Master Of Puppet
隣で横たわっているハレルヤの背に、アレルヤはそっと指先を伸ばした。
今日の彼は機嫌が悪い。丸くなった背中からはひしひしと殺気のような雰囲気が漂っている。
「ハレルヤ」
ゆさゆさと肩を揺さ振ると、ぎろ、と鋭い金色の目がこちらに向けられた。
「うるせぇ、話し掛けんなよ」
そんな釣れない態度には、もう慣れている。
でも。たまに少し寂しくなるのも事実だ。
「解かったよ、ハレルヤ」
そう呟きながらも、アレルヤは深い溜息を吐いた。
ハレルヤが、こんなことを言いながらも、アレルヤのことを特別に思っているのは知っている。でも、やっぱり少しは素直な彼も見たい。駄目でもともと、試してみる価値はあるかも知れない。ポケットの中に忍ばせた小さなコインを手の平で握り締めて、アレルヤはふっと口元を歪めて笑った。
少し前、コインを使った催眠術に見事に掛かってしまって、ハレルヤに凄くバカにされたけれど。片割れであるハレルヤだって、きっと掛かりやすいに違いない。アレルヤは一度ごくりと喉を鳴らすと、思い切って声を上げた。
「ハレルヤ」
「……」
「ハレルヤ、きみはぼくのものだよね」
「あ?何だ、アレル…」
言い掛けたハレルヤの粗暴な声は、目を上げた瞬間ぴたりと止まった。
「ハレレヤ。きみは今日、ぼくに本当の気持ちしか言わない。それでいいよね?」
「……」
ゆらゆら揺れるコインを、ハレルヤは黙って見詰めている。金色の目からいつもの覇気が少しずつ消えて、どこかとろりとしたように濁りを帯びて行く。もうそろそろ、いいかも知れない。
「ハレルヤ?」
返事を促すように声を掛けると、ハレルヤはまだぼうっとしたような目をしながら、それでも確かにこくんと頷いた。
「ああ…」
「…!ハレルヤ!」
アレルヤの顔がパッと輝く。いつものハレルヤなら、そんなことを素直に言う訳ない。と言うことは、確実に催眠術とやらに掛かっていると言うことだ。
アレルヤは勝手に弾んでしまう声を堪えながら続けた。
「じゃあ、ぼくのこと好きかい?」
「……」
単刀直入に聞くと、ハレルヤは何も言わず、代わりにバツが悪そうに目を逸らした。こんな仕草も表情も初めてだ。
「ハレルヤ、応えてよ」
優しいけれど有無を言わさない口調で急かすと、ハレルヤは目を逸らしたまま、ぽつりと呟いた。
「好きに、決まってんだろうが」
「ハレルヤ…」
心なしか頬が赤い。いつも見ることが出来ない表情に何だか堪らなくなって、アレルヤはそのままハレルヤを引き寄せ、唇をそっと塞いだ。
「んっ」
そのまま、抱き寄せた体に手の平を這わせると、喉の奥で小さく上がる声が聞こえた。
「じゃあ、今日はこう言うことしても怒らないってことだよね」
「……っ」
首筋に舌を這わせながら、シャツの裾から忍ばせた指先で、胸元の突起を軽く捻る。びく、と素直な反応を示して、ハレルヤはふぅっと大きく息を吐いた。そのまま、何度も弄くっていると、少しずつ突起は立ち上がり、ハレルヤが逃れるように胸を引く。
「逃げちゃ駄目じゃないか、ハレルヤ」
「んぁっ、…!」
言いながら、ぎゅっと押し潰すようにすると、ハレルヤは鳴き声のような声を漏らした。
「ア、レルヤ」
自分を呼ぶ声は、少しだけいつもの粗暴さを残してはいたけれど、快楽に酔っているのが良く解かる。シャツをぐいっと胸元まで捲り上げると、アレルヤは赤く染まった突起にも舌を這わせた。
「ぁッ…よ、せよ、アレルヤ…」
ハレルヤが身を捩って、アレルヤの髪の毛を軽く掴む。抗議の声を無視して徐に中心をなぞると、彼はそれ以上は何も言わなくなってしまった。ただ、胸元が先ほどよりも大きく上下して、呼吸が荒くなっているのが良く解かる。弄るように愛撫を続けていると、彼はたまらなくなったのか、腰を緩く浮かせて肢体をぐっと押し付けて来た。
「ハレルヤ」
積極的な仕草に煽られて、アレルヤも熱っぽく呟くと、ゆっくりと引き締まった体をその場に押し倒した。衣服を取り去って慣らす行為を繰り返すと、二の腕に力を込めて膝を立てさせる。
「ちゃんと足開いて」
「ん…っ」
声に応えるように、ハレルヤは肢体をゆっくりと割り開く。その奥に手を伸ばして、アレルヤはぐっと指先を潜り込ませた。
「はっ、…ぁぁ!」
低い掠れた声が上がって、ハレルヤの喉が仰け反る。そこに軽く歯を立てると、ひゅっと小さく喉が鳴った。中の感触を確かめるように指を抜き差しし、ぐるりと回すと、その度にハレルヤの腰が浮き上がる。
「あ…ぁ、くっ、ん…」
「気持ちいいかい、ハレルヤ」
「あっ、アレルヤ、早く、しろ」
「何を?」
「くっ、は…」
意地悪く尋ねながら指先で中を突くと、びく、と肢体が強張った。このまま焦らして反応を楽しみたいのはやまやまだけど、こちらの我慢もそろそろ限界だ。ゆっくりと唇を喉元からずらして、深いキスを落とすと、アレルヤも自身の衣服を緩めた。ハレルヤは行為の先をねだるように舌を絡めて、仔猫のように必死に吸い付いて来る。
「んっ、んっ」
夢中になってお互いの舌を絡めてキスを続けながら、アレルヤは宛がった場所に思い切り身を進めた。
ゆっくりと腰を叩き付けるスピードを上げて行くと、切れ切れに上がるハレルヤの声は段々と艶を帯びていく。蕩けたような金色の目を見詰めて、アレルヤの背筋にはぞくぞくと快感が走り抜けた。
「いつも、こうならいいのにね」
「んっ、う、あ…、あっ」
締め付ける内壁に限界へと引き摺られて彼の中へと注ぎ込むと、ハレルヤも刺激されたように腹の上に白濁を散らした。
その後。
気持ち良さそうに眠るアレルヤの横で、ゆっくりと身を起こしたハレルヤは、事態を把握してこれ以上ないほど怒りに震えていた。
「よくも、好き勝手しやがって」
呼び掛けても答えはない。けれど、容赦するつもりはない。これから、目にもの見せてやる。
「覚悟しろよ、アレルヤァ」
やたらと高揚した声で片割れの耳元に囁くと、ハレルヤは残酷な笑みを満面に浮かべた。
終