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「よう、もう体は大丈夫なのか」
 そんな台詞と共に部屋を訪れた人物に、アレルヤは目を丸くした。
「……ロック、オン」
「災難だったなぁ、四年間もアロウズにとっ捕まってたなんて」
 彼は尚もそう言いながら、遠慮の欠片もない調子でずかずかと部屋の中まで入って来た。
 すとん、とベッドに腰を下ろす男に、アレルヤは呆けたような視線を向けた。
「……何か、用でも?」
 そう尋ねたのは、別に悪気があったからじゃない。
 明らかに不自然な感じがしたからだ。
 自分の感覚が、四年のブランクで錆び付いているのかとも思ったけれど、きっとそれだけじゃない。
 何となく、誘われるように隣に腰を下ろすと、ロックオンは人懐こい笑みを浮かべて見せた。
「ここの連中には、何だか避けられててね、教官殿も冷たいし」
「教官……」
 ティエリアのことだろうか。
 確かに、何度かティエリアとロックオンが会話しているのを見たけれど、そこに漂う雰囲気は酷く険しかったような気がする。
 一見すると、武力介入を始めた頃のティエリアとロックオンのようだけれど、でも、何かが違う。
「でさ、あんただったら、色々教えてくれんじゃないかと思ってね」
「……え?」
「まだ解からないことだらけなんだよ。なんせ、ここへ来てまだ数日なんだ」
「そう、だったね…」
 彼も、色々と不安があるのだろうか。
 飄々としているところは、あの人と変わらないように見えるけれど。
 でも……。
 ふと、妙な違和感を覚えて眉根を寄せた途端。
「しかし、あんたの目、綺麗な色してんなぁ」
「……?!」
 そんな言葉と共に、彼の手が側にまで伸ばされて、アレルヤはびくりと反応を返した。
 する、と頬を撫でるように彼の手が滑る。
 いつの間にか、いつもその手を覆っていたものは外されて、白い指先が露になっている。
 しかも、アレルヤがぼうっとしていると、彼の気配は更に寄って、翠色の双眸がぼやけるほど近くに見えた。
 瞬きをする間もなかった。
 次の瞬間には柔らかいものが口元に触れ、アレルヤは驚いて目を見開いた。
「……っ?!」
 ぐぐ、と強く押し付けられたものは、彼の唇だ。
 大きく開いた目には、あの懐かしい人物と同じ顔が映し出されている。
「ん……っ、ん……」
 何か言おうと唇を開くと、すかさずそこから温かい舌が潜り込んで来た。
 アレルヤの口内をじっくり味わうように、それが蠢く。
 暫くの間そうして、ようやく我に返って、アレルヤはロックオンの体を押し返した。
「どう言うつもりだい?」
 アレルヤが金と銀の目で睨み付けると、ロックオン・ストラトスはお互いの唾液で卑猥に濡れた唇を、赤い舌先でぺろ、と舐めた。
 その仕草にも、彼の目にも、誘うような色が明らかに浮かび上がっている。
 本当に、どう言うつもりだろう。
 いきなり、こんな。
 困惑するアレルヤに、彼は軽薄そうな笑みを浮かべた。
「どうもこうもないよ、そんなに警戒しなさんな」
「どう言うことだい……」
「お互いのこと知るには、こうするのが一番手っ取り早いだろ」
「ロックオン……」
 疑惑が確信に変わって、アレルヤは息を飲んだ。
「まさか……、他のクルーとも、こうしてるんじゃないだろうね」
「今んとこ、あんただけだね。あんたは綺麗な顔してるし、優しそうだし」
「それは、ぼくがすぐ落とせそうってことかい」
「人聞きが悪いこと言うなって」
 彼はそう言って、小さく肩を竦めた。
 でも、否定はしない。
 どんな思惑があるのか解からないけど。
「色仕掛けって訳かい……」
「あまり育ちが良くなくてね。もっとも、兄さんはそんなことしなかったかな?」
「……っ」
 彼の、兄。あの、アレルヤがよく見知っているロックオン・ストラトスの名前を出されて、思わず動きを止めた。
(ロックオン……)
 ロックオン・ストラトス……。
 胸中で呟く名前には、懐かしさと共に、未だ拭えない深い悲しみがある。
 その彼と同じ顔、同じ声をした男が、こうしてアレルヤに触れ、熱を帯びた目でこちらを見ている。
 でも。
「別に構わないよ。ぼくからは何も引き出せないはずだからね」
「だから、そんなに警戒しなさんな」
 ただ、愉しみたいだけだ。
 耳元で囁きを落として、ロックオンは再びアレルヤの唇を塞いだ。

 暫くの間そうして、深くお互いの唇を味わった後。
 ドサ、と言う音と共に、アレルヤは彼をベッドに組み敷いた。
 突然反転した景色に、彼の双眸が驚いたように見開かれる。
 アレルヤが彼の二の足を割って体を寄せると、ぎょっとしたように顔が引き攣った。
「あ……?なぁ、あんた……まさか」
「まさか、ぼくが黙って抱かれると思っていた?」
 そんなはず、ないじゃないか。
 恐る恐る尋ねる声を一喝して、アレルヤはロックオンの内股をゆるりと撫でた。
 酷く動揺したように彼の目が揺れるのを、視界の端で捕らえる。
 きっと、自分が組み敷かれるとは思っていなかったんだろう。
 でも、何か思惑があるのか。
 それで気が変わった様子はなく、彼はそのままアレルヤの手に体を委ねた。
「いいのかい?本当に」
 確かめるように言葉を落とすと、彼はゆっくりと首を縦に振った。
「お手柔らかに、アレルヤ」

 そして、数十分後。
「ん……っ、ぁ……ぅ」
 何度か中で果て、それでも尚ゆっくりと腰を揺らしていると、ひくひくと震える喉から甘い声が上がった。
 彼の綺麗な色の目は既に焦点が合っていなくて、恍惚としたような表情が浮かび上がっている。
 彼も何度限界を迎えたか解からない。
 アレルヤの手に追い上げられ、幾度も吐き出された白い体液が、腰の辺りまで淫らに濡らしていた。
 潤った肌の上に指先を置いて、つつ、となぞるように動かす。
「ロックオン」
「あっ、う……あッ」
 ささいな刺激にすら反応をして、彼はアレルヤの腕の中で身を捩った。
「も、もう……止め……」
 ゆるゆると、彼が首を左右に振る。
 白い肌は高潮し、呼吸は乱れて、酷く淫らな格好をしたロックオンの姿。
 彼を見下ろして、アレルヤは口元を緩めた。
「あなたが言い出したんだよ、ロックオン」
「んっ、あ、はぁ……けど、こんなっ」
「こんな?」
「ああ……っ!」
 ぐっと奥まで突き上げると、喉が仰け反ってびくんと肢体が揺れた。
 既に愛撫で赤く染まった胸の突起をぎゅっと指先で摘み上げると、ひゅっと息を吸い込む音がする。
「はっ、……ァ、四年も、幽閉されてて……、よくもこんな……」
「まぁ……、ぼくは超兵だからね」
「ちょう……へい」
 普通の人間なら、立つことも困難に違いないけれど、アレルヤには造作もない。
 それどころか、人の肌にも触れられず、当然のことながら欲求の解消すら出来なかった状態で。そんな自分の前に飛び込んで来たロックオンの存在は、格好の餌食のようなものだった。
 勿論、酷くするつもりなんてないけれど。
「んだよそれは……、聞いてねぇぞ!」
 恨みがましいような視線を向け、裏返った声を上げるロックオンに、アレルヤは優しい眼差しを向けた。
 「あなたはまだ……ぼくのことを何も知らない」
「く……、ぅっ!」
 ぐっと足を広げさせ、何もかも暴くように掻き抱く。
 この人は、良く見知っていたあのロックオンじゃないから。
 自分だって、彼のことを何も知らない。
 再び柔らかく吸い付いて来る内壁の感触を楽しみながら、アレルヤは息を弾ませて口を開いた。
「お互いのことは……これからよく知っていこうね、ロックオン」
「こんなことの最中に、言う台詞かよ!」
「全くだね……」
 同調するように笑みを浮かべて、アレルヤは引っ切り無しに声を上げる彼の唇を優しく塞いだ。