ドラマCDネタ。 キャラが壊れてます。
SS
「うわぁっ!」
夜中に絶叫に近い悲鳴を上げて、ロックオンは目を覚ました。額には思い切り汗が浮かんでいるし、何だか得体の知れない悪寒もする。
この前、仮想ミッションのシミュレートをしてから、何だか様子が可笑しいのだ。仮想ミッションのシミュレート。そのとき、人の敵を横から割り込んで殲滅していったフラッグがいた。何だか知らないが、そのパイロットに毎晩迫られる夢をみてしまう。
しかも今日は、刹那から聞いた話とも相まっていたせいか、やたらとリアルだった。
刹那がその男、グラハムと言っただろうか。彼に迫られて危機一髪のとき、自分が駆けつけてことなきを得た。でも、じりじりと間を詰めて来る彼には、まだ油断ならない。ただの男色家だ!などと叫んだ危険な男を、これ以上刹那に近づける訳にはいかない。
「今のうちに逃げろ!刹那!」
「了解」
体を張ってグラハムを押し止めると、ロックオンは刹那をドアから先に逃がした。途端、物凄く恨みの籠もった目で見詰められる。
「何と言うことをしてくれるのだ!」
「そりゃ、こっちの台詞だ!この、変態!」
「ふ、褒め言葉と受け取っておこう」
「どこがだ!いいか、もう刹那には近付くなよ?あいつに何かしたら、許さねぇからな」
「……」
低い声でそう凄むと、突然、彼は言葉を止め、じっとこちらを覗き込んで来た。
「な、な、何だよ」
鋭い視線を向けられて、思わず言葉を詰まらせる。
「きみは、あの少年にロックオンと呼ばれていたね」
「あ、ああ、まぁ…」
額に冷や汗が浮かぶような気がしながら、ロックオンはじり、と後ずさりした。
「きみにも、彼と同じものを感じるよ」
「は?」
「きみの目も、何かを追い求めるように強く、そして輝いている」
「い、いや、気のせいだ、多分」
まずい。何だか、不味い展開だ。
一歩間合いを詰められ、ロックオンは十歩ほど後退したい気持ちになった。
「姫、わたしは、きみにも心奪われてしまったようだ」
「え、姫って、そりゃ、俺のことか」
「わたしはきみを手に入れたくなった」
「なっ、お、おい…待て!話を聞け!」
「無理な相談だ!」
言うなり、彼はロックオンの腕を掴んで、ぐい、と引いた。
「うわっ」
バランスを崩した体が、グラハムの方に向かって倒れてしまう。
「は、は、離せ!」
「嫌がるきみも素敵だ」
「嫌がってるの解かってるなら、離せ!」
「いやよいやよも好きのうち、そう言う言葉がある」
「本気で嫌だっつーの!!」
思い切りよく顔面を殴りつけると、流石に利いたのか、グラハムはようやくロックオンを解放した。ぜぃぜぃと肩で息をしながら体勢を整えると、グラハムも弾みで切れた唇をぐっと拭った。
「いや、失礼。きみが思わせぶりなことを言うから、つい、暴走してしまったようだ」
「俺がいつ、どこで!」
駄目だ、この男と話していると血圧が上がってしまう。ロックオンは眩暈を覚えながらも、後ろ手で扉のノブを掴み、素早く開けて逃げようとした。途端、真正面から伸びて来た手に、バン!と勢い良くドアを閉められる。
「……っ」
びく、と体を強張らせるロックオンに、彼は挑戦的な笑みを浮かべてこちらを見詰めて来た。
「非礼は詫びよう。だが、きみに一つだけ言っておくことがある」
「な、何だよ」
物凄く嫌な予感がして、思わずごくっと喉を鳴らす。そして、その予感通り。
「わたしは、しつこく、諦めの悪い男だ!」
「……!!!」
盛大に迷惑な宣言と共にがばりと抱き付かれ、ロックオンは成す術もなく彼の腕に捕まってしまった。
「よ、止せ!うわぁぁっ!」
そう、悲鳴を上げたところで、目が覚めたのだ。
「い、嫌な夢だった」
すっかりげっそりと窶れた顔を鏡で見て、ロックオンは深い溜息を吐いた。
そして、同時刻。
他のマイスターたちの部屋でも、同じような悲鳴が上がっていた。
終
08.21