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「はぁ〜……」
何だか、肩が凝った。
無意識に首を左右に傾けながら、沙慈は深い溜息を吐いた。
このところ、何だか無性に刹那のことで奔走していた気がする。
始まりは確か、数日前のことだった。刹那が、ラッセのような逞しい体型になろとうと無茶な筋トレをし過ぎて、倒れてしまった。それだけじゃない。髪の毛をフェルトと同じピンクに染めようとまでした。
それもこれも、沙慈が余計な一言を言ったせいだ。あくまで、何気なく言っただけだったのに。
でも、それだけならまだいい。
一昨日は一昨日で、ミレイナが女の子らしくて可愛いと褒めただけで、大変なことになった。
「せ、刹那!その髪の長さでツインテールは無理、無理だから!」
そう言って、鏡の前で奮闘する刹那を必死に止める羽目になってしまった。
またある時は、スメラギが読んでいた雑誌に載っていた占いで、恋愛運のラッキーカラーがオレンジと言うだけで、アレルヤの制服を無理矢理引っぺがしそうになった。
それを止める沙慈もだけど、周りの皆も結構な被害を被っていることは、解かっている。
しかも、その理由が自分にあることも、皆、何となく知っている。
「あんまり、刹那に無茶させんなよ」
擦れ違いざま、ラッセにそう言われて、軽く肩を叩かれたりした。
(やっぱり、ぼくのせいなのか)
そんなことを考えたけど、いまいちピンと来ない。
でも、周りは放っておいてくれない。
さっきなんて――。
「クロスロードさん!セイエイさんは、セイエイさんはあんなに一生懸命なんですよ!何とも思わないのですか!」
涙を目にいっぱい溜めたミレイナにそう詰られ、スメラギにも厳しい顔で説教され、すっかり落ち込んでしまった。
自分が悪いのだろうか。
(い、いや、そんなはずない!)
自分は、悪くないはず!だって――。
そこまで思い巡らしたところで、ふと、曲がり角の向こう側に立っている人影に気付いた。あの黒い髪の毛は、間違いない。刹那だ。今日こそは、何もないといいけど。
そんなことを思いながら通路を進んでいると、刹那が待ち構えていたように、沙慈の目の前にバサっと花束を差し出した。
「受け取れ、沙慈」
「え……、あ……」
あまりのことに呆気に取られたまま、沙慈は反射的に花束を受け取った。そう言えば、スメラギが読んでいた雑誌に、恋愛運のラッキーアイテムは花束だと書いてあった。それで、こんなことを。
(刹那……)
彼の気持ちは嬉しい。嬉しいけど、でも!
今まで燻っていたものが一気に溢れて、沙慈はついに刹那に向かって声を荒げていた。
「もう、止めてくれよ、刹那!」
「……!沙慈……」
「こんなの、全然きみらしくない。こんなの、きみじゃないよ!」
「………」
「前にも言ったじゃないか、きみは、そのままでいいんだって」
「沙慈……」
「ぼ、ぼくは、そのままのきみが……」
そこまで言ったところで、ぐい、と引き寄せられて、気付いたら刹那の腕に抱き締められていた。
「せ、刹那……」
きっと、彼は沙慈の気持ちを解かってくれたんだ。
そう思うと、ホッとして、思わず力が抜けてしまった。
数日後。
「クロスロードさん!良かったです!恋の花が咲いたです!」
「やれやれ、これでぼくも刹那に無理矢理脱がされることはなさそうだよ」
「はぁ、ようやくミッションに専念出来るわね」
なんて皆に口々に言われて、顔から火が出そうだったけれど、刹那がいつも通りになってくれたことを思うと、何てことないと思えた。
おわり☆