熱
じゃれつくように身を寄せるアレルヤに、ハレルヤはそっと眉根を寄せた。
昔からずっと、アレルヤはこうして戯れのように身を寄せて来ることがある。何かに傷付いたとき、迷っているとき。それは様々だ。ハレルヤから見れば、下らない理由だ。
だから今日も、ある程度時間が過ぎれば落ち着くのだと思っていた。
でも。最初は、背後から圧し掛かって来た肢体の熱さに違和感を覚えた。それから、背中にしがみ付くように触れていた手が、わき腹を伝って胸元を弄るように蠢いて、はっきりと異変を感じ取った。
「アレルヤ!」
咎めるように名前を呼んだときには、もう手遅れだった。
「う…ッ」
うつ伏せるようにして床に組み敷かれ、胸を打ちつけて息を飲んだ。片腕が捕らえられて、背後に捩じ上げられている。
「何だよ、どうしたってんだ」
探るように声を鋭くする。
いつも思い悩む憂いを帯びたグレイの目を、今は見ることが出来ない。アレルヤがどんな顔をしているのか、見えない。
「どうせまた下らねーことでもあったんだろうが?」
「……」
「アレルヤ、おい」
「……」
問い掛けても、彼は無言のままだ。苛立ちと同時に妙な不安を感じて、ハレルヤは声を荒げた。
「何とか言えよ、てめぇ!……っ?」
途端、シャツを捲り上げられて息を飲む。
胸元を弄る指先、突起を引っ掻いては摘むように動き回る手のひらに、ハレルヤは血の気が引くのを感じた。
「おい、アレルヤ!」
呼び声をかき消すように、首筋に押し当てられる熱い唇。
「……んっ」
ざらついた舌の感触が肌の上を這い、ハレルヤは小さく声を上げた。
「アレルヤ」
何を、とち狂ってやがる。降り注ぐ剥き出しの欲情に、ハレルヤは焦燥を浮かべた。
力は、互角なのだ。この体勢は、明らかに分が悪い。もがけばもがくほど押さえ込まれた腕がしなって痛みを感じる。肺が圧迫されて苦しいのに、床との隙間に無理矢理捩じ込まれた手に胸元を荒っぽく辿られ、息が荒くなる。
「ハレルヤ……」
「……っ」
やがて、耳元で熱い吐息と共に吐き出された声に、これから自分の身に何が起きようとしているのか、容易に想像出来た。
「う……っ」
強引に割り入って来た指先に、ハレルヤは低い呻きを漏らした。
体の中を抉られる痛みと屈辱は、相手がアレルヤでなければ到底許せるものではない。
事実、引き締まったハレルヤの四肢は与えられる痛みに酷く強張り、小刻みに震え出していた。それをなだめるように、あちこちに落とされたアレルヤのキスが、柔らかい刺激を与えながら這い回る。
「ふ…ぅっ、う、く、そ…」
声を堪え切れなくて悪態を吐くと、ふっと彼が笑う気配がした。
「こんなことして、後が怖いよね」
「わ、かってんじゃねぇか…ただじゃおかねぇぞ、てめぇ」
ぎら、と背後にいる見えない人物に視線を送る。こんなことでアレルヤが怯むとは思えないけれど、黙ってヤられているよりはマシだ。
でも、そんな些細な抵抗も意に介さず、アレルヤはただ穏やかな声を発した。
「じゃあ、仕返しなんて出来ないように、今のうちに足腰立たなくしてあげるよ」
「……!?え、おい…」
不穏な台詞にぎょっとして、思わず四肢を引き攣らせた途端。
中を弄っていた指先が強引に出て行った。
「ぅあっ!」
絡みつく内壁を無視して引き抜かれたそれに、ひくりと喉が鳴る。
けれど、文句を言う暇はなかった。指先の代わりに宛がわれたものに、すうっと息を飲む。
「アレルヤ、お前…!」
「いいよね、ハレルヤ…」
「…駄目だっつったら……どうする…」
「じゃあ…勝手にやるよ」
「あ、こら!てめ…!」
何を言っても、逆効果のような気がする。
さらりと言い捨てたアレルヤは、ハレルヤの腰を抱えて、無理矢理膝を立てさせた。あり得ない格好に、また悪態の一つでも吐こうと息を吸い込んだ直後。
「ああ…、ぁっ!」
ぐい、と割り入って来た熱に、ハレルヤは短く悲鳴を上げた。
「あっ、あ、…くぅ、は…っ!」
「ハレルヤ…」
「んぅ、く…っ!」
熱に浮かされたような声で名前を呼ばれ、抱えられた腰が容赦なく揺らされる。叩き付けられる熱が激しくて、崩れ落ちそうになる四肢をアレルヤが支える。
「いっ、つ…!あ…っ」
腰をぎりぎりまで引いては奥深くまで穿たれ、ハレルヤはその度に切れ切れの声を上げた。熱が引き抜かれる度痺れが駆け上がり、びくびくと引き攣る内壁がアレルヤを締め付ける。
「ハレル ヤ」
「あっ…あ、く…っ」
耳朶を甘く噛まれ、熱い吐息に侵された瞬間、ハレルヤの視界は真っ白に染まった。
「こんなやり方があるか、てめぇ!」
「ごめん、でも…普通にしたら断られると思ったから」
無茶苦茶な行為が済んだ後。
さっきまでの勢いなどどこかへ行ってしまったのか、物凄くしゅんとしているアレルヤに、ハレルヤは痛む体を堪えて怒鳴り声を上げた。
「くそ、腰いてぇ」
「ごめん、ハレルヤ。今度はもう少し丁寧にするから」
反省しているのかしていないのか解からないような言葉を掛けられて、ハレルヤは怒る気力もなくして溜息を吐いた。
「もういい、やるときはちゃんと言え」
「ああ、解かったよ、ハレルヤ」
どことなく嬉しそうな色を浮かべたアレルヤの片眸を認めて。ハレルヤは気だるさに引き摺られるようにそっと金の目を閉じた。
終