Pathos(A)
押さえ込んで唇を塞ぐと、ロックオンの喉は飲み込んだ息の為に小さく鳴った。
「アレルヤっ」
思い切りアレルヤを突き飛ばし、名前を呼んだ彼の顔は、いつもの悠然とした姿からは想像出来ないほど酷くうろたえていた。
持ち上がった手が、ぐい、と唇を拭う。
何か言おうとしたのに、上手く言葉が出なかったのか。
彼はただ、白い喉をごくりと上下させた。
「あなたが、誰のものにもならなければ…それで良かった」
「……っ」
「なのに、どうして…」
一歩足を進めて距離を縮めると、ロックオンはずり、と後退した。
狭い部屋の中ではすぐに背中が壁についてしまい、あっという間に彼は逃げ場をなくす。
アレルヤは手を伸ばして、白く柔らかい肌に触れた。
「よせ、アレルヤ!」
直後、びく、と肩を揺らして、ロックオンはアレルヤの手を振り払った。
そのつもり、だっただろう。
逆にその手を捕まえて押さえ込むと、深いグリーンの目は驚愕に揺れた。
「んっ、う!」
空いた手でぐっと顎を掴んで、強引に唇を塞ぐ。
二度目の口付けは、アレルヤの胸を酷く高揚させ、異様な興奮を呼び起こした。
ずっと触れることなんてないと思っていたのに、彼が他の誰かに特別な感情を抱いているのを知ってしまった。
そのとき、アレルヤの中で何かが壊れたのだ。
「んぅ、う…ンっ!」
無理矢理唇を割って舌を捩じ込むと、ロックオンは必死にもがいて口付けから逃げようとした。
自分を壊した彼も、このまま、壊れてしまえばいい。
何かに酔うように思った瞬間、舌先にがり、と激しい痛みが走った。
「……っ」
痛みに顔を顰めながらも、アレルヤは彼の唇を解放しなかった。
余計に深く口内を貪ると、滲み出た血の味が舌先に溢れた。
「ん……んっ!」
歯を立てても口付けを止めないアレルヤに、ロックオンが目を見開いて息を飲む。
驚きはやがて怯えに変わり、彼の鼓動は合わせた胸板の奥でどくどくと煩く鳴り出した。
抗う気を奪われたのか、ややして舌先を噛む力はゆるりと抜けた。
同時に、必死に足掻いていた手も糸が切れたようにだらりと下へ落ちる。
アレルヤの情に、彼が飲み込まれたのだろうか。
それとも、ただ諦めただけなのか。
それは解からないけれど、もう止まる気はなかった。
細身の腰を抱き寄せると、彼の体は緊張に強張った。
深く口付けたまま、衣服を捲くり上げ、肌の上に手を滑らせる。
手触りの良い白い肌。
誰かがここに触れると言うなら。彼がこの白い手で、誰かに触れると言うなら、いっそ…。
痛い程強く胸元を弄り、突起を指先で押しつぶすと、小さく漏れる掠れた声がアレルヤの耳元に届いた。
ベルトを乱暴に引き抜き、下衣を引き摺り下ろす。
「や、めろ……アレルヤ」
そこで、彼は弱々しい拒絶の声を上げた。
けれど、その声にすらどうしようもなく煽られる。
「ロックオン。好きだ、あなたが…」
「アレ、ルヤ…」
呆然としたように名前を呼ぶ声。
そこに、いつもの飄々とした様子はない。
こんな彼を、初めて見る。
もっと、自分しか知らない彼を…。
「あなたが好きだ、ロックオン…」
夢心地に酔ったようにそう呟くと、溢れ出てくる欲求に煽られるまま…。
アレルヤは彼の足を割り開き、その最奥へと手を伸ばした。