Happy Birthday
「アレルヤ、今いいか」
「ロックオン?」
扉の向こうからよく馴染んだ声が聞こえて、アレルヤはベッドから飛び起きた。
すぐさま扉を開けると、ロックオンはこちらの姿を見て少し首を傾げた。
「寝てたのか」
「いえ、横になっていただけです」
笑顔を浮かべながら首を横に振ったけれど、ロックオンはすうっと眉を顰めて難しい顔になってしまった。
「大丈夫か、お前。まだこの前のミッションの疲れで…」
「本当に大丈夫ですよ。あまり子供扱いしないで下さい」
部屋の中へと迎え入れながら、気遣いの言葉を柔らかく遮ると、彼の顔はますます曇った。
「何だよ、そんなつもりは…」
「すみません、ちょっと言ってみたかったんですよ。折角、年も一つ縮まったんですし」
この前、五つ差だった年の差が少しの間だろうけれど、四つに縮まった。
別に、年下なことをそんなに気にしている訳ではないけれど。
やはり、あまり子供扱いされるのは望ましくない。
けれど、アレルヤが言い終えると、ロックオンは小さく肩を竦めてみせた。
「ああ。それなら、残念だが…今日でまた差が開いちまったんだよな」
「え…?」
「悪いな、アレルヤ」
言われている言葉の意味がようやく解かって、目を見開く。
「もしかして、誕生日…とか?」
「ああ、そう言うことだ」
愛想良く笑顔を浮かべるロックオンに、今度はアレルヤが眉を顰めた。
「何ですか、それ…。聞いてないですよ。ぼくには、薄情だとか言っておいて…」
「そりゃあ、あれだ。俺以外の人物に先に教えていたことを言ってんだ。でも俺はお前以外に言ってない。だから、別に薄情者でもない」
「どう言う理屈ですか、それ」
呆れたように溜息を漏らして、アレルヤは苦い笑みを浮かべた。
まぁ、これ以上どうこう言っていても仕方ない。
器用に頭の中を切り替えると、アレルヤはそっとロックオンに身を寄せた。
「じゃあ、この前のお返しと言うことで…」
声に反応して目を上げたロックオンに顔を寄せ、アレルヤはそっと彼の唇を塞いだ。
「じゃあ、結局…年の差が縮まったのって、たった数日だった訳ですね」
ふと、動きを止めてそんな呟きを漏らすと、眼下でロックオンが熱に浮かされたような双眸をこちらに向けた。
緩く与えられていた刺激が止んで、ふっと体から力が抜ける。
薄暗い部屋の中でも解かる白い色の肌を、アレルヤはそっと手の平で辿った。
薄っすらと汗が浮き上がって潤んでいるせいで、吸い付くような感触が心地良い。
「年なんて、関係ないだろ…。そう、気にするな」
手の平の動きに合わせて僅かに身じろぎながら、ロックオンは吐息のような声を吐き出した。
内股をなぞると、再び下肢に力が籠もる。
痺れるような感覚が走って、アレルヤは僅かに眉根を寄せた。
「ええ、解かっていますよ。それより、集中して下さい」
「それは、こっちの台詞だろうが。だいたいお前はだな…」
「すみません。今、本気を出します」
何となく、お説教が始まりそうだったので、続けようとしていた言葉を即座に遮る。
「え、あ…おい、アレルヤ?」
ぎょっとしたように見開かれる濃い色の目を視界の隅で捕らえて、アレルヤは先ほどよりも深く身を沈めた。
「こら、お前!そ、そこまでしなくても…っ、…ん!」
ぎし、と音がしてベッドが軋むと、他愛もない会話を交わす余裕など微塵もなくなったのか、ロックオンはぐっと息を詰めた。
その後。
「ところで…ここへ来たのは、何か用があったからですよね?」
「え、ああ…」
今更ながら、彼がここへ来た理由が気になって、アレルヤは隣に寝転んだままのロックオンを見やった。
彼の深い色の瞳が一瞬ドキっとしたように揺れたのは、気のせいだろうか。
「どうしたんですか、何か…」
「…もう忘れたよ、んなことは…」
顔を覗き込むと、ロックオンは何だか不貞腐れたように言って、アレルヤの視線から逃れるように顔を背けてしまった。
でも、柔らかそうな髪の毛から覗いた耳朶が、少しだけ赤い。
「……」
(もしかして…)
祝って欲しくて、来たのだろうか。だとしたら、彼もよくよく素直じゃない。
何だか可笑しくなって、アレルヤはロックオンにばれないようにそっと笑みを浮かべた。
そして、彼の耳元に顔を寄せると、優しい声で囁いた。
「誕生日、おめでとう。ロックオン」
終