One More Step




「やれやれだな、本当に。今回は、危なかった」
「そうですね」

トリニティと名乗る連中が来なければ、確実に鹵獲されていたに違いない。
ロックオンの部屋で、ベッドに寝転んでいる彼を見下ろしながら、アレルヤも溜息混じりに返答をした。
それから、二、三言葉を交わした後。

「アレルヤ」

不意に、ロックオンは何かに気付いたように手を伸ばして、アレルヤの腕を引いた。
ベッドに腰掛けていた体が、バランスを崩して彼の上へと倒れ込む。
何事かと顔を上げると、いつになく真剣な眼差しに見詰められていた。

「そう言えばさ、大丈夫か、お前」
「…何が、です?」
「凄い苦しがってただろ、あのとき」
「ああ…」

超兵が来る、と言って頭を抱えたときのことだろう。
ロックオンは何も知らないはずだから、驚いたに違いない。
アレルヤは彼を心配させないように笑みを作った。

「もう、平気ですよ。すみません、心配かけて…」
「謝るなよ」

言いながら、ロックオンの指先が優しく髪を撫でた。
労りに満ちた、愛おしむような指の動きに、アレルヤは胸の中が熱くなった気がした。
今まで、こんな風に心底優しく扱われることなどなかったから。
自分の中に溢れている気持ちに気付くと同時に、アレルヤは声を上げた。

「ロックオン」
「ん……?」
「あの…今日は、ぼくがしてもいいですか」
「……え」

髪を撫でていた指先がぴたりと止まる。
遠慮がちに視線を向けると、意表を突かれたように目を見開いている彼が見えた。
まさか、そんなことを言われると思っていなかったのだろう。

「何となく…今日は、そうしたい」
「え、いや、でも…」

ロックオンの目は困惑の色に揺れ、彼の肢体はすうっと緊張するように強張った。

二人でそう言う関係に及んだとき、体に負担が掛かるからと言って、アレルヤは自らロックオンを受け入れることを望んだ。受け入れる方が身体の負担は大きい。アレルヤの体は屈強だ。だからそうすることにした。
でも、今日は何だか彼を征服したいと言う欲求が込み上げて止まらなかった。
けれど、彼は息を飲んだままでいつまで経っても返答してくれない。

「それとも、嫌ですか」
「い、いや…」

しゅん、と肩を落としながら言うと、ロックオンは慌てて返事を返し、又優しく髪を撫でてくれた。

「そんなんじゃない…。んな顔するな」



彼の承諾を得て、アレルヤの心は少なからず沸き立っていた。
彼と繋がれれば何でも良いと思っていた心境に変化が現れたのにも驚きだけど、今は素直にその欲求に従いたい。
何度か深いキスを交わした後、アレルヤはゆっくりとロックオンの衣服を緩めていった。

「よせ、そのくらい自分で…」
「いいから、今日はじっとしていて下さい」

妨害しようとする手を軽く払い除けて、衣服を捲り上げる。
いつも下から眺めている彼の体は、組み敷いて腕の中に納めるとやたらと艶めかしく扇情的に見えた。

「ん…っ」

指先で胸元にある突起をなぞり、首筋を吸い上げると、ロックオンがびく、と反応をして小さく声を漏らした。
初めて聞く、吐息のような声。アレルヤは知らずごくりと喉を鳴らした。
下衣を取り除いて両足を広げさせ、その奥に濡らした指先を差し入れると、彼の腰は大きく跳ね、狭いベッドの上で逃げるように浮き上がった。

「や、止めろ!そんなとこ…!」
「どうして?いつもしてくれているじゃないですか」
「どうしても何もない、駄目だ!」
「酷いですね、そんな」

ロックオンの言い分に苦い笑みを浮かべながらも、行為を途中で止める訳には行かない。
アレルヤはまだ狭くてきつい場所へ、ゆっくりと指を差し入れていった。

「…ぁ、あ…止め」
「ロックオン…」

少しずつ指を飲み込んで行くと同時に、ひく、と鳴って仰け反る喉元に、体温が上がるような気がする。
このまま何も考えず無茶苦茶に抱いてしまいたいけれど、彼を傷付けることは絶対にしたくない。
いつも彼が本当に丁寧にしてくれたように、自分も彼にそうしてあげたい。
アレルヤの指先は執拗なまでにロックオンの敏感な中を擦り上げ、撫で回し、直接刺激を送り込んだ。

「ぁ、あ…く、ん…」

その度に、彼は甘いような焦れったいような声を引っ切り無しに上げて身を捩った。
いつもの飄々とした様子からは想像も出来ない乱れように、アレルヤは息を飲んだ。

「凄い、こんな…」
「よ、よせ!もう…っ」
「でも…」

でも、止めたくない。

反射的に閉じようと力を込める内股を掴んで、逆に左右に押し広げる。
びくびくと引き攣る両腿は、快楽を訴えて切なげに震えていた。

「もういい、頼むから、アレルヤ!」

やがて、遂に羞恥に耐え切れなくなったのか、彼はシーツに顔を埋めながら必死に懇願して来た。
正直、彼がここまで猥らに反応を返して来るとは思っていなかった。
煽られ過ぎた欲望に、アレルヤも夢中だった。

「うッ…、は」

ゆっくりと慎重に身を沈めると、ロックオンは大きく息を吐き出した。
きゅっと寄せられた眉根が妙に悩ましくて、ドキ、と鼓動が高鳴る。

「痛くないですか?」
「大丈夫、だ…」

耳元で囁くと、彼は苦痛を逃がす為に短く息を吐きながら返答した。
本当に、大丈夫だろうか。額に浮き出ている汗は、明らかに痛みの為だと思う。
彼の反応を見ながら、すぐにでも腰を揺らしたいのを我慢して、奥まで侵入するのは本当に至難の業だった。
アレルヤの額にも幾つも汗の粒が浮き上がった。
それでも、初めて侵入した彼の中は温かくて柔らかくて、理性が削られそうになる。

「ロックオン、動きます」

そっと告げると、彼の頬が瞬時に朱に染まるのが見えた。

「い、いちいち言わなくていいんだよ、そんなことは…っ!」
「でも……」

でも、あなたはいつもそうしてくれるじゃないか。
そう言おうとして、アレルヤは口を噤んだ。
あまりに締め付けてひくつく内壁に言葉を奪われ、ただ湧き上がる劣情に煽られるのみになる。
小刻みに震える内股に手の平を滑らせ、ぐい、と左右に広げると、アレルヤは身を沈めて繋がりを深くした。

「んんっ…」

途端、ロックオンの背中がしなり、彼はぐっと手のひらで唇を塞いだ。

「駄目ですよ。声も、ちゃんと」
「お前、何…あ、っ…」

もしかしたら、こうして抱かせてくれるなんて、滅多にないかも知れないから。
アレルヤは手の平を覆っていたロックオンの手を捕まえて、ぎゅっとベッドに押し付けた。
ハっとしたように見開かれる目に、少し乱暴な衝動すら生まれてしまう。

「ロックオン…」
「ぁ…、はぁ…ァ…っ」

余裕のない声で名前を呼んで、ひたすら上がる声に酔いながら、アレルヤはゆっくりと彼の中を突き上げた。



その後。

「もう、嫌だ。絶対」
「え…?な、何で」

物凄く不機嫌そうに上がったロックオンの声に、アレルヤはがばりとベッドから身を起こした。

「何でじゃないだろ、お前…。もう止めろって言ったのに」
「すみません、でも…」
「でもも何もない!暫くはしないからな」
「……」

そっと顔を覗き込むと、白い耳朶が赤くなっているのが見えた。
怒っているから、と言う訳ではなさそうだ。
ただ、あまりに乱れてしまったことが気恥ずかしいのだろう。
それが解かってしまったので、アレルヤは素直に謝ろうとした言葉を飲み込んだ。
代わりに、もう一度彼の上に身を寄せて、涼しい声を発した。

「ぼくはそれでも構わないですよ。ただ、あなたに我慢が効くのか…」
「な…っ!随分と生意気になったもんだな、おい」

ロックオンは本当にちょっと怒ったように眉を吊り上げて、アレルヤの頬をぎゅっと指先で摘んで引っ張った。

「や、止めて下さいよ」

半ば本気で力を込められて、アレルヤは笑いながら顔を背けた。