夢想リアリズム




「ロックオン」

急に耳元で名前を呼ばれ、背後から体に腕を回された。
抱き締められているのではなく、ただしがみ付かれているのだと思った自分は、鈍いのだろうか。
けれど、それだけ…彼の行動はあまりに突発的だった。

「アレルヤ、どうした」

首を捩って背後の彼を見やる。
返事の代わりに、昂ぶりを示すように腰を押し付けられ、ロックオンはぎし、と動きを止めた。

「……アレルヤ?」

彼の下肢が熱を孕んでいるのが、服越しでもはっきりと解かる。
一体何が起きているのか。理解しろと言われても、無理だ。
ただ欲求不満で困り果てているのだと言うことは、何となく想像が付いた。
そりゃ、トレミーのクルーに手を出す訳にも行かないし、適当に遊んで発散するタイプにも見えない。一人で解消するには、どうしようもない日もあるだろう。

「な、んだ、アレルヤ…。手伝いでも、して欲しいのか?」

冗談で紛らわすつもりが、思ったより動揺した声になってしまった。
背後にいるせいで、アレルヤの表情が読み取れないせいだろうか。一体、何を考えているのか。
息を飲むロックオンの前で、彼は静かに口を開いた。

「いえ、そうじゃなくて…」

言いながら、アレルヤは更に凭れかかるように身を寄せた。
一層体が密着して、彼の熱い吐息が首筋に触れ、思わずびくりと身を揺らす。
まさか。いや、でも。
信じられないと言う思いが、ロックオンの反応を遅らせた。
まさか、彼が自分に欲情しているなど。
けれど、続く彼の言葉に曖昧な状況は打ち砕かれた。

「あなたを、抱きたい」
「アレルヤ…!?」

ハッとして声を上げた瞬間、ドサっと音がして、ベッドに押し倒された。
即座に圧し掛かる肢体に、思わず身が竦む。

「アレルヤ!待て!出来るか、んなことっ」
「絶対、酷いことはしない。だから」
「だからって、おい!」
「ロックオン、お願いです」
「ア、レルヤ…」
「ずっと、思っていた。あなたが欲しくて、夢にもみるくらい…」

降って来た視線は、思わず言葉を失うほどに真っ直ぐで、そして確実に欲望を孕んでいた。

「もう、それだけじゃ足りない。だから、どうしても…」
「アレルヤ…」

目を合わせた途端、体は金縛りにでもあったように、動けなくなってしまった。



後ろを容赦なく犯す指先が、無遠慮に動いて中を掻き回す。

「うっ、く、あ…!」

ばらばらに動かされる指に、ロックオンは呻き、ひたらすら痛みを堪えて歯をきつく噛み合わせた。
このままでは、本当に…。早く逃げなくては。
そう思っているのに、アレルヤは許してくれない。
やがて、ようやく指先が出て行き、ホッと力を抜いたのも束の間。
カチャカチャとベルトを外す音が聞こえて、ロックオンは息を飲んだ。
宛がわれたものの質量に、血の気が引く。

「……っ、待て!まだ、まだ無理だ、もっと…」
「ロックオン…」
「あ、……いッ!!」

拒絶する暇もなかった。強引に侵入して来た熱に、悲鳴が上がる。

「いっ…、あ、ああ…!!」

物凄い圧迫感と激痛に、ロックオンは必死でシーツを手繰り寄せてしがみ付いた。
勝手に浮き上がってくる涙で視界がぼやけ、一瞬自分が何をしているのかすら解からなくなる。

「ア、アレルヤ…っ!!い、たい!よせ!」
「……」

必死で苦痛を訴えても、アレルヤに聞き入れる気配はない。
まるで、更に煽られたように熱い吐息が吐かれ、腰を掴んでいた手が中心へと伸ばされた。

「な、に…を!あ、…っ!」

上がったのは短い吐息のような声。
アレルヤが直接中心に触れ、ゆっくりと愛撫を加え始めたのだ。
上下に扱かれ、撫で上げられ、ロックオンは強引に引きずり出される快感に恐怖した。

「は…、ぁ…よ、せ!」

いくら拒絶の言葉を吐いても、彼は聞かない。
濡れたような音が聞こえ出し、手の平の動きがスムーズになる。
四肢からは力が抜け、体は勝手に快楽の先にあるものを追おうとする。

「うあ!」

途端、ズズっと奥まで侵入され、ロックオンは呻いた。
身を硬くすると、また甘やかな刺激が始まる。まるで拷問だ。
少しずつ少しずつ、アレルヤは身を沈める。
ぐ、ぐ、と内壁を抉じ開けて下肢を犯す行為に、ロックオンはひたすらもがき続け、掴んでいたシーツは乱れてぐちゃぐちゃになった。

「あ、くぅ、う…!!」

もう、意味を成さない言葉しか上がらない。
足を割り開かれ、信じられない格好をさせられて、弟のような年の男に好き放題されている。
やがて、アレルヤは突き上げる速度を一層速め、肌のぶつかり合う音が規則正しく刻まれる。

「あ……っ!!」

直後、びゅく、と中へ叩き込まれた感触に、ロックオンは目を見開いて掠れた声を上げた。
中が浸るなど、考えたこともない。しかも、アレルヤ、彼のもので。
それでも、ようやく解放されると、頭のどこかでホッとした直後。
腰が抱かえられ、うつ伏せに転がされて、息を飲む。
再び足を開かれて、ロックオンは悲鳴のような声を上げた。

「アレルヤ!!もう、無理…!」
「さっきより、きっと楽に出来ますよ」
「あ…!何、言って…!」
「ほら、大丈夫でしょう」
「く……っ、つ……ッ!」

抗議の声は言葉にならなかった。
中へ吐き出されたもののせいで、確かに先ほどより抽送は楽になったが、圧迫感も痛みもなくなった訳じゃない。

「それに、まだいってないでしょう」
「は…う、あ…!」

アレルヤは腰を使いながら、ロックオンの中心にも指を絡め、動きに合わせて上下に擦り上げた。

「…っ!止め、よせ!」

もがけばもがくほど、アレルヤの指先が追いかけるように絡みつき、無理矢理快楽を引き出す。
痛みと交じり合って駆け上がる痺れに、ロックオンは抗うことも出来ずに翻弄された。

「ん、ん…、く、もう…っ」
「いいですよ、我慢しないで」

囁く吐息が、耳元に掛かった途端。

「ああ、あッ!!」

一際高い声を漏らして、ロックオンは限界へと達した。



がくりと力の抜けた体を、未だ圧し掛かったままのアレルヤが見下ろしている。

「ロックオン」

汗と涙に濡れた頬を、彼の指が優しくなぞる。
内部を犯されたままで、ロックオンは力なく首を横に振った。

「もう…、よせ…。頼むから」
「解かりました…」

少しの間の後、ゆっくりと引き抜かれたものに、ロックオンは喉を鳴らして呻いた。
どっと溢れた体液が、内股を伝ってシーツに零れ落ちる。
もう、指一本動かすことも出来ないのに。顎が捕まれ、唇がアレルヤのもので塞がれる。

「んぅ、ん……」

舌が掬い取られ、きつく吸われても、抵抗する力などない。
散々侵蝕した後、ゆっくりと唇を離すと、アレルヤは濡れた唇を指先でなぞった。

「あなたは、ぼくの……」
「……?」
「ぼくたちのものだ。そうだよね、ハレルヤ…」
「アレ、ルヤ…?」

不可解な言葉に目を見開く。
けれど、目に映る彼はいつもと変わらない、穏やかな笑みを浮かべていた。

「他の人には……許さないで下さいね。絶対に」
「アレルヤ……」

再び寄せられる温度を、成す術もなく受け入れながら。
ロックオンは間直に迫った彼の瞳が、今まで見たことのない、金の色に輝いていることに気付いた。