:ロックオンが姫(♀)です。姫パラレル。ギャグ風。

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昔、ソレスタルビーイングと言う名前のとある国に、ロックオン・ストラトスと言うお姫様がいました。
姫は24歳ですっかりお年頃だったのですが、一向に嫁に行こうとせず、王様も周りの人たちも困り果てていました。
外見は、淡い茶色の髪の毛に蒼のような翠のような綺麗な目、透けるような白い肌と、大層美人だったのですが、とても口が悪く、女性らしいとはお世辞にも言えない性格だったからです。

そんなある日、ピンクの髪の少女がロックオンの部屋を訪れました。

「ロックオン」

彼女の名前はフェルト。ロックオンのことを姉、と言うより兄のように慕っている貴族のお姫様です。

「フェルト、どうした」

ロックオン姫が頭を撫でながら尋ねると、フェルトは悲しそうに目を伏せました。

「噂、聞いて…」
「……ああ」

噂とは、きっと近々姫が嫁ぐと言う内容に違いありません。
王はかなり焦っていて、無理矢理にでも姫を嫁に行かせようとしていました。

「ロックオン、お嫁に行っちゃうの?」
「フェルト…」

心配そうに覗き込むフェルトを安心させようとして、ロックオンは視線を曇らせました。
このままここにいては、どこの王子と無理矢理結婚させられるか解からないからです。
ロックオンは迷った末、城から脱走して旅に出る決意を固めました。
どこかにきっと、運命の人がいると信じて。

「フェルト、少しだけどお別れだ」
「ロックオン、絶対帰って来てね」
「ああ、どうせなら物凄い大物の婿を捕まえて父さんたちをびっくりさせてやるよ」

別れを惜しむフェルトの額にそっとキスをすると、ロックオンは意気揚々と旅に出ました。



場所は変わって、隣の人革国にも、ソーマと言うお姫様がいました。
ソーマ姫はロックオン姫以上におてんばで、人形よりは剣を、ドレスよりは騎士の正装を好んで、しょっちゅう馬に乗って野山を駆け回っては父親のセルゲイ王を困らせていました。

「このままでは、嫁の貰い手が…」

本気でそれを心配した王は、美しいと名高い、隣のソレスタルビーイング国のお姫様と仲良くさせれば、少しは女の子らしくなってくれるのではと思い、早速ソーマ姫を呼び出しました。
王が話をすると、ソーマは意外にも嬉しそうに目を輝かせました。

「解かりました、父上!必ず、姫を私の花嫁にしてみせます!!」
「ち、違う、姫!そうじゃない!」

王が青褪めて止めるのも聞かず、姫は颯爽と馬に飛び乗って隣の国へと旅立ってしまいました。



そして、また場所は変わって、遠いユニオン国では、見目麗しい王子様が花嫁を探している真っ最中でした。
王子の名前はグラハム。
見事なまでの金の髪に、深い翠の目。花嫁はすぐにでも見付かりそうでしたが、そう上手くは行きませんでした。
候補のお姫様たちを、グラハムはことごとくふってしまったからです。

「どこかにいるはずだ。私の心を揺さ振る、運命の姫君が!」

何の根拠もなく自信たっぷりに言うと、王子は花嫁探しの旅に出ました。

暫く旅を続け、諸国を見て回りましたが、王子の心を捉える人物は一人もいませんでした。
けれど、ソレスタルビーイングと言う国の近くにまでやって来たときのことです。
グラハムが木に寄り掛かって休んでいると、側から数人の声が聞こえて来ました。しかも、何やら不穏な様子です。
興味を引かれてそちらを見やると、美女が男たちに包囲され、典型的なピンチを迎えていました。
しかも男の一人が彼女の顎を掴んで、無理矢理口付けをしようとしています。

「狼藉者!恥を知れ!」

ああ言った輩は放っておけない。
グラハムが剣を抜いて斬りつけようとした、そのとき。

「何しやがる!こいつ!」

そんな怒号と共に、彼女を取り囲んでいた男たちが一斉に地面にのめりこむのが見えました。
彼女はとてつもなく強かったのです。
グラハムは驚いて、思わず剣を取り落としました。

「き、きみは…」
「何だ、あんた。こいつらの仲間、には見えねぇな」

グラハムに気付いた彼女は、軽薄そうな口調で、でも鋭い目でこちらの様子を伺って来ました。
その眼差しに、グラハムは鼓動が熱くなるのを感じました。
きっと、これこそが運命の出会いだ!
何の理由もなく確信すると、グラハムは落ちた剣を拾って鞘にしまい、彼女に向かって丁寧にお辞儀をしました。

「私はグラハム・エーカー。きみの存在に、心奪われてしまった!」



その頃。
花嫁を連れて帰ると言ったソーマは、途中の街に寄ってカフェで休憩をしていました。
がむしゃらに馬を飛ばしたので、流石のソーマも疲れてしまったのです。
ホッと一息吐いて注文した紅茶を一口飲むと、何故か急にセルゲイのことが気になって来ました。
城を出る前の日、一緒に紅茶を飲んでいたことを思い出したからかも知れません。
でも、今は一人です。そう思うと今すぐにでも帰りたい気持ちに駆られましたが、任務を果たさない訳にはいきません。
ソーマは気持ちを入れ替えて、再びソレスタルビーイングへと馬を飛ばしました。

けれど、ソレスタルビーイングに着いても、ソーマはロックオン姫に会うことは出来ませんでした。

「ロックオン姫は、いない?それは、どう言うことですか」

ソーマが尋ねると、国王は困り果てたように頭を抱えました。

「申し訳ない。姫は花婿を探して旅に出てしまったのだ。全くおてんばで、どうしたものか」
「さようですか、仕方ありませんね」

いないものは仕方ない。それにきっと、ロックオン姫には心に決めた殿方がいるのだ。
潔く諦めたソーマに国王は首を傾げて聞いて来ました。

「ところで、ソーマ姫は何故ここに?」
「ロックオン姫を、私の花嫁にしようと思ったのです」
「……?!」

その言葉に、王様は絶句しました。
でも、やがてソーマを側に呼び寄せると、優しく頭を撫でて言いました。

「悪いことは言わない。お父上のところに帰りなさい。きっと、心配なさっている」
「は、はい…」

ソレスタルビーイングの国王に優しく諭された途端、今までより強くセルゲイを思い出してしまい、ソーマの目には涙が溢れて来ました。

馬を飛ばして故国に帰ると、セルゲイは大喜びで出迎えてくれました。

「姫!心配したのだぞ。よく帰って来てくれた」
「申し訳ありません。父上」
「もう、嫁の貰い手がどうとなど言わない。ここにいてくれ」
「勿論です。私がこの国をお守りしてみせます!」

力強く頷いてみせると、セルゲイ王は側に来て、優しくソーマを抱き締めてくれました。



一方…。
心を込めて姫に挨拶をしたグラハム王子でしたが、その台詞は彼女の癇に障ったようです。

「何だ、やっぱりあんたもさっきのヤツらと同類か」

はぁ、と溜息を吐くと、姫はいきなりグラハムに向かって襲い掛かって来ました。
でも、グラハムは油断していませんでした。彼女の攻撃をかわし、同時に腕を取って捻りあげてしまいました。

「捕まえたよ、姫」

勝ち誇った笑みを浮かべて見下ろすと、姫の目は驚きに見開かれました。

「な!?俺の攻撃をかわすなんて!それに、何で姫と解かった!」
「なんと!本当に姫だったとは!乙女座の私はセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない」
「鬱陶しいな、あんた!」
「やれやれ、口が悪いな。だが、褒め言葉と受け取っておこう」

ますます愉悦に満ちた笑みを浮かべると、姫の顔は屈辱に歪んだ。

「俺を、どうするつもりだ」
「どうもしない、言ったはずだ。私は君に心奪われただけだと」

そう言うと、王子は姫の腕を離しました。
そして、姫の足元に跪いて、そっとドレスの裾にキスをしました。

「あんた、誰だ…」

この身のこなし。どこかの国の騎士だとでも思ったのでしょう。
姫は眉根を寄せて、恐る恐る尋ねて来ました。

「私はグラハム。ユニオン国の王子だ」
「何だって!」
「きみの名前は?姫君」
「俺は、ロックオンだ、ロックオン・ストラトス」
「そうか、以後、お見知りおきを、ロックオン姫」
「あ、ああ…」

こうして、二人は(今はまだ一方的ながらも)熱い恋に落ちたのでした。



おわり
12.11