+アレ。ギャグ。キャラ壊れ気味。

SS




スメラギに頼まれ、ロックオンは降下した地上でアレルヤと二人、買出しに出掛けていた。
一通り買い物を終え荷物を車に詰めた後、一休みする為にカフェに立ち寄った。
そこで、突然背後から聞き覚えのある声が掛かり、ロックオンはぎくりと身を硬くした。

「きみは…あのときの…」
「……?!」

この声…。明らかに聞き覚えがある。
もしや、まさか。
嫌な予感たっぷりに振り向くと、ロックオンは思い切り眉を顰めた。

「げっ、あんたは!」
「やはり、きみか!」
「ロックオン…誰だい?」

ロックオンの反応に、顔を輝かせる男と不思議そうな顔をするアレルヤ。

「あ、あー…さぁ…」

じっと見詰める視線に、咄嗟にどう説明して良いか解らず、ロックオンは曖昧な返答をした。
けれど、この男のことは忘れようもない。
数ヶ月前だったか…。酒を飲んでいる最中に声を掛けて来た男だ。よく覚えている。声を掛けられたとき、軍人だと言うことはすぐに解かった。恋人を待っているのかと聞かれ、そうだと答えた。係わりたくないがための断りの常套句だ。なのに、彼にはどうも通じなかったらしい。その上、別れ際にキスまでされると言うとんでもない目に遭わせてくれた…。確か名前は、グラハム・エーカー。

「またきみに会えるとは!わたしのあのまじないが功を奏したと言うことか。嬉しく思うよ」

やたらと高揚した声で告げながら、彼はずいずいと迫って来る。

「それは、どうも…」

(俺は別に嬉しくない、つーか、呪いだろ、寧ろ!)

胸中で叫びながらも、ロックオンは引き攣った笑みを浮かべた。隣にいるアレルヤが、きょとんとしたようにこちらを見る。

「ロックオン、まじないって?」
「あ、ああ…、いや、何て言うか」

アレルヤにとっては当然の反応だろう。無理もない。でも、今彼に説明している暇も余裕もない。
言葉を濁すロックオンに、グラハムは更に詰め寄ってきた。

「ニール、よもやきみは、このわたしを覚えていないと言うのか…?」
「い、いや、んなことは…」
「ロックオン…、ニールって?」
「いやだから、その…」

(ああ、全く、どう言えばいいんだよ!)

「ところで……」

頭を抱えたくなるロックオンにお構いなく、グラハムの台詞は続く。

「彼かい?きみの恋人と言うのは」
「え……」

思いもかけない言葉に、アレルヤの目が点になる。

「恋人…?」
「わー!バカやろ!余計なこと言うな!」

アレルヤは経緯を何も知らないのだ。
突然同性の恋人扱いされて、驚かない訳ない。

「これは失礼。不躾だったかな」
「ああ…全くな…」

いけない、頭痛がしてきた。これは早めに撤収するべきだろう。

「ロックオン。何ですか、恋人って!」
「いいから、今お前は黙ってろ!」

追い縋るような目のアレルヤを取り合えず黙らせて、ロックオンはこの場から去ることにだけ集中した。
けれど、じり、と一歩下がると、グラハムが一歩間を詰めて来る。

「ニール…」
「な、何だよ…」
「きみに会えて、本当に嬉しく思う」
「そ、それは…どうも」
「わたしはあれから、きみに出会えることをどれほど切望していたことか…!ここでまた出会えたのはただの偶然とは思えない。これこそ、運命と言わずして何だと言うのか」
「さ、さぁ、俺には、よく…」

たじたじになりながらも隣りにいるアレルヤをちらりと見やると、呆気に取られたまま放心している。無理もない。同情する。
けれど、今危険なのは自分の方だ。まだ熱弁を振るうグラハムを尻目に、ロックオンはアレルヤを肘先でつついて覚醒させると、小声で囁いた。

「逃げるぞ、アレルヤ」
「は、はい」

もう、体裁など取り繕っている暇はない。ロックオンはアレルヤの腕を掴むと、物凄い勢いで走り出した。
すぐに気が付いたグラハムが、当然追い掛けて来る。

「待ちたまえ…!」
「待てるか…!」

必死に二人で逃げたけれど、相手は流石に軍人だ。普段鍛えている為か、ぐんぐん距離を詰められるし、こちらの息は切れるしで、ロックオンの脳裏に絶望の二文字が浮き上がった、直後。

「ロックオン…!ぼくに任せて」
「あ、は…?」

突然そんな言葉を共に、ふわりと体が浮いた。アレルヤがロックオンの膝の裏と背中に手を回し、がばりと体を抱き上げたのだ。

「うわっ…!な、何すんだ、こらっ!」
「暴れると落ちますよ!!」

いきなり抱え上げられて素っ頓狂な声を上げるこちらにはお構いなく、アレルヤはロックオンを抱えたまま猛烈に走り出した。
アレルヤは息一つ乱さず、ずんずん走る。何て力だ。でも、本当に助かる。
そのまま少しずつ引き離され、グラハムは声を張り上げた。

「待つのだ、姫…!!」
「誰が姫だよ!!」

ロックオンが突っ込みを入れると、少し考える素振りを見せた後、アレルヤの目が解かった!と言うようにパッと輝いた。

「ああ…!もしかして、この抱き方のせいかな。ほら、これお姫さま抱っこって…」
「冷静に分析してる場合か!!早く逃げろ!!」
「りょ、了解!」

しゅんとなるアレルヤを心を鬼にして一喝し、散々逃げ回った後、二人はようやくグラハムの猛追から逃れることが出来た。




05.23