Monopoly




「ロックオン、知ってましたか?」
「え、な、何だよ」
「ぼくは、結構…独占欲が強いんですよ。だからかな、こう言うゲームは好きだし、得意です」
「へ…へぇ、そりゃ、何より」

(何よりって、何だ…)

見当違いな相槌を打ちながら、ロックオンは何だか嫌な悪寒が背中を伝うのを感じた。
何だろう、この真綿で締め付けるようなプレッシャーは。
いや、気のせいか。自意識過剰なだけか。
不安を振り払うように吐息を吐き出して、ロックオンは眉根を寄せた。



ここは、地上のアジトの一室。
昨日、アレルヤと一緒に飲もうと約束していたのに、街へ出て少しハメを外してしまったのだ。
何をしたと言う訳ではないのだけど、まぁ早く言うとアレルヤとの約束をすっぽかしてしまっのだ。
それに、酔っていたせいか、首筋には身に覚えのないキスマークなんてものまでついている。
よろよろになりながら帰ると、一晩中待っていたアレルヤにそれを見付かって、ロックオンは流石に申し訳なさでいっぱいになった。
そりゃ、飲もうなんて約束は軽いものだったけれど、まさか、待っていてくれたなんて。
連絡も何もないから、うっかりしていた。

「ああ、ええと、アレルヤ」

物凄く反省しながら口を開こうとすると、アレルヤの静かな声に遮られた。

「ロックオン。ちょっと、退屈していたんです。ゲームにでも、付き合って貰えませんか」
「え……?」

てっきり泣き付かれたり怒られたりすると思っていたので、あまりに予想外な言葉にぽかんとする。
どう反応して良いか困っていると、アレルヤはロックオンの手を引き、自室へと連れて来た。

そして、向かい合うこと数十分。
言い訳も何も出来ないまま、モノポリーなんてゲームの相手をさせられている。
どう言うつもりだ。そう声に出したいのに、何だか言い出せない。
何故かと言うと、気まずい空気が広がる中なのに、いつも口数の少ないアレルヤがやたらと饒舌だからだ。
例えば今も、カードを手で遊ばせながら問い掛けて来る。

「こう言うの、苦手ですか?ロックオン」
「いや、苦手って言うか、そうだな…得意では、ねぇかな…」
「少しずつ、少しずつ、自分の色に染めて行って、独占して行くゲーム。そうする為に、色々と頭を使って作戦を練るんですけどね…」
「あ、ああ……」
「楽しいんですよ、これがね」
「……」

ふふ、と口元を緩めて、アレルヤが笑う。

(う……)

ロックオンは嫌な悪寒を通り越して、嫌な汗が背を伝う気がした。
これは、自意識過剰なんかじゃない。確実に、静かに彼は怒っている。
優しい笑顔のままなのが、また何と言うか。

「あ、あのさ、アレルヤ…」
「ロックオン、あなたの番ですよ」

生殺しのような状況に耐え切れず声を上げると、さらりとかわされてしまった。

「は、はい…」

て、こんな状況でゲーム攻略に頭を捻る余裕などあるはずない。
額に汗を浮かべて眉根を寄せていると、アレルヤが再び口を開いた。

「でも、夢中になってダイスを振ってゲームを進めていると、やがてふと我に返る」
「え……」
「まだ、完全に手に入れるには惜しいとか、もっとゲームを楽しみたいとか。思う通りにならないときこそ、腕が冴えるからかな」
「ア、アレルヤ…っ」

何だか情けない声が出てしまった。
血の気が引いているような気さえする。こんなんじゃ年長者が形無しだ。
ロックオンがごくりと喉を鳴らすと、アレルヤは顔を上げ、困ったような笑みを浮かべた。

「やだな、ゲームの話ですよ。あくまで」
「あ、ああ…そう、だな。そうだった、な」

渇いた笑いを浮かべて応えながら。
ロックオンはもう二度とアレルヤを怒らせることはしないと、胸中で固く誓った。