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ダブルオーのコックピットから降りると、未だコンテナに残って作業をしている沙慈が目に止まった。
「沙慈・クロスロード」
「刹那…。戻って、来たんだ」
「ああ…」
刹那が頷くと、沙慈はすぐに視線を伏せてしまった。
何だか、様子が可笑しい。
あんなことが立て続けに起きたのだから無理ないかも知れないけれど。
少し、疲れているのだろうか。
「どうかしたのか」
「い、いや、別に…」
刹那が尋ねると、沙慈は慌てたように首を横に振った。
その様子に、刹那が眉を寄せた途端。
沙慈の側にいた赤いハロが、刹那の問いに答えるように声を上げた。
「サミシイ!サミシイ!」
「……!!」
「寂しい…?」
「サジ、サミシイ!サジ、サミシイ!」
「あ、ちょ、ちょっと…!!」
沙慈はますます慌てふためいて、弁解するように刹那に向き直った。
「せ、刹那…、今のは、別に…」
「……寂しいのか」
「そ、そんなこと、ないけど…」
そう言って、沙慈は首から提げていた指輪を手の平で握り締めた。
でも、俯いた彼の横顔は、確かにどことなく寂しそうに見える。
(あの、指輪)
刹那の脳裏に、先刻会ったばかりのルイスの姿が浮かび上がった。
彼女の指には、同じようなデザインのものが嵌められていた。
「それは…」
「……え?」
刹那の視線の先に気付くと、沙慈は小さく肩を竦めてみせた。
「あ、ああ…、これ?ちょっと、訳ありでね」
それだけ言って、彼は口を噤んでしまった。
でも、彼の目には遠くを懐かしむような色が浮かび上がっていて、刹那は思わず目を細めた。何となく、沙慈のその表情が眩しいように感じたからだ。
過去を思い返しても、刹那はこんな顔をすることはない。
もっと痛くて苦くて、ずっと封印しておきたいと思うような、悪夢ばかりだった。
けれど、あのガンダムに会ってから、それは変わった。ソレスタルビーイングに入ってから。
でも、沙慈は…。
不意に、そっと手を持ち上げて、刹那は沙慈の手を掴んだ。
指輪を握り締めていた方の手を、片手で包み込むように捉える。
不意に触れた手袋越しのぬくもりに、彼は驚いたように目を見開いた。
「刹那?」
「色々と、すまない。俺たちのせいで」
「……きみが、そんな風に言うなんて」
本当に不思議そうに沙慈は言ったけれど、刹那の手を振り解こうとはしなかった。
そして、少しの沈黙の後。
遠慮がちな声が聞こえた。
「刹那、きみは?」
「……?」
「きみは…、寂しいと思うことは…ないの?」
「そう言う気持ちは、よく解からない」
即座に答えた刹那に沙慈は表情を曇らせ、視線を逸らした。
「そう、なんだ…」
ぎこちない沙慈の声。
刹那に対して、どこか気遣うような色が含まれている。
沙慈・クロスロード。
刹那のことで涙を流したマリナ・イスマイールも彼も、自分にとっては戻ることの出来ない過去の象徴のようだ。
でも、こうして触れている温もりはとても優しくて心地良くて、出来ることならずっと触れていたいと思った。
終