二期、4話。ロクの回想。

SS




部屋に戻ってベッドに腰を下ろすと、ロックオンは壁にどさりと身を預けた。

柄にもなく、苛々していた。
ハロが隣で、あどけなく見える目をこちらに向けている。

「ロックオン、ロックオン」

呼び掛ける合成の音声が、何だか今はホッとした。

「悪いことしたなとは、思ってるさ。けどな…」

ぽんぽんと頭を撫でるようにオレンジの球体に触れると、ロックオンは目を瞑った。
まだ頬がじんじんする。
加減なんてしてくれなかった。思い切り引っ叩かれた。
いや、あれは、加減の仕方も知らない。そんなやり方だった。
手が震えていた。誰かを平手打ちしたのなんて初めてなのかも知れない。
兄はきっと、彼女にあんなことしなかっただろう。だから、はっきり違う態度で接した。

(フェルト・グレイスか)

彼女の視線は、ずっと感じていた。
控えめ過ぎる性格なのか、直接話し掛けては来ないし、コミュニケーションを取ろうと言う素振りもない。
でも、確かに意識はしていた。
目を合わせそうになると、ふい、と逸らす。
何だか、可愛いなと、変な意味ではなくそう思った。
好奇心に似た視線。でも、悪いものじゃない。
妹が生きていたら、あんな感じだろうか。

ここでは皆、ロックオン…ライルのことを、ロックオン・ストラトスとして、兄の代わりとして見ている。
それは解かってる。
そして、射撃にしろ何にしろ、兄のように上手く行かないことも。
兄がどれだけここで大きな存在だったのかは、皆の反応を見れば解かる。

でも。

「あの子は、違うと思ったんだけどなぁ…」
「ダレノコト、ダレノコト」

一人呟く声に、ハロが興味深々と言った風に声を上げる。

「いーや、何でもないよ」

言いながら、ロックオンはふぅっと吐息を吐いた。
瞼の裏に、涙をいっぱいに浮かべたフェルトの顔が浮かんだ。

「俺は違う。違うんだよ」

でも、それでも。
ロックオン・ストラトスに違いはないんだ。




10.27