フェルト→ライル。14話。
SS
自分は一体何を望んでいるんだろうと、フェルトは遠くの景色を眺めながら思った。
視線の先にあるのは、姿だけは見慣れた長身の男と、そしてつい最近ここにやって来た女性。
何だか、仲が良さそうに見える。それも無理ないと、少し前、彼に言われた言葉を思い巡らして、フェルトは視線を伏せた。
―俺は兄さんじゃない。
彼はそう言った。フェルトだって、それはもうよく解かっている。ニールとライルは違う人だ。
でも、悪気がなくたって何だって、誰でもニール・ディランディを知っている人物なら、ライルを見たとき頭に少しは過ぎるはずだ。それを、ライルは快く思っていないのだろうか。
(解からない……)
彼が何を考えているかなんて、フェルトには解からない。
でも、ニールだってそうだった。
いつも優しくて、頭を撫でてくれた手。でも、本当は何を考えていたかなんて、5年前の自分には解からなかった。心の奥に、激高するほどの強い怒りを抱えていたなんて、フェルトには解かるはずもなかった。
ただ、もっと優しくして欲しくて、褒めて欲しくて、そう思うと何でも頑張れる気がした。頭を撫でて貰えれば、それで十分だった。
でも、今はどうなんだろう。今の自分が望んでいるものは何だろう。
例えば、ニールの優しさは誰にでも向けられていたものだと、もう解かっている。
でも、あの人は、ライルは?
ああやって、アニューと話している彼は、本当に楽しそうで、和やかだ。
きっとフェルトだけが感じている、何だか不穏な空気とか雰囲気とかは、微塵もない。
それは、アニューが彼にとって特別だと言うことだ。
本当は、自分もニールにああ言う風に扱って欲しかったんだろうか。そして今、あの人にそっくりの彼に、本当はどう扱って欲しかったんだろう。妹みたいにして欲しいなら、もっと素直に親しみを込めて話し掛ければ良かった。恋の対象に見て欲しいなら、キスされたとき、引っ叩いて逃げるだけじゃなく、違うって叫べば良かった。
どうしたいかなんて、自分でも解からない。
そこまで思い巡らしたところで、ふと、何気なくこちらを振り返ったライルと、目が合った。
「……!」
まずい、と思ったけれど、今更逸らすことは出来なかった。
直後、目を見開いたライルの顔から、一瞬笑顔が消えた。
その様に、どき、と鼓動が跳ねて、胸の奥が痛くなる。
これは、何だろう。何で、痛みを感じているんだろう。
あの人がいなくなったとき、本当にどうして良いか解からないくらい苦しかった。
でも、今はそうじゃない。目の前に彼がいて、とても楽しそうに笑っているのに、どうしてまたフェルトの胸の中は痛んでいるんだろう。
苦しくて、息をすると胸が詰まる。失った訳じゃないのに、どうして―。
視線を合わせたそのまま動けないでいると、ライルが何だか困ったように笑みを浮かべるのが見えた。
終
01.24