二期設定。黒ライ×フェル。
ライルがちょっと酷い人です。

SS




ようやく休憩が取れて食事をしていると、シュンと扉が開く音がして、ロックオン・ストラトスが入って来た。
何度見ても、見慣れない姿容をした彼に、フェルトは思わず体を硬くした。

「お、あんたも今からかい。奇遇だねぇ」

陽気な台詞を耳にした途端、フェルトは思い切り椅子から立ち上がっていた。
咄嗟の行動で、失敗したと思ったけれど、もう引き返せない。
手をつけ始めたばかりの食事が乗ったトレイを片付けようとすると、突然、目の前にロックオンが立ちはだかった。

「なぁ、俺…なんかした?」
「……!べ、別に」
「ああ、それとも兄さんが何かしたとか?」
「……!」

ハッとして顔を上げて、ぎくりとした。
ロックオンと、ニール・ディランディと同じ顔をした人が、すぐ目の前にまで迫っていたから。
四年ぶり。
あんまりにも辛い別れをしてから、四年。
伝えることも出来なかった、淡い恋だった。
ずっと頭から離れたことはなかったから、彼が違うと解かっていても、フェルトはぎし、と動けなくなってしまった。
でも、よく見ると目の色が少し違う気がする。
それに、あの人の声はもっと少しだけ低くて、フェルトを安心させるような、優しくて大好きなものだった。

「どうしたんだい、可愛い子ちゃん」
「別に、何も…」

こんな、軽薄な調子で話したり、胸の内をざわざわ掻き乱すような言葉を吐いたりなんてしなかった。
精一杯目を逸らして、何とか引き攣った声でそれだけ言うと、ロックオンがふっと笑う気配がした。

「そっか…、ならいいんだけどね」

頬が勝手に赤く染まってしまう。
この人は、あの人とは違う。
そうはっきり確信した瞬間だった。



数日後。
部屋で待機していると、突然呼び出し音がなった。

「フェルト・グレイス、でいいんだよな」
「……!は、はい」

聞こえて来た声に、否応なしに心臓の音が高まる。

「戦術予報士さんから伝言だ。データを預かってきた」
「え……?」

そんな話は聞いていない。
急なミッションが入ったのだろうか。
フェルトは慌てて立ち上がり、自室のドアを開けた。
扉が開いて、懐かしい顔をした人が目の前に現れる。

「データは…。すぐに解析を…」
「…ごめんな、フェルト」
「……?」

手を差し出した途端、その手がぐっと彼の指先に捕らえられた。
びく、と過剰なまでに反応を示すと、ロックオン・ストラトスはまた少し軽薄そうな笑みを浮かべた。

「データを預かったってのは、嘘なんだ。ただ、ちょっと話がしたくてね」
「そんな…」

騙されたことに気付いて、何だか胸が苦しくなった。
でも、掴まれた手を振り解けない。

「中に入れてくれないかな。色々聞きたいんだ、ここのこととか」
「わ、私は別に…」

別に、話すことなんかない。
そう言おうとしたのに。

「それに、兄さんのこととか…さ」
「……!」

彼の口から出た言葉に、フェルトはひゅっと息を飲んだ。
ニール・ディランディ。
あの人を、きっとよく知っている人。
聞きたいと思ってしまったのかも知れない。
頷きはしなかったけれど、無言でいるのを了解と取ったのか、ロックオンはフェルトの部屋へと足を踏み入れた。
男の人がここへ入るなんて、初めてだ。
いつも見慣れている場所が、全く違う場所になってしまったように思う。
この部屋に、彼がいることに酷く違和感がある。

ふ、と一度息を吐き出して、フェルトは思い切って口を開いた。

「お兄さんのことって…」
「ああ、うん…」

フェルトの声に気付くと、部屋を見回していた彼は顔をこちらに向け、に、と不敵な笑みを浮かべた。

「きみと兄さん、本当に何もなかったのかい?」
「え……」

そんな言葉と共にぐっと距離を詰められて、フェルトは息を飲んだ。
何だろう。何だか、いけない感じがする。
頭の中で何かが鳴り響いている。

「俺を見て、ロックオン・ストラトスって言ったけど、なんだかね、そんときの様子が気になって」
「な、何もない!何も…」

動揺を見抜かれていたことに気付いて声を荒げると、ロックオンは少し驚いたような顔になったけれど、それは一瞬のことだった。

「ふぅん、そうかい」
「……?」
「それは、勿体無いねぇ…」
「な…っ?!」

伸ばされた手に突然腕を捉えられ、フェルトは悲鳴を上げそうになった。

「俺だったらきっと、こんな可愛い子が側にいたら、放っておかないな」
「……?!」

衣服の上から柔らかい肌を捉え、弾力を確かめるように籠もる力に足が震える。

「は、離し…」
「ああ、でも四年前だったら、きみはまだ子供かな?いくら何でも、そりゃないか」

揶揄するような言葉も、耳に届かない。

「ロ、ロックオン…、嫌…」

喉に張り付いた声で、それだけ言うのが精一杯だった。
怖いとか胸が痛いとか、色々な思いでどうにかなってしまいそうだった。
それなのに、自分から振り解くことも出来ないなんて。
強張ったフェルトの様子を見て取ったのか、やがて、ゆっくりと彼の手は離れた。
ハッと我に返って、慌てて距離を取る。
怯えたように見開いた目を上げると、彼は相も変わらず、子供が悪戯でもするときのような笑みを浮かべていた。

「冗談だよ、冗談。悪いね」
「な、なんで…」
「仲間って言っても、こう簡単に男を部屋に入れちゃ駄目ってことだよ、フェルトさん」
「そんな…、どうして…」

彼にこんな風に言っても、仕方ない。
本当に、ただからかわれただけなんだ。

「で、出て行って…」
「はいはい、了解…」

目を逸らして言うと、彼はそれだけ言って、部屋から出て行った。

ライル・ディランディ。
どんな人なんだろう。
彼は、危険な人だ。
庇護の手を与えてくれた、あの人とは違う。
でも……。
まだ彼の感触が残る肌をぎゅっと拳で押さえ付けて、フェルトは力なく床にへたり込んだ。




10.20