捻れ
「いっ…てっ」
突然、物凄い力で肩を掴まれ、ロックオンは走り抜けた痛みに眉を顰めた。
一体、自分の身に何が起きているのか。
確認しようと顔を上げると、暗い表情を湛えたアレルヤの顔が間近にあった。
「なん、だよ、どうした」
痛みを堪えながら、出来るだけ明るい声を発して問い掛ける。
でも、アレルヤから返答はなかった。
代わりに、更に掴まれた場所にぎり、と力を込められて、ロックオンは微かな声を漏らした。
「……っ」
一体、どうしたのだろう。
突然部屋に入ってくるなり、この行動だ。
何か、彼の気に障ることをしたのだろうか。
「おい、アレルヤ…」
もう一度名前を呼んだ途端、今度は側にあった壁に強く押し付けられた。
「うっ…!」
強く背中を打ち付けて、息が詰まる。
あの穏やかで優しいアレルヤが。こんなことをするなんて、本当に何が?
理不尽な扱いに対する怒りなどより、浮かび上がって来たのは純粋な疑問だ。
黙って彼の反応を待っていると、どの位経ってか、静かな声が聞こえた。
「どうして」
「……?」
「ぼくだけを見てくれるって、言ったのに」
「……え?」
感情を押し殺すような低い声に、ロックオンはただ目を見開いてアレルヤの顔を見詰めた。
彼が何を言っているのか、思い当たることはある。
恐らく、この前交わした会話だ。
あのとき。彼は今みたいなこんな状況じゃなく、もっと和やかで、二人の間に流れている空気は柔らかかった。
「ぼくは、あなたが好きだよ、ロックオン」
そんな風に告げるアレルヤは鼓動を高鳴らせている様がとても可愛くて、ロックオンは彼の気持ちを受け入れてやりたくなった。
元々、嫌いなんかじゃない。寧ろ、好きだったと思う。
穏やかで物腰が柔らかくて優しい。でも、どこか危なげなアレルヤ。
刹那たちとは別の意味で目が離せない存在だった。
受け入れて、いいと思った。
「俺もだよ、アレルヤ」
だからそんな風に答えたとき、彼は心底うれしそうに目を輝かせて笑った。
「本当に?ロックオン」
はにかんだ笑みを浮かべた顔はほんのりと赤く染まっている。
素直な反応が、何だか可愛くて、こちらも嬉しくなる。
「ああ、本当だぜ」
「じゃあ…、あなたも、ぼくだけを見て下さい」
ぼくが、するのと同じように。
彼はあのとき、そう言った。
それから今まで、彼の気持ちを裏切ったり踏み躙ったりしたつもりは微塵もない。
でも、アレルヤは、こうして思い詰めたような顔でロックオンを捉えたまま、離さない。
「アレルヤ、お前…」
何か、誤解しているんだろう。
呼び掛けようとした唇が、ぐっと強く彼の手の平で塞がれた。
「ん…っ?!」
あまりのことに驚いて、ただ目の前の人物に視線を送る。
「何も、聞きたくない」
「……?」
「ロックオン…。何も、言わないで下さい」
不可解な言葉に、大きく見開いた瞳に映り込んだのは、冷たい色のグレイの色だけだった。
「っ、やめ、ろ!アレルヤ!」
衣服は破られそうな勢いで取り去られ、ベッドに押し倒されている状況。
必死の声を上げたけれど、返って来たのは冷たい声だった。
「あなたがいけないんですよ、ロックオン」
「…っ、な、に…」
きつく押さえつけられた手首が酷く痛い。
もがいた弾みで腹に押し当てられた膝が深くめりこんで、吐き気に似た痛みが込み上げる。
抵抗はことごとく捩じ伏せられて、少しずつ、気力が失われて行く。
彼が何を誤解しているのか、どう思ってこんなことをしているのか。
それは解からないけれど、アレルヤのこの行為に、ロックオンは無意識に恐怖を感じた。
「あなたは皆に優しくて、皆のことを見てて…」
「ア、レルヤ?」
「でも、ぼくは…、そんなの嫌だ」
「あっ、い…、っ!」
徐に、ぐい、と後孔を押し広げられ、アレルヤの指先が潜り込む。
同時に、ぞくりと恐怖に似た悪寒が背筋を走り抜けた。
「ア、レルヤ、お前…っ」
まさか、こんな。
こんな状況で。このまま、彼は自分を?
「あ……っ」
がし、と掴まれた足が左右に割られ、ロックオンの目には怯えの色が浮かんだ。
「よ、せ…」
首をゆるゆると左右に振って、逃れようとするけれど、アレルヤは許さない。
開かれた足が上へと抱えられ、秘部が彼の目に晒される。
「…っ、や、め…」
ハッとして息を飲んだ瞬間に、押し当てられたものが強引に割り入って来た。
「う、ぐ…っ!」
ひ、と喉から息を吸い込む音と悲鳴が交じり合って上がった。
見開かれた目の前は真っ赤に染まり、何がなんだか解からなくなる。
そんな中、アレルヤは更に内壁を抉じ開けるように侵入して来た。
少しずつ身を沈められ、吐き気に似た痛みが込み上げる。
ぎゅっと目を閉じて、ロックオンは必死に首を左右に振った。
奥まで貫かれると、両足はがくがくと震え出し、勝手に浮き上がった涙で視界はぼやけていた。
「もう…ぬ、け…、アレルヤ…!」
「あなただって、男だ。このままじゃ済まないことくらい、解かるでしょう」
「……っ!」
静かな声で耳元に告げられ、ロックオンは息を飲んだ。
そうして、ゆっくりと中に埋め込まれたものが動き出して、息を詰める。
「ぅあ…っ!」
引き攣った声は、怯えのせいで震えていた。
情けない。何で、こんな。
そう思っても、どうしようもない。
アレルヤは必死の呼びかけにも耳を貸さす、ゆっくりと腰を揺らし始めた。
「くぅ…、あ…、あっ、あ…」
走り抜けた痛みと圧迫感に、途切れ途切れに声が上がる。
ず、ず、と粘膜の擦れる音と微かな水音。
アレルヤが律動を刻む度、耳元に聞こえるのはそんな音だ。
「うあ、あ…!ぁあ…!」
ロックオンが掠れた声を上げるのに比例して、アレルヤが熱の籠もった息を吐き出す。
腰を使う動きはより早くなり、ロックオンは吐き気を堪えて必死にシーツを握り締めた。
そのまま、幾度となく突き上げられ、思考が麻痺し掛けた頃。
「ロックオン、あなたの中で、このまま」
「…?!」
耳元で囁く熱い声に、ぞく、と背筋に寒気が走った。
息を弾ませた、恍惚としたアレルヤの声色。
「い、いやだ…、アレルヤ」
弱々しい声で懇願しても、動きは一向に止まらない。
それどころか、限界を迎える為に一層激しく腰を揺らされ、ロックオンは必死で首を左右に振った。
「止めろ!やめて、くれ!た、のむ!」
行為自体と言うよりも、こんなやり方は…。
せめて一度きちんと話したいと、なりふり構わず懇願すると、アレルヤは驚いたように一度動きを止め、そしてゆっくりと指先を伸ばしてロックオンの頬に触れた。
そこから唇まで、ゆっくりとなぞるように指をずらす。
そうして、優しいとすら思える視線でロックオンを見詰めた。
「あなたが、そんな風に言うなんて…」
「……?!」
「もっと、聞かせて下さいよ、そんな声を」
「……っ」
うっとりとした口調で告げ、アレルヤは再び残酷な動きを優しく開始した。
そうして、一段と奥まで突かれた直後。
中に叩き付けられたものに、ロックオンは愕然と目を見開いた。
「あ…、あぁ…」
信じられない、こんな、こんなことは。
こんなことを、アレルヤが…。
「はぁ…あ、はっ、あ…」
それでも、ようやく責め苦が終わるとホッと息を吐く。
呼吸を整えようと、ゆっくりと肩で息をしながら、ロックオンはゆっくりと目を開いた。
そこで、未だ尚彼の目に宿る光に気付いて、ロックオンは愕然としたように息を飲んだ。
「ア、レルヤ!」
ず、ず、と再び濡れた音が聞こえ始めて、悲鳴のような声を上げる。
「待て、アレルヤ!」
「……」
「お前!自分がしてること、解かってんのか!これは…!」
必死な叫びを上げたけれど、アレルヤはゆっくりと頷き、そしてその口元に柔らかい笑みを浮かべた。
「ええ、解かっています」
「……っ」
「解かってるよ、ロックオン」
「アレ、ルヤ…」
その声を耳にした途端、ロックオンはこれ以上抗うことが無意味なのだと思い知らされた。
息を詰めながら目を見開いて、圧し掛かるアレルヤに視線を向ける。
ずっと穏やかで冷酷に見えていた彼の顔は、改めて見直すと、ただ泣きそうになっている子供のようにしか見えなかった。何か脆くて危なげで。ロックオンは急に浮かび上がって来た感情に煽られるまま、ゆっくりと息を吐き、体の力を抜くように努めた。突っ張るように力を込めていた腕から、ゆっくりと力が抜けて、だらりとシーツの上に落ちる。
「ぼくは、あなたが好きだよ、ロックオン」
それを確認すると、少し前、耳にしたのと同じ言葉を耳元で囁き、彼は再び優しくロックオンの中を突き上げ始めた。
終