Operation Mind5




昨日は、本当に最悪だった。
年下で、可愛いヤツだと思っていた男に、あんなことを。
力任せに組み敷かれ、抵抗なんて赤子の手を捻るみたいに簡単に捩じ伏せられて。
いや、でも。百歩譲って、そこまではいい。良くはないけれど、そう言うことにしておく。
問題は、快楽に呆気なく屈してしまったことだ。

―ロックオン。

優しく呼び掛けながら、アレルヤはロックオンを限界へと緩やかに追い詰め。
そして。そして、あんなことまで。
思わず咄嗟に手の平で口元を覆うと、誰も見ていないと言うのにロックオンは毛布の中に潜り込んだ。
自分のしたことが信じられない。
いや、それよりも。嫌がっていない自分が、一番信じられない。
アレルヤに、嫌悪など感じない。
男相手に。どうかしている。
けれど、触れられた感覚がいつまでも残って離れないし、いくら耳を塞いでも彼の優しい呼び声が残って消えない。

(勘弁、してくれよ!)

このままでは、どうにかなりそうだ。
いや、でも。どうして自分がこんな思いをしなくてはいけないのか。
悪いのは、全てあいつだ。アレルヤだ。
いや、でも…。
結局、悶々とする思いを抱えたままで、家にいても少しも落ち着けない。
しかも、今日は休みだが、明日はまたアレルヤの家に行く日だ。

(どうすりゃ、いいんだ)

何も自分が逃げることはない。
はっきり、言ってやればいいのだ。もう、あんなことはするなと。
それに、気になることもある。弟について、彼が言っていたこと。

―彼は、ぼくの中に。

どう言う意味なのか、確かめたい。
だから、あんなことの後に自分が彼の元へ訪れるのは、何も可笑しいことじゃない。
自分に言い聞かせては髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き混ぜ、ロックオンは葛藤に揺れた。
翌日。
結局行くことに決め、ロックオンはベッドからゆっくりと起き上がった。
頭をすっきりさせようとシャワーを浴びて、それから彼の家へ向かった。



「来てくれないと思いました」

ロックオンの姿を見るなり、アレルヤはそう言って、本当に嬉しそうに笑った。
もう、騙されるものかと思っても、この笑顔は、嘘だと思えない。
何だか、何かで胸を突かれたように感じて、ロックオンは息を飲み込んだ。

「お、まえが…あんなこと、しなきゃ、これからだって…」

しかも、そんな台詞まで吐いてしまう。
いや、もう止めろと言いに来たのだから、間違っていない。
ぎゅっと拳を握って、ロックオンは再びアレルヤの部屋に入った。

けれど、足を踏み入れた途端、自分が恐ろしく甘かったことに嫌でも気付かされた。
部屋に入って扉を閉めるなり、いきなり背後から逞しい腕に抱き締められてしまったのだ。

「アレルヤ!」

ぎゅっと、体を密着させられて、すうっと肢体が強張る。

「は、離せ…」

身を捩ると、アレルヤはますます腕に力を込め、そしてゆっくりと手の平を滑らせた。

「いい匂いですね」
「……え」

耳元で囁く声が、吐息になって肌を掠める。

「シャワー、浴びて来たんですか」
「アレル、ヤ…」
「もしかして、ぼくの為に?」

熱を孕んだ声に、びく、と肩が強張った。
中途半端に身じろぐくらいでは、アレルヤの腕を振り解くことなど出来ない。
それなのに、首筋に触れる熱に、四肢から力が抜ける。

「…そんな、つもりは」

掠れた声で訴えると、アレルヤが微かに笑う気配がした。
耳元に触れた唇が、そこへ柔らかく噛み付く。

「先生……この前の続きがしたい」
「……!」

甘く強請る声に、足元が震えた。
これでは、何の為にここへ来たのか解からない。
まるで、こうなることを望んでいたみたいだ。
ロックオンはごくりと喉を上下させ、震える声を吐き出した。

「ア、アレルヤ……駄目だ、駄目なんだ。そう言うことをするなら、もう俺は……」
「じゃあ、何でこの前の時点で止めなかったんですか」
「う…そ、それは…」

ばっさりと言われて、言葉に詰まる。
そうだ。本気で嫌なら、電話でも何でも、伝える手段は幾らでもあった。
でも、足は勝手にここへ向いてしまった。
黙っていると、やがてアレルヤの手の平が胸元を弄り出して、慌てて身を捩った。

「と、とにかく駄目だ!この前だって、あんな…!」
「この前は、ちゃんと我慢したじゃないですか」
「なっ、何が我慢だ、お前!俺は、死ぬほど苦しかったんだぞ!」
「ええ、余裕がなくて、可愛かった」
「か、可愛いだぁ…?」

さらりと言われて、ひく、と頬が引き攣る。

「先生…抱きたい」
「だ……」

抱きたい?!

その上、率直に告げられる欲求に、これ以上ないくらい体が強張る。
胸元を弄っていた手が、ぎゅっと衣服の上から胸の突起を摘んだ。
びくんと腰が揺れ、アレルヤに振動が伝わる。

「解かりますか、ここに…」
「んぁっ!」

そのままいきなり後ろに触れられ、ロックオンは思い切り変な声を上げてしまった。
でも、アレルヤに止まる気配はない。

「先生…本当に、可愛い」
「か、可愛いとか、言うな!何考えてんだ、お前は!」
「肌も綺麗だし、すべすべしてる…」

耳朶に絡みつく、熱い舌の感触。
腰が摺り寄せられ、彼のものが既に形を変えているのに気付く。

「アレ…ルヤ…」

ひく、と喉が鳴り、体の芯が勝手に熱く痺れるのが解かった。



この前と同じで、いつの間にかベッドに体が投げ出されている。
上に圧し掛かったアレルヤは、ロックオンの顎をそっと掴んで、自分の方を向かせた。

「……?」

頼りない視線を送ると、彼が口元を緩める。

「この前は、しなかったから」
「え……?」

目を見開いた途端、ぐい、と強く唇を塞がれた。

「ん、……う」

アレルヤと、男とキスをしている。何で、こんなことに。
混乱する内心にお構いなく、深く強く貪られ、呼吸もままならない。
アレルヤのキスは、静かな外見からは想像もつかないほど激しく、口内をあますところなく貪欲に味わう。

「んっ…、ふ…ん」

舌を絡め取られ、唾液を流し込まれ、ロックオンは合間に息を吸い込むだけで精一杯だった。



衣服が乱され、顕になった部分を好き勝手に蹂躙されている。
無理矢理引き出された快楽に酔い、必死で声を堪える。
やがて、先走りで濡れた指先が、内股を伝って一番奥へと伸ばされた。
ぎくりと硬くなった肢体にもお構いなく、無遠慮な指先は後孔を犯し、容赦なく掻き回した。

「痛くは、ないですか?」
「し、知るか!バカやろ…」
「じゃあ、もっと」
「あっ、…っ!!」

増えた質量に呻いても、アレルヤは手を止めない。
ちゃんと、慣らさないと。
当たり前のように告げられ、じわりと下腹部が疼いた。

暫くそんな行為を続けた後、指が引き抜かれ、アレルヤの手が白い内股を掴んで左右に広げる。
屈辱的な格好に悲鳴を上げそうだったけど、屈んだ彼の唇に塞がれて、何も言えなくなった。

「…っ!!…ああぁ!!」

けれど、次の瞬間走った衝撃には、堪え切れずに悲鳴を上げる。
指先などより圧倒的に多い質量に犯されて、背中は柔らかいベッドから大きく浮き上がった。

「うぅ…っ!アレ、ルヤ!」
「大丈夫、すぐ良くなります…」

優しい声でそう言われて、ロックオンは体の力を抜くことだけに集中した。

「く…っ、ぅ…っ」

胸元を、浮き上がった鎖骨を、アレルヤの熱い舌がなぞる。
そこから生まれる妙な感覚に、堪らなくなって夢中で彼の背にしがみ付いた。
そのまま容赦なく揺すり上げられて、徐々に痛みと快楽が交じり合って行く。
敏感な場所を刺激されて内壁を擦られ、息も出来ないほど深く口付けられ、ロックオンはひたすら掠れた声を上げ続けた。



「どう、すんだよ、お前と…こんなことになっちまって」

ぐったりとベッドに身を投げ出したまま、今更ながら頭が冷えて来て、溜息混じりに吐き出す。
呟きに気付いたアレルヤが、隣で身じろいでこちらを向いた。

「別にいいじゃないですか…。そんなに悲観しないで」
「よくねぇだろ、お前は一応…生徒だ。ああ、俺も家庭教師失格だな」
「いいんですよ、それで。それに、これからだって他の人の家で二人きりになったりしないで下さいよ」
「あ?何言って…」
「だから、無理言って何度も来て貰ってたんだから」
「え……あ」

バイトの日数が増やされたのは、そのせいなのか。
じゃあ、彼はいつからこんなつもりで?
戸惑いを浮かべて見詰めると、アレルヤはこちらの内心を察したように笑みを浮かべた。

「最初に会ったときからですよ」
「……っっ」
「一目惚れって言うんでしょうかね…。最初は、もっと、優しくしようと思っていたんですけど…」

この前は、無理をしてすみません。
素直に謝罪され、ロックオンは喉元まで出掛かっていた恨み言を飲み込んでしまった。

「でも、ハレルヤに聞いたんですよ、あなたのこと」
「え……?」
「ハレルヤ、もう一人のぼくです。一度会ったでしょう?夜の街で」
「え、あ……」

あのときのが、もう一人の彼?
まだよく飲み込めていないけれど、あれはアレルヤであって、アレルヤではなかったのか。
呆然とするロックオンに、彼の言葉は続く。

「それで、その…ハレルヤが、先生が他の人たちと凄く仲良さそうにしていたって、教えてくれたから」
「は……」
「腕を組んだり肩を組んだり、終いには抱き合ったりキスまでしたり…」
「え、…あ?」

ちょっと、待て。
呆然とした頭に正気が戻り、ロックオンは慌てて声を荒げた。

「ちょっと待てよ!俺は、んなことしてねぇぞ!」
「え?でも…」
「確かに酔ってたし…肩ぐらいは組んだ…でも、大学の友人だ、仕方ねえだろ。けど、キスなんか…!!」
「……!」

必死に弁解すると、アレルヤは本当に意表を突かれたように息を飲んだ。
グレイの目が見開かれて、ロックオンを真っ向から見詰める。

「本当なんですか、それ」
「当たり前だろ!」
「じゃあ、ハレルヤは…」
「……」
「……」

お互い顔を見合わせて、二人で黙り込んだ。
どうやら、そのハレルヤとやらに見事にハメられたらしい。
そう悟ると、アレルヤはハァ、と軽い溜息を吐いた。

「やってくれるよ、ハレルヤ…」
「な、何だよ!じゃあ俺は、誤解でこんな目に遭ったってのか?」
「いえ。それは違いますよ。いずれはこうしようと思っていたし…」

にっこりと微笑まれて、ぐっと息を詰める。
そのハレルヤもそうだが、アレルヤだって、相当油断ならない性格だ。
でも…咎める気なんて微塵も起きない。

「だから、先生…」
「先生は…もう、止めろよ」
「じゃあ、ロックオン」
「う、ああ…」
「好きですよ、ロックオン」
「……」

俺も…そうかも知れない。
うっかり口にしそうになって、ロックオンは言葉を飲み込んだ。
いつの間に、彼のペースに乗せられていたんだろう。
全く、どうしようもない。本当に、とんでもないヤツらだ。

「あなたが、好きですよ」

繰り返しそう告げられ、もう一度肌の上を這い出した手の平を、ロックオンは無言のまま受け入れた。

夏休みが終っても、きっと、また自分はここに来るだろう。
ぼんやりとした頭の中で、何だかそれだけは確信出来た。