昏黒




夜遅く。隣の部屋の扉が開く音がして、アレルヤは目を覚ました。
隣には、最近帰りの遅い片割れ、ハレルヤの部屋がある。
アレルヤは音もなくベッドから滑り降り、そっと扉を開けた。
隣の部屋の扉はしっかりと閉まっておらず、隙間から細い明かりが覗いていた。足を進めると、衣擦れの音が聞こえて、ハレルヤがシャツをベッドに放るのが見えた。
アレルヤは躊躇いもなくノブを掴んで、扉を開いた。

「ハレルヤ」

呼び掛けると、ぴくりと肩が揺れて、ハレルヤがこちらを見る。

「何だよ、アレルヤ。勝手に入んな」
「どうしたんだい、こんな遅くまで」
「関係ねーだろ」

吐き捨てるハレルヤに、アレルヤは憂いを帯びたグレイの目を瞬かせた。
ハレルヤは上半身は何も身につけていず、アレルヤと同じ引き締まった肢体が目の前に晒されていた。視線を合わせた金色の目はけだるげで、頬も唇もいつもより紅潮していて血の気が多いように見えた。そして、無防備な肌の上に散らばった痕。
アレルヤは眉根を寄せて、ゆっくりと指先を伸ばしてそこに触れた。

「誰かに、抱かれて来たのかい」

その痕を確かめるようになぞると、ハレルヤは鼻先で笑った。

「だったらどうだ。お前に関係あんのか?アレルヤ」
「……っ」

肯定と同時に冷たく返って来た言葉に、アレルヤは唇を噛んだ。ぐっと血の気が失せた唇が、次の瞬間にはぶつりと切れて赤く染まる。

「どうして…そんなこと…」

殊更低い声でアレルヤは問い詰めた。
けれど、ハレルヤはますます荒っぽい口調で、残酷な笑みを口元に浮かべて言い捨てる。

「さぁな。だいたい、俺が誰と楽しもうが、誰に足開こうが、俺の勝手だろうが!お前には関係ねーんだよ、アレルヤ!」
「ハレルヤ…っ!」

酷い言葉に目を見開き、アレルヤは咄嗟に彼の腕を捕まえた。
そのまま引き寄せ、もう片方の手で顎を捕らえて強引に口付ける。これ以上、彼の口から何も聞きたくない。

「んっ…!!」

がつ、と歯がぶつかるほど強く押し付けた為、口元に痛みが走ったのか、ハレルヤが眉根を寄せる。それに構わず、口内を余すところなく貪ると、アレルヤは彼の肢体をベッドに強引に押し倒した。

「何だよ、退け!アレルヤ」

あっと言う間に組み伏せられ、驚いたハレルヤがそんなことを喚きながら手足をばたつかせる。腰の辺りに圧し掛かって動きを封じると、アレルヤは冷えた声を発した。

「嫌だ…そんなこと」
「アレルヤ!」
「きみはぼくなのに…ハレルヤ…。誰かに勝手にだなんてそんなの…」

顔を寄せ、首筋に唇を押し付けると、びくりと肩が揺れる。

「…っ、おい、何しやがる!」
「何って、決まってるじゃないか」

穏やかな声で言い放って、アレルヤは剥き出しの肌に手の平を這わせた。首筋を伝った唇も胸元に下りて、突起に噛み付き、舌先で乱暴に転がす。

「よせよ、てめ、アレルヤ!」
「……」

拒絶の声を無視して、アレルヤは徐に下肢の中心を撫で回した。

「あ…っ」

既に緩く反応をしていたハレルヤは、直接与えられた刺激に堪らず、短い声を発した。それはアレルヤが初めて耳にする、彼の甘い声だった。

「感じやすいね。今まできみを抱いてた、誰かのせいかな」
「う、…よせ…」
「ねぇ、ハレルヤ…」

ベルトを引き抜き、ジッパーを素早く下ろして下衣に手を潜り込ませる。

「あ、あぁ…っ!」

性急に愛撫を施すと、ハレルヤは堪らずに腰を浮かせた。

「んっ、ぅ…くっ、は」
「そんなに、感じるんだ。きみがこんな体だなんてね」
「っ、ひっ…!」

強引に後ろへ指を捩じ込むと、見開かれた金の目からは涙が溢れる。

「ハレルヤ…」

暫くの間強引に中を掻き回してから指を引き抜くと、優しい呼び声を落として、彼の内股を掴んで左右に広げた。
ひく、と鳴る喉元に今すぐ唇を押し付けたいのを我慢して、アレルヤはぐっと身を進めた。

「あ、あ…ッ!い、つ…!」

痛みに引き攣る内股をあやすように手の平で撫で回し、中心へも快楽を送り込む。ハレルヤは嫌がるように首を振ったけれど、アレルヤは許さなかった。

「きみは…ぼくだけのものなんだから」
「あ、ぁ、アレルヤ…」

容赦なくぶつけられる欲望に、いつも鋭いハレルヤの視線がぼやける。息が止まるほど口内を貪り、逃げる肢体に強引な愛撫を施して、アレルヤは強引に彼を抱き続けた。



「ぼくが嫌いかい、ハレルヤ」

長い時間が過ぎて。淫猥な行為が終わると、アレルヤは汗の浮き出た肢体にゆっくりと手の平を這わせた。水分を含んだ肌が吸い付くような感触が心地良い。
ハレルヤはぐったりと身を投げ出したまま、アレルヤへ視線を向けた。ゆるりと首が打ち振られ、漆黒の髪の毛が動きに合わせて揺れる。

「んなこと、ある訳ねーだろ」
「じゃあ、どうして、今日みたいなこと」

悲しげに吐き出される言葉に、ハレルヤは溜息を吐き、それから手を伸ばしてアレルヤの髪を撫でた。

「お前が、俺から離れられなくなるからだよ」
「え……?」
「いつもいつも、うじうじしやがって…。俺がいなくても、お前が大丈夫なように、今のうちに離れようと思ったんだよ」
「そんな…」
「まさか、こう来るとはな」

犬歯を覗かせて笑うハレルヤに、アレルヤはぐっと身を寄せた。

「嫌だよ、そんなの…。ぼくはきみがいないと駄目なんだ。きっと、どうにかなってしまうよ」
「……」
「いや、もうそうなっているのかな。でも…何でもいい。きみにいて欲しいよ」

懇願と言うより、ただそうであるべきだとでも言うように、アレルヤは淡々と吐き出した。
黙って聞いていたハレルヤは一度目を閉じ、それから観念したように溜息を吐いた。

「ああ…。解ったぜ…アレルヤ」
「ハレルヤ…」
「だいたい、誰ともやってなんかいねーんだよ、早とちりしやがって」
「え、でも…」
「痕付けられただけだぜ、全くよ」
「そう…なんだ…。良かった」

ハレルヤの言葉に、アレルヤは口元を綻ばせた。

「でも…こんなものも、もう二度と付けないで欲しいよ」

そう言うと、彼の返事を待たず、アレルヤはまたそっと唇を寄せた。