが高じているだけなのか、よく解からないけれど、ロックオンがいいならそれでいい。
と言う訳で、三人は一言では説明出来ない関係のまま仲良く生活していた。
けれど、ここのところロックオンは何だか仕事が忙しいらしく、あまり家に帰って来ない。
ただでさえ双子同士でいつも一緒なので、お互いがロックオンと二人きりになれるチャンスは本当に少ない。
考えた末、アレルヤが提案したのは食事を作って待っていると、言うことだった。

「遅くなってもいいですから、待ってます」アレルヤが健気にもそんなことを言い。
「お前がいないと俺は食わねぇぞ」ハレルヤがちょっと不貞腐れながらそんなことを言う。
二人がかりでそう言われれば、ロックオンの性格から言って、帰って来ないはずがない。
なので、アレルヤとハレルヤは交代で食事を作って、作った方が食事の時間だけでも彼と二人きりで過ごせる、と言う決まりを設けた。
当番じゃない方は部屋に籠もって、そこで運んで来て貰った食事を食べる。
ロックオンは不審がっていたけれど、アレルヤは上手く誤魔化していた。

でも、幾日も過ぎると、流石に決まりも乱れてくる。
例えば、今日も。
学校から帰って玄関からキッチンに入ったアレルヤは、買い物袋をどさっとテーブルに置いたハレルヤを見て、目を丸くした。

「ハレルヤ、何だい、それ」

そう尋ねるアレルヤの手にも、同じくらいの量の買い物袋が。
そう、今日はアレルヤの当番の日なのだ。
ロックオンに料理を作って、喜んで貰う日なのだ。
上手く行けば、キスの一つや二つ出来るかも知れない、素敵な日なのだ。
なのに、アレルヤの問いにハレルヤは平然と答えた。

「決まってるだろ、夕飯の材料だ」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ、ハレルヤ…!」
「あん?何だよ…」
「今日はぼくがロックオンと食事の日だよ」

当然の義務を主張すると、ハレルヤはふんと鼻で笑った。

「甘ったれんな。お前、抜け駆けしないって約束破って、昨日あいつを外食に誘いに行ったろ…!俺が当番の日だったのにな」
「な、何でそれを…ハレルヤ…!」
「へっ、しかも上手いこと言って逃げられてたよな、お前はいつもツメが甘ぇんだよ!」
「まさか、ハレルヤ…」
「ああ、悪いな、アレルヤ。昨日ロックオンは俺と一緒だったんだよ」
「そんな…ハレルヤ、酷いよ!」
「何が酷いだ!」

悲しげな訴えを一喝されて、アレルヤはムキになってハレルヤに詰め寄った。

「だいたい、きみの作る食事なんていつもカップラーメンとか、レトルト食品とかばかりじゃないか!それじゃロックオンが可哀想だよ。彼の健康を考えて、外食した方がいいと思ったんだよ」
「へっ、よく言うぜ。そんなにお優しいアレルヤさまが、あいつに一服盛ろうなんて過激なことするとはな」
「(ぎく)な、何のことだい、ハレルヤ」
「惚けんなよ。この前、お前間違ってその薬入りの皿を俺の部屋に運んで来やがっただろうが!お陰で次の日は昼まで寝っぱなしだったんだぜ!」
「そう、か。だから効かなかったんだ。全く…余計なことしてくれたよ、ハレルヤ」
「余計なって…おい。まぁ、とにかく認めたな、アレルヤ」
「そうだよ。いけないかい?」

そんな、大人気ない…と言うかどことなく過激な内容の喧嘩を繰り広げる中、二人の耳に階段を上がってくる足音が聞こえて来た。

「ロックオンかな」
「だな」

前に喧嘩をしていてつまみ出されたので、それ以来ロックオンの前では大人しくするようにしている。二人はすぐに会話を止め、顔を見合わせた。

「て訳で、お前は部屋に戻ってろ。後で運んでやっからさ。薬のこと、バラされたくねーだろ?」
「ハ、ハレルヤ…」

打ちひしがれたアレルヤの声を無視し、ハレルヤが上機嫌でキッチンに向かった、その直後。
アレルヤは徐に手を伸ばして、ハレルヤの腕を掴み上げた。

「うわっ、こら!何すんだ、アレルヤ!」

ハレルヤの怒号を無視して、アレルヤはその辺にあった紐で手際良く腕を縛り上げると、ついでに喚く彼の口元を手の平で覆った。

「む、むぐ…おい、アレルヤ…!?」
「ロックオンとぼくの為だよ、ごめん」

抵抗する力を無視して、そんなことを言いながらずるずる体を引き摺る。

「こんな格好悪いとこ、ロックオンに見られたくなかったら、大人しくしててね」
「お、おい、お前っ!」
「ご無礼」

ふっ、と口元を緩めると、アレルヤはハレルヤをクローゼットに突っ込んで、バン!と扉を閉めた。
ついでに彼の靴も引っ掴んでベランダに放り出す。
そこでホッと一息吐いた、数秒後。

「ただいま」

少し疲れたような声が聞こえて、ロックオンが帰って来た。

「ロックオン!待ってたよ!」

何事もなかったようにアレルヤが満面の笑みで迎えると、彼は少し不思議そうな顔をした。

「アレルヤ。ハレルヤは帰ってないのか?さっき、今日は自分が作るとかってメールが…」

ちゃっかりそんなメールまでしていたとは。アレルヤの額はちょっとだけピクピクした。

「さぁ、どうしたんだろうね…。約束をすっぽかすなんて、本当に無責任と言うか何と言うか…」
「そうか…困ったヤツだな」

肩を竦めて笑うロックオンに、アレルヤはここぞとばかりにまた笑顔を浮かべた。

「ぼくが作ってあげるよ、ロックオン。それに、今日は早かったんですね、嬉しいです」
「何か、悪いな、いつもさ」
「何言ってるんです。ぼくは好きなんですよ、料理するの」
「なら、いいけど、本当にありがとな」
「ロックオン…」

そんな感じで、少しいい雰囲気になった途端。
ドン!ドン!
奥にある部屋の方で壁を蹴りつけるような音が二、三度聞こえた。
先ほど、アレルヤがハレルヤを放り込んだクローゼットがある方だ。

「ん?何だ」

眉を顰めるロックオンに、アレルヤは慌てて誤魔化した。

「あ、さっき…近所の素行の悪い野良猫が紛れ込んでたから…また暴れてるのかも…」
「何だよ、ちょっと見て来る…」
「あ!ぼくが行きますから!ロックオンは着替えでもして待ってて下さいっ」
「ああ、頼むぜ」

ロックオンが頷くのを確認して、アレルヤは急いで先ほどの部屋に飛び込んで、固く扉を閉めた。
そして、そーっとクローゼットの扉を開ける。
中では散々暴れたのか、ハレルヤが無残にも衣服に埋もれてもがいていた。

「静かにしててよ、ハレルヤ」
「うるせぇ!何でもいいから、さっさとこれ解け!」
「ふん、それは出来ないね…!」
「…っ!アレルヤ、てんめ…よくも!後で覚えてやがれ!楽には行かせねぇぞ!」
「だから静かにしてくれよ、ハレルヤっ!」
「むぐぐ…」

また手の平で口を塞ぐと、ハレルヤは物凄く悔しそうに呻いた。
流石に自分でもやり過ぎかな、とは思うけれど。恋の為には仕方ない。
もう一度、改めて押入れの扉を閉めようとした、そのとき。

「何してんだ、お前ら」
「ロックオン!」
「ロックオン!」

背後から急に声が掛かって、二人はびく、と肩を揺らした。

「ハレルヤ、何でそんなとこに…」
「い、いや、何でもないよ。ね、ハレルヤ」
「ああ、何でも、ないぜ」
「ふーん?」

首を傾げるロックオンに、二人は引き攣った笑顔を浮かべた。

「ま、とにかく飯食おうぜ…三人で食うのは珍しいもんな。皆一緒ってのは、いいもんだ」

何だか無邪気に嬉しがるロックオンに、アレルヤとハレルヤも一時停戦して、こくりと頷いた。



「三人で、ってのもいいかもな」
「何の話だい、ハレルヤ」

食事中、小声で囁くハレルヤをアレルヤが肘で突く。

「食事の、に決まってんだろうが、てめぇ何考えてやがる」
「ああ……。でも、実際…それだって三人でもいいかもね」
「お前、怖ぇこと言うよなァ」
「三人一緒がいいって言ったのはロックオンだからね。大変だけど…頑張って貰うしかないかな」
「お前にゃ適わねぇな、全く…」
「何だよ、二人して。何話してんだ?」

こそこそ話し込んでいた二人に、ロックオンが声を上げる。
二人は同時に会話を止め、揃って顔を上げると、済ました表情を浮かべた。

「いいえ、何でも」
「ああ、何でもないぜ?」
「……そう、か」

にこ、と笑顔を浮かべた双子に、何故か背中に悪寒が走り抜ける。
双子が結託しない方が、彼にとっては良かったに違いないのだけど、時既に遅しだ。
いつもより楽しそうな二人を見比べて、ロックオンは少しだけ身の危険を感じ取ったような気がした。




リクエスト(添えてない気が凄いしますが…)ありがとうございました!