パラレル。黒アレ。生徒×教師。

優しい激情




放課後の校舎の廊下。不意に息苦しい視線を感じて、ロックオンは無意識に喉元を押さえた。
絡み付く視線に、蜘蛛の糸にでも捕らえられたような気になる。
意識するな。そう思う度、圧し掛かる重圧に吐き気が込み上げる。
彼が、こちらを見ている。アレルヤ。アレルヤ・ハプティズム。
名前を呟くと、鼓動が跳ね上がり、体の奥底に無理矢理刻み付けられた記憶がありありと蘇って来た。
眩暈がして、渇いた喉がひりひりと痛む。

大丈夫だ、落ち着け。
そんな言葉を暗示のように繰り返して、ロックオンは教員だけが出入り出来る部屋へ入り、鍵を掛けた。
生徒である彼が入って来ることは出来ない。だから、大丈夫だ。
よろめく足を叱咤して、デスクの方へ進む。投げ遣りに四肢を投げ出すと、ロックオンは髪の毛を掻き上げた。
苦い溜息が出て、思わず顔を覆ったそのとき。
不意にガチャ、と鍵を回す音がして、弾かれたように顔を上げる。
ゆっくりと開いた扉から姿を現した人物に、ロックオンは息を飲んだ。

「ア、アレルヤ……な、何で……」
「鍵が掛かってたから安心してた?甘いですね。口実くらい、何とでも」

ふ、と口元を歪めて、アレルヤは目の前に鍵の束をかざしてみせた。
スペアがあることくらい、知っているんでしょう?
揶揄するように言われて、ロックオンはごくりと喉を鳴らした。
どうやって借りたのか解からないけれど、優等生の彼の言うことだ、誰に何を言っても信用されるだろう。
そのまま、彼が後ろ手に鍵を掛ける。
カチャ、と金属の擦れる冷たい音が室内に響いて、背筋に冷たいものが走った。
頭で思い浮かべるより早く、刻み込まれた屈辱が体中を駆け巡る。
立ち上がって逃れる前に、ぐい、と腕を捉えられた。

「よせ!離せ、アレルヤっ!」
「いくらなんでも、そんなに騒いだら…外に聞こえてしまいますよ」

耳元で囁かれ、ロックオンは息を飲んだ。
アレルヤの声は優しい。優しくていつも残酷だ。
ひく、と震える喉元を、アレルヤの指先が愛しそうになぞる。

「それに、解かっているんだ。本当は、あなただって…」
「ち、がう」
「嫌がってなんか…いない筈だって」
「違う!」

否定の声にもお構いなく、襟元まで降りて来た指先にネクタイを緩められ、シャツのボタンを外され、ロックオンは首を打ち振った。

「や、め…こんなとこで、お前…っ」
「じゃあ、この前みたいに、あの場所がいい?」

あくまで優しく尋ねる声に、びくりと肩を揺らす。
あの場所。何を言っているのか、即座に悟った。
この前、いつ誰が来るか解からない場所で、半ば無理矢理に抱かれた。
恐怖と屈辱がありありとよみがえって、ロックオンは震える声を上げた。

「い、嫌だ…それ、だけは」
「良かった。ぼくも、嫌なんです、本当は」

肌を這い回る手の平。早急に駆け上がる欲求を、目を閉じてやり過ごす。
けれど、直接刺激を与えられてはどうすることも出来ない。

「んっ……嫌だ、アレル、ヤ」
「誰にも見せたくないんだ、あなたのこんな姿」

うっとりとした口調で言いながらも、衣服を緩め、下肢を撫でる手は止まらない。
首筋に唇が触れて吸い付く。ぞく、と痺れが走って、ロックオンは小さく身じろいだ。

「アレルヤ、頼む……離してくれ」
「駄目ですよ、諦めて下さい」
「……あ、っ」

懇願の言葉は一瞬で退けられ、代わりに両足が左右に押し広げられた。
耳朶に軽く歯が立てられ、アレルヤの指が足の奥へと伸びる。

「アレルヤ…っ!」

ハッとして身を硬くすると、彼はなだめるように声を上げた。

「大丈夫ですよ、力を抜いて」
「んっ、く……ぅ」

ひたすら優しい声。それなのに、じわじわと一枚ずつ皮膚を剥がされるように、少しずつ逃げ場がなくなる。
―解かっているんだ。
―本当は、あなただって。
アレルヤの台詞が頭の中に木霊する。否定出来ない自分に歯痒さを覚えるのに。
触れられたところから体が熱くなり、かたかたと震え出す手足は抗うのを忘れてしまったように重い。次の刺激を求めて、体の芯が勝手に疼く。

「アレ…ルヤ…」

やがて、ロックオンは遂に諦めたように顔を逸らし、屈辱に耐えて唇を噛み締めた。

「ロックオン…あなたは、ぼくのものだ」

完全に力を無くした四肢を見て、アレルヤは囁き、ロックオンの手の甲にそっと唇を押し付けた。