遅れましたがグラハム誕生日ネタ。

SS




何だか無性に一人になりたくて、アジトの屋敷から抜け出して、こうして酒を飲んでいたと言うのに。



「何で、あんたがいるんだよ…」

あからさまに眉根を寄せたロックオンの隣で、彼は不敵な笑みを浮かべて手にしていたグラスを置いた。

「あくまで偶然だ。だが、よく会うようだね」
「全くだ…。せっかく店を変えたってのに」

隣に立つ人物の言葉に、ロックオンは溜息混じりに相槌を打った。。
グラハム・エーカー。
何の縁なのか、これで会うのは三度目になる。
ユニオンの軍人である彼とは、出来ればあまり言葉を交わしたくないと言うのに。彼が、ロックオンの正体を知らないとしてもだ。
何もかも見抜いてしまいそうな、この挑戦的な目が苦手なのかも知れない。

ロックオンは性急にグラスの中身の酒を飲み干し、その場から立ち去ってしまおうとした。けれど、グラスを置くと同時に、その手が彼にがしりと掴まれる。

「きみさえ良ければ、店を変えて飲みに行かないか」
「……断ると言ったら?」
「無理矢理にでも」
「……!あ、おい!」

そんな台詞と共に強引に腕を掴んで引かれ、ロックオンは慌てたように声を上げた。
こちらの抵抗などはことごとく無視して、グラハムは素早く勘定を済ませ、ロックオンを店の外まで引き摺りだした。
そのまま、彼の足はどんどん人気のない場所へと向かう。

「おい、いい加減離せって」
「離せば、きみは逃げてしまうだろう」
「当たり前だろうが!」
「それなら、離す訳には行かない。当然だろう」
「………」

当たり前のように言われて、ロックオンは手足が脱力するのを感じた。
その上、この前…それこそ脱兎の如く彼の前から逃げ出したから、それと同じ轍を踏まないためなのか。
痛いほどきつく握り締められた腕は、少しのことでは振り解けそうもなかった。

それにしても…。
嫌われていると言うか、よく思われていないのは解かっているだろうに。またのこのこ側にやって来るとは。彼のもの好き具合と言うか、鈍いのかふてぶてしいのか解からないけれど、とにかく相当なものらしい。
いや、そもそも、嫌い…なのかなんて、自分でも…。
そこまで考えて、ロックオンは首を打ち振った。こんなことを思い巡らす時点で、どうかしている。今日彼に会ってしまったのは、自分の中で不運中の不運に近い。
それに、今日のグラハムは以前より何だか少しだけ無口だ。またあの勢いで迫られたら、こっちだってがむしゃらに逃げ出してしまうのに。何となく、そうは出来ない雰囲気がある。

ロックオンが黙り込んでいると、何となく察したのか、彼は肩越しにこちらを振り返り、苦い笑みと共に口を開いた。

「先日は…きみに逃げられて結構落ち込んだよ」
「……あんたがかい?」
「私とて人の子だ。人並みにはそう言うこともある。まぁ、ごく稀にだがね」
「……」
「だが、逃げられると追いたくなる。それもまた性と言うものだ」
「ったく…、本当に変なヤツだな、あんた」

ロックオンが肩を竦めると、彼もその口元に笑みを浮かべた。
鋭い視線に変わりはないけれど、笑うとかなり幼く見える。

「きみこそ、今日は逃げる気力もなさそうだね」
「ああ……」

探るような台詞に素直に頷いて、ロックオンは溜息を吐き出した。
何だか、管を巻いて逃げるのも疲れるし、今は一人だ。アレルヤがいなければ、この前みたいに逃げおおせる自信もない。
それに、彼の行動も…一体どこまでが本気なんだか。

「だいたい、あんたは何だって俺に構うんだ」

―物好きなことで。
揶揄するように言うと、グラハムは突然足を止め、こちらに正面から向き直った。
近い距離で見詰められ、たじろいだ瞬間。ぐい、と伸ばされた手に驚いて、目を見開く。

「なに、を…っ?!」

戸惑う声にもお構いなく、徐に顎を指先で捉えられ、ロックオンは息を飲んだ。
見開いた双眸に、間近でこちらを射抜くように覗き込む翠色の目がいっぱいに映し出されている。

「どうしたのだ。逃げないだけではない。今晩のきみは、特に元気がなさそうだ」
「……。あんたには関係ないだろ」
「そうかな…?」

そこまで話して、彼は再び一歩足を進めて距離を詰めた。
暗い夜の風景の中、くっきりと浮かび上がる金色の髪に思わず目を奪われた直後。

「……?!」

更にぐっと距離を詰められて、避ける暇もなかった。
捉えられたままの顎に力が込められ、そうして唇に生温かい感触がした。

「んっ…!…っ!」

柔らかくて心地良い感触に思考を奪われたのは、一瞬のことだった。
すぐに我に返って、目の前の体温を思い切りよく突き飛ばす。

「な、何すんだ、いきなり!」

引き攣った声を上げて距離を取ると、目の前の男は心底楽しそうな笑みを浮かべていた。

「今日はこうしても、逃げられないと思ったからだが…」
「な、何言って…」

そんな台詞に、思わずどき、と心臓が音を立てて鳴る。
何だか、見透かされたような台詞にハッとしたのかも知れない。
何で、こんなヤツに。不覚極まりない。
そう思うのに、足が動かない。まずい、逃げなくては、いけないのに。

(ア、レルヤ…)

思わず、この前手を引いて逃げた年下の男の顔が浮かんだけれど、彼がここにいるはずもない。
そのまま、再び腕が掴まれ、思い切り側に引き寄せられた。

「……っ」

思わず、小さく声を上げると同時に、再び唇が彼のもので塞がれた。

「ん…っ、んぅ…っ」

必死にもがこうと力を込めても、暴れてもびくともしない。
それどころか、逆にその辺りの壁に背中を押し付けられ、逃げ道を塞ぐように覆い被さられてしまった。
流石に正規の軍人とあって、鍛え方が違う。いや、そんな暢気な感想を漏らしている場合じゃない。
ぐぐ、と顎を掴む指先に力が込められ、口内を抉じ開けるように圧力が加えられる。ゆっくりと開いた隙間から、温かい濡れた舌が潜り込んで、逃げ惑うロックオンの舌を強引に絡め取った。

「ん―…っ!ん…っ!」

必死でもがいても、びくともしない。それどころか、きつく甘く舌を吸われ、呼吸までが苦しくなる。
どんどん深く、濃厚になるキスに、焦りが生まれるのに。腰を抱き腕を捕らえる力はどこか心地良く、本気で抵抗する気力を奪ってしまう。

ロックオンの抵抗が弱くなると、それと同時にグラハムの拘束する力も弱まり、彼はロックオンの背を優しく愛撫するように撫でた。そこから、ぞわ、と痺れのような感覚が走り、思わず眉根を寄せる。
その間も、彼は何度も吸い付くように唇で触れ、潜り込ませた舌を好き勝手に暴れさせ、ロックオンの口内を思うように侵蝕し続けた。



「ふ…っ、はっ…」

ようやく解放される頃には、どちらの吐き出す息も酷く乱れ、もつれ合うように寄せ合っていた距離は更に接近している。
どくどくと早く鳴り出した鼓動が彼にまで聞こえてしまいそうで、ロックオンは誤魔化すようにきつくい視線を送った。

「は…っ、あんた、なんでこんな…」
「私はそう言う名ではない。グラハムと呼んでくれないか」
「な、んで、俺が…んなこと、…あっ」

腰を抱かれ、意志を持った手に撫でられ、言葉は途中で途切れてしまった。
ぞくりと背筋に痺れが走り、白い肌が快感に粟立つ。
こんなところで、強引にキスをされて体を弄くられて、何をうっかり反応しているのだ。
早く逃げなくてはと思うのに、強い力に捕らわれて動くことが出来ない。

「きみは、ニール…と言ったね」
「そ、それがなんだって…」

耳元で聞こえる彼の声は、はっきりと熱を帯びているように聞こえる。
ぞく、と走り抜けた痺れをやり過ごして、ロックオンは引き攣った声を上げた。
けれど、彼の台詞も声も、尚も頭の奥にまで響くように続けられる。

「きみはもっと、肩の力を抜いた方がいい」
「……?」
「いつも、無理をしているのだろう。そう見える」
「は…っ、あんたみたいなヤツに、そんなことを言われるとはね」
「どう言う意味かな」
「いっつも全力だろ?ガチガチに見える」
「きみを見ていると、他のところもそうなのだが」
「は?!っ…!!」

ぐい、と下肢を押し付けられて、ロックオンはひゅっと短く息を飲んだ。

「し、下ネタは止めろ!」
「失礼。だが、本当のことだ」

潔いまでに謝罪され、次の瞬間には開き直られ、ロックオンはがくりと脱力するのを感じた。

どう言う、人間なのだろう。
いつも、世話を焼かせる年下の男やら、励ましたり守ってあげたくなるような女の子。周りにいるのはそんな存在ばかりで、こんな男には久しく会っていない。いや、寧ろ初めてのタイプだ。
ロックオンは抵抗する力を完全に抜き、代わりにからかうような、それでいて探るような声を上げた。

「そう言うことをおくびもなく言うな。それともあんた、男が好きなのか」
「そうではない。ただ、きみが」
「ん…っ?!」

これで、三度目だ。ぐぐ、と強く唇を塞がれて、ロックオンは目を見開いた。
隙を与えると、こうだ。逃げられない。
そんな思いと共に、焦りが生まれる。

「…っ、…は、もう、離せ!」

乱れた吐息と共にそう訴えても、グラハムは解放しようとしない。
やがて、段々と体から力が抜け、ロックオンはもがいていた腕をだらりと力なく下ろした。それを確認して、グラハムの腕が一層強く腰を抱く。開いた方の手はシャツの上から肌をなぞり、胸元を意味ありげに撫で回した。女性とは違う、平らな胸のどこに興味を持ったのかわからないけれど、彼の執拗な愛撫は続く。

「んっ…」

ぎゅっと突起を摘まれて、思わず小さく声が漏れた。

「感じるようだね」
「んっ…、んなこと…」

嬉しそうな声に羞恥を感じ、否定しようとした隙から強い刺激がぞわぞわと駆け上がる。
グラハムの唇が首筋に移動して、そこにゆっくりと舌を這わせた。

「や、めろ。もう、離せ!」
「…そうだな。ここでは落ち着かない。こっちへ」
「え…っ?」

再び、酒場から連れ出されたときのように強く腕を引かれ、ロックオンは慌てた。
まずい、ここで帰られなければ、もう逃げられない。
今度こそきっと、彼の好きなようにされてしまう。
一体どこまでする気でいるのか解からないけれど。
いや、何となく、解かっている。

この先起きるであろう事態について頭の中に思い描いた内容に、思わず白い喉がごくりと音を立てて上下した。




近くにあったホテルに引きずり込まれ、電気を付ける間もなくベッドに放り出された。

「……っ」

軽い衝撃に呻き、体勢を立てる前に上に圧し掛かる体温に押さえ込まれる。

「ちょっと、待…っ」

素早い手つきでベルトが外され、抗議をしようとした唇は強引に塞がれて、ロックオンは何も言えないまま、無防備な肢体を彼の目下に晒した。
何で、こんな羽目に。
そう思いつつも、甘く与えられる刺激に、体が勝手に反応してしまう。

「うぁっ!?」

けれど、開かれた足の間。その奥へと手を伸ばされ、流石に悲鳴のような声が上がった。
いつの間に潤したのか、ぬめりを帯びた指先が入り口を撫で回して、血の気が引くのを感じる。
嫌だとか、どうやるのかとか、そう言うことの前に、男とこんなことをするのは初めてだ。
何が何だか解からないまま行為を進められ、ロックオンは身を捩ってグラハムの下から逃げ出そうとした。

「…っ、ちょっと、待て…!」
「却下する」

けれど、ようやく上げた抗議の声も即座に切って捨てられ、直後、下肢に引き攣る痛みが走った。

「ひっ、い…、つっ!」

喉が仰け反り、掠れた声が勝手に上がる。
ずず、と粘膜が擦れる音が耳元に聞こえて来そうで、ロックオンは息を詰めた。
痛みから逃れたくて、必死に力を抜こうとするけれど、不自然に引き攣った肢体は思うように動いてくれない。

「ぃ、…う、…っ」

唇を噛み締めて声を漏らすと、グラハムはなだめるように肌の上を優しく撫でた。

「大丈夫かい?」
「っ、んな訳、ないだろ!」
「きみが暴れるからだ」
「俺のせいかよ!っ、ぁ…!」

泣きそうな声で喚いた瞬間。
中で蠢いていた指先が敏感な場所を探り当て、引き攣った声が上がった。

「あ…っ、あ…、な、ん…?」
「心配することはない」

力を抜け。
そう促されて、ロックオンは無意識に縋るように彼の言葉に従った。
勝手に駆け上がる痺れに翻弄されて、びくびくと震える内股は自分でも制御出来ない。
何だって、こんなみっともないことになっているんだ。
今更ながら、ここへ来たことを後悔したけれど、もうどうしようもない。

「ぅあ!」

そんなことを考えながら、きつくシーツを握り締めていると、やがて指先が乱暴に出て行った。

「……っ!待…っ、待ってくれ!」

続く行為が容易に想像出来て、恐怖に引き攣った抗声を上げると、子供っぽいのか鋭い大人のものなのか、解からない彼の目と視線が合った。

「もう、遅い。諦めて私を受け入れることだ」
「え、あ…っ?」

膝の裏に手を回され、持ち上がった足が割り開かれる。秘部が彼の目に晒され、羞恥を感じる暇もない。

「っ、く!」

直後、先ほどとは比べようも無い衝撃が襲って、ロックオンは声にならない悲鳴を上げた。

「ぐっ…!ん…ッ!!」

グラハムが、戸惑うことなく身を割り開いて侵入して来る。
内側から酷く熱いものに体を焼かれているようだ。
悲鳴を殺すだけで精一杯なのに、容赦なくぶつけられる激しさに視界が揺らぐ。
もがこうと腰を浮かせると、そのまま抱き抱えられて、ぐっと繋がりを深くされた。

「く…、ぅ…っ!」

奥底まで犯されるような感覚に喉の奥で呻くと、彼の動きが激しくなる。
もう、何がなんだか解からない。
体の中どころか、内面に閉じ込めておいたものまで暴かれてしまうほど激しく。ロックオンがベッドの上でぐったりと動かなくなるまで、行為は続けられた。



翌朝。

「あんた、無茶苦茶だぜ…。訴えられても、知らねぇぞ」

ほぼ行き摺りと言ってもいい男相手に、優しさを求めるのは不条理なのかも知れない。
でも、恨み言を言わずにはいられなくて、ロックオンは痛む下肢に眉を顰めて掠れた声を上げた。
けれど、隣で身じろいだグラハムは否定するでもなく、何だか申し訳なさそうな笑みを浮かべてみせた。

「そうだな、我ながら無茶をし過ぎたと思う」
「……」
「私も…、私が生まれた日に褒美が欲しかったのかも知れない。そんなときにきみが目の前に現れて、加減出来なくなってしまった」
「……?生まれた日?」

気になる言葉に顔を上げ、尋ねるように復唱すると、彼はゆっくりと首を縦に振った。

「ああ…誕生日だった。尤も、既に過ぎてしまったが」
「そう、かよ…」

(……誕生日、ね…)

おめでとう、なんて言うのも可笑しい。
ロックオンはただ言葉を止めて、彼をなじる台詞を喉の奥へ飲み込んだ。




09.14