エクスペリエンス2




「も、もういい、そんな感じで頑張れ」

乱れた呼吸を誤魔化すように咳払いすると、そそくさと上着を掴んで部屋から出ようと足を進める。
これ以上は、幾らなんでも面倒を見る義理はないし、もう必要ないだろう。

でも、アレルヤは去ろうとしていたロックオンの衣服を凄い力でがしりと掴んだ。

「あ、待って下さい、ロックオン」
「まだなんかあんのか!」
「これ以上は、どうしたらいいんですか」
「これ以上って…客に最後までする気か、お前」
「そうじゃなくて、純粋な、疑問です」

じっと視線を注がれて、がくりと脱力する。
後のことは、もう自分で勉強して貰うしかない。
それに、男の本能と言うヤツがあれば、先へ進むのはそんなに難しいことじゃないだろう。
現に、先ほどまでの戯弄のせいで、アレルヤの若い体は勝手に反応を示し始めてしている。

「俺相手でもこれだけ元気がありゃ、心配ない。自然に出来るさ」

揶揄するように言って、そっとロックオンは悪戯のようにアレルヤの中心をゆるりと撫でた。
既に反応して昂ぶりを見せているもの。
本当に、悪い冗談のつもりだった。
けれど、その途端。
突然肩が掴まれ、ドン!と壁に押し付けられて、衝撃に息を詰まらせる。

「って、なにす…」
「…ロックオン」
「……?!」

呼び声に視線を上げて、ぎくりと身を強張らせた。
じり、と身を進めて来たアレルヤの目。
彼の目に宿る色に、思わずごくりと息を飲んだ。
これは、まさか。
いや、でもそんな、バカな。
アレルヤが抱いていて、今自分に真っ向から向けられているのは、明らかに欲情の色だ。
でも、信じられない。何で。

「ロックオン」

動揺している間に、彼は熱っぽい口調で名前を呼び、そして先ほど自分が教えた通りに、ゆっくりと優しい仕草で頬を撫でた。

「……!は、なせ!」

我に返って目を見開き、声を荒げたけれど、彼は止まらない。

「こ、こら、アレルヤ!」

再びキスされそうになって、ロックオンは焦って声を荒げた。

「何ですか、ロックオン?」

でも、目の前のアレルヤは少しも動じることなく、暢気にそんな返答を返して、笑って見せた。

「な、何って…」

その反応に度肝を抜かれ、反応が遅れた途端、再び温かいものに唇を塞がれ、意識が遠くなったような気がした。



「ちょっ、と…、待てって、お前…っ」

腰を抱かれ、胸元を強引に弄られ、ロックオンはアレルヤと壁との間で苦戦していた。
元々力では叶わないし、何より体を撫でられる度にぞわぞわと痺れが走って、逃げ出すことが出来ない。

「あっ、ぁ、アレルヤ!」

そんな中ぐい、と下肢を弄られ、ロックオンは思わず体を強張らせた。
そのまま、やわやわと刺激を与えられ、首筋には熱い舌が這わされ、肌が粟立つ。

「あっ…、や」
「ロックオン…」

思わず出てしまった声に、咄嗟に口を手で覆う。
アレルヤが、こちらの反応に驚いたように目を見開き、ごくりと喉を鳴らす。
何で、こんな声。
これ以上は聞かれたくないし、聞きたくもない。
そう思ったのに、その手ががしりとアレルヤに掴み上げられた。

「もっと、聞かせて下さい」
「…?!」

本当に嬉しそうに、どこか熱を帯びた声で言って、彼はロックオンのシャツのボタンをプチプチと一つずつ外しだした。

「あ、っ、な、に…、ん…」

肌蹴た衣服の間から手の平が潜り込んで、剥き出しになった白い肌の上を直接這い回り、先ほどよりも上ずった声が出た。
しかも、弄ぶように突起を指先で弾かれ、思わずぎゅっと目を瞑る。

「もしかして、こう、したらいいのかな」
「……っ」

こちらの反応を見て取ったアレルヤは、しつこいほどそこをきつく捻ったり弾いたりして弄んでいる。

「よ、せって、アレルヤ!」

ひく、と喉が震えてしまって、ロックオンは本気で危険を感じ始めていた。
何と言うか、これはやばい。
そんなことを思っている間に、彼の手はベルトにまで掛かり、カチャカチャと音を立ててそれを外し始めた。

「お前!何してんだ!いい加減止めろ!」

一段と声を荒げてみたのに、アレルヤは聞いていない。

「ロックオン、いい?もっと続けても…」
「……?!」

返って来たのは、耳元でのそんな熱い囁きだった。



「おい、何言ってんだよ!冗談は!」
「酷いですね、冗談なんかじゃ…」
「……っっ?!」

ぐっと距離を詰められて、びくっと身を硬くしてしまった。
何を。何を怯えているんだ。
年下の、しかも相手はアレルヤだ。
でも、屈強な腕に捉えられ、捕まえる指先の熱さに、身じろぐことを忘れてしまった。
その上、体を寄せられ、昂ぶりを押し付けられて息を飲む。
冗談、なんかじゃないのだ。
アレルヤが。彼が、自分に欲情している。
何だってこんなことになったんだ。
と言うか、アレルヤは、何で自分に。
色々な疑問が頭を掠めたけれど、どうにもならない。

「……っ」

あっと言う間に下衣が引き摺り下ろされて、ロックオンはびくりと身を揺らした。

「ここに…」

熱に浮かされたようなアレルヤの声が耳元を擽る。

「ここに、入れればいい?ね、ロックオン」
「…っ、っ!」

徐に後ろへと伸ばされた指先に、両足が引き攣って、恐怖に息を飲んでしまった。
俺だってやったことない、知るか!
そう叫ぼうとしているのに、声が喉の奥に張り付いたみたいに、上手く出て来ない。

「いっ?!」

しかも、ぐい、と指先を捩じ込まれて変な声が勝手に出てしまった。

「い、痛いだろ!何すんだ…!」
「あ、ごめん。でも、教えてくれないから…」
「お、俺のせいかよ…」

泣きそうなほど情けない声で言うと、ロックオンは眉根を寄せた。
なんで、本当になんでこんなことになってるんだ。幾ら新人の教育も仕事の一環とは言え…。

(これって、特別手当とか、なしだよなぁ)

そんな暢気なことを考えながら、ロックオンはやけになったように再び口を開いた。
このままじゃ、強行されるかも知れない。
そうなったら、明らかに流血大惨事だ。それだけはご免だ。

「指を、濡らせ、なんでもいいから」
「う、うん…」

アレルヤはこくんと頷いて、それから少し考えるような素振りを見せた。
その辺にある飲みかけのボトルでも、なんでもいい。
少しは潤してくれたら。
そんな気持ちでいると、アレルヤは不意に何かを思いついたように、持ち上げた指先を二本、ロックオンの口内へと突っ込んだ。

「んっ、ぐっ?!」

当然、あまりのことにくぐもった声を上げ、目を見開く。
何だ、今、何をされている?
悟る間もなく、えずきそうになるのを必死で堪える。
苦しさに涙を浮かべるこちらにはお構いなく、アレルヤは舌を弄るように指を動かして、口内を好き勝手に探り出した。

「んっ…、んっ、ぐ…」

その度に苦しげな声が勝手に上がってしまう。
何をするんだと怒鳴ってやりたいのに、声が出ない。
両の手首は簡単に一纏めにされて、動かすことも出来ない。
そうして、彼の指がようやく出て行くと、ロックオンは壁に背中を預けて、は、は、と荒い呼吸を繰り返した。
唾液で濡れた唇やら、高潮した頬のせいか。
こちらを見詰めるアレルヤの目に、明らかに強い欲情の色が浮かんだ。

「あ…ッ」

そのまま、潤った指先が後孔に潜り込んで、引き攣った声で喉を鳴らした。



「いっ、…ぅ、うっ…」

必死に声を堪えながら、中を探る理不尽な動きに耐える。
アレルヤは流石に慎重になりながら、じっくりとロックオンの中で指を蠢かせた。

「大丈夫ですか?ロックオン」
「はっ、んな…、訳…」

そんな訳ない。もう止めてくれ。
息も絶え絶えに訴えるけれど、彼はやっぱり聞いてない。

「すみません、もっと、丁寧にしますから」
「んん…っ!」

そうじゃないと声を荒げる前に、ぐっと敏感な場所を突き上げられ、散々翻弄される羽目になる。

そうして、好き勝手した指先がようやく出て行き、ホッと息を吐いたのも束の間。

「いてっ」

体を引っ繰り返されて壁に顔を押し付けられ、痛みが走る。
けれど、抗議の声を上げる前に腰を抱え上げられ、ロックオンは目を見開いた。
ぐっと後ろに押し付けられている、熱いもの。

「ア、レルヤ、止め…」

流石に、これは。
こんなことは。
ゆるゆると首を振って逃れようとしたけれど、彼は許さない。

「うぁ…!」

直後、彼のものに強引に貫かれて、短い悲鳴が室内に上がった。

「いっ、あ、あ…!」

背後から容赦なく突き上げてくる衝撃に、ひたすら耐えようと努めたけれど、足はがたがたと震えてしまい、気を抜けば体が崩れ落ちてしまう。
何度も腰を抱え上げられ、その度に体勢を立て直すけれど、いい加減に体力も気力も限界だった。
そんな中、上手く行かない行為に痺れを切らしたのか、アレルヤは一度強引に自身を引き抜くと、ロックオンの体を抱いて、側にあったテーブルにうつ伏せに押し付けた。

「ぐ…っ」

仕草は結構乱暴で、体に走った痛みもかなりものもだった。
けれど、そのまま追い討ちを掛けるように再び貫かれて、息が止まりそうになる。

「鬼か、お前は!」

抵抗も拒絶も全然出来なくて、ロックオンはただ情けない声を上げるしかなかった。



その、数分後。
内股を伝う白い液体を拭いながら、ぐったりと椅子に身を投げ出して、ロックオンはひたすら脱力していた。

「中で出すヤツがあるか。最悪だ」
「す、すみません。何だか、夢中になってしまって…。でも、良くはなかった?」
「いい訳ないだろ!こんなもんで、お前…」

相変わらず見当違いな台詞を吐くアレルヤに、引き攣った声で怒鳴る。
男の相手なんか初めてだったのに。
こんな、キスの経験すらなかった男相手に滅茶苦茶翻弄されてしまった。
ある意味、最悪な体験だ。

「自分だけ良くなりやがって、全く冗談じゃねぇぜ」
「す、すみません、ロックオン」

溜息混じりに吐き出すと、アレルヤは叱られた子供のように肩を落として、そして何度も謝って来た。

「本当に、すみません」

こんな風に言われると、これ以上怒る気がなくなる。
そう思う自分にも、問題があるのだろう。
でも、少なくともこの男が相手だからだ。

衣服を整え、痛みを引き摺って立ち上がると、ロックオンは溜息混じりに、でも優しい声を上げた。

「次からは、ちゃんとしろよ。また…教えてやるから」
「……!ありがとう、頑張るよ、ロックオン」

直後、本当に嬉しそうに目を輝かせたアレルヤに、何でこんなことになったのか、もう考えるのは止めようと思ってしまった。