覚悟を決めて




「聞いてますか、ロックオン」
「ああ、聞いてるよー」

ひらひらと手を振りながら、陽気な返事を返す。
先ほどから何度も声を掛けていたアレルヤは、その仕草に少しムッとしたようだった。

「じゃあ、返事して下さいよ」

ずい、と身を寄せられて、ロックオンは手にしていた本を取り上げられた。

「してるだろ、ちゃんとさ」
「いつ、そんなこと…」
「今言ったんだよ、心の中で」
「酷い…」

アレルヤはついに口を噤み、俯いてしまった。

「アレルヤ」

なだめすかすように声を掛けても、返事がない。
どうやら、本当に拗ねてしまったらしい。
仕方ない。ここは真面目に向き合うか。

「悪かったよ、アレルヤ」
「……」

「けどなぁ、お前だって悪いんだぞ。そう言うことは、面と向かって聞くことじゃないだろ」

先ほどまでの会話を思い出して、ロックオンは眉を顰めた。
でも、アレルヤはますます困ったような顔になってしまった。

「じゃあ、どうやって聞けば…」
「知らねぇよ、そこまで。自分で考えな」

今度は冷たく突き放す。
途端、アレルヤの目が悲しそうに歪んだ。

「仕方ないじゃないですか、ぼくには…こうするしかない」
「…アレルヤ」
「あなたと違って、そう言う経験なんか、ないから…」

あまりにあからさまな反応に、流石にちょっと罪悪感が込み上げる。

「おいおい、何も泣くことないだろうが…」

言いながら、あやすように頭を撫でる。
何度か繰り返していると、突然彼はがばりと顔を上げた。

「抱きたいんです、ロックオン」

間近にある、真剣なグレイの目。
痛いほど伝わって来るものは、真っ直ぐな気持ちだけだ。
でも・・・だからと言って受け入れるには、あまりに抵抗がある。

「…だから、さ…アレルヤ」
「あなたの言い分なんて知りません。ぼくは、あなたを抱きたい」

腰を据えて説得しようと口を開くと、ぴしゃりと遮られてしまった。

(おーおー、開き直っちまったか)

「酷いな」
「酷いのは、そっちだ!」
「え、あ……」

ぶつん。

アレルヤの中で何かが切れる音が、ロックオンにまで聞こえたような気がした。

直後、彼はロックオンの両腕を捕まえて、ぐい、と壁に押し付けた。しかも、片手で。
年下の男にあっさりと押さえ込まれ、ロックオンは流石に身の危険と言うものを感じた。
身の危険と言うか、貞操の危機。

(まずい…)

どこをどう間違えたのか、最初から考えようとして、ロックオンは思考を投げ出した。
アレルヤが首筋に唇を押し付け、そこを軽く吸い上げたからだ。
意志とは関係なく、ぞく、と痺れるような感覚が走って、ロックオンは引っくり返った声を上げた。

「うわっ、こら、ちょっと待て!」
「嫌だ」
「ア、アレルヤぁ…」

何だか必要以上に情けない声が出てしまった。
でも、彼は容赦なかった。

「好きなんです、あなたが。だから抱きたい。滅茶苦茶にしたい」
「滅茶苦茶にされたら、困る」

揚げ足を取ったつもりだけど、彼には通じていない。

「言葉が足りませんでした。滅茶苦茶に気持ち良くさせてあげたい、ついでに自分もそうなりたい。それで、あなたに滅茶苦茶に声を上げさせて、それから…」
「だー!解かった、もういい!もういいから!」

耳を覆いたくなるような率直な殺し文句を延々と口にされ、ロックオンは真っ赤になって喚いた。
もう、どうにでもなれ。
遂にそんな思いが頭に浮かび上がる。
自分だって、彼のことを好きには違いないから、こう言うのには弱い。

「好きに、しろ」
「ありがとう、ロックオン」

その、直後。
アレルヤは今までの悲壮な様子が嘘のように、ふっと口元を歪めた。

(…う…)

どことなく勝ち誇ったような笑みに、今更ながらハメられたことに気付いたけれど。
もう、どうしようもない。

「腹を括って下さい」
「お、お前に言われるまでもない!」
「じゃあ、よろしく」
「……うっ」

人の悪そうな笑みと、悪びれない物言い。
性質の悪い純朴男に捕まってしまったなどと思いながら、ロックオンはゆっくりと顔を寄せて来たアレルヤのキスに応えた。