DVDおまけの二期予告絡み。相変わらずギャグ風。

SS




そのやり取りを聞いてしまったのは、本当に偶然だった。

最近、沙慈は割りと自由にアジトの中を動き回っていた。
イアンを手伝って整備をすることもあれば、何故か掃除や洗濯までさせられている。
その日も、刹那の分の洗濯物を部屋に運んでくれとスメラギに頼まれて、何だか複雑な面持ちのまま、彼の部屋へと向かっていた。
長い廊下の曲がり角に差し掛かった、そのとき。
不意に、その向こうから刹那の声が聞こえて来た。

「俺と、結婚してくれ」

(……?!)

その台詞に、沙慈はぴたりと足を止めた。
今までに聞いたこともないような、刹那の優しい声。
一体、誰と話しているのだろうか。
どくどくと鼓動が早くなるのを無理に押さえ込んで、そっと壁際に身を寄せる。
思わず耳を済ませて息を詰めていると、続いて聞こえて来た声に愕然としてしまった。

「ぼくは、ロボットだ、それでも?」
「構わない…。俺も、ガンダムだ」

(あの、声は…)

間違いない。
ティエリア…、ティエリア・アーデの声だ。

「せ、刹那…、どうして…」

今まで、自分にあんなことを言っていたのは、一体なんだったのか。
ファースト・ミッションだとか言って無理矢理行為に及んでしまったのだって、最初は許せなかった。
でも、この前はあんな風に言ってくれて、沙慈も何となく彼を許そうと思っていたのに。
それに、こんなにショックを受けているなんて。
今初めて気付いたけれど、刹那のことを、少しは好きだったのかも知れない。

「……そんな」

抱えていた洗濯物をバサバサと床に取り落とすと、沙慈はがっくりと力が抜けたようにその場に崩れ落ちてしまった。



その後。

「沙慈・クロスロード。食事だ」

夕飯を持って来てくれた刹那に、沙慈はベッドに蹲ったままで首を振った。

「いらないよ」
「……どうした」
「…っ、近寄らないでくれ!」

異変に気付いたのか、こちらに足を進めてきた刹那を、沙慈は強い態度で拒絶した。

「沙慈…?」
「もう、ここから出してくれ。家に、帰らせてくれよ」
「何を言っている。俺との結婚は…」
「きみは、あの人とするんだろ。だったら、ぼくがここにいる必要なんて…!」

そこまで言って、沙慈は抱えた膝に顔を埋めた。
これで良かったんだ。
だいたい、刹那と結婚なんて、冷静に考えたら可笑しい。
いや、冷静にならなくてもちょっと問題ありだ。
でも、これであのドレスも着なくて済むし、何もかも解決だ。
なのに、何でこんなにすっきりしないんだろう。

そんなことをぐるぐると考えていると、ややして刹那の静かな声が聞こえて来た。

「沙慈・クロスロード。それは誤解だ」
「…?誤解…」
「お前は、勘違いをしている」
「どう言う、意味?」

ゆっくりと顔を上げ、刹那の顔を見つめると、いつになく真剣な眼差しが沙慈をじっと見詰めていた。
続く言葉を待ってぐっと息を詰めると、刹那はゆっくりと話し始めてくれた。

彼の話では、とにかく何から何まで性急過ぎて沙慈が可哀想だと、スメラギに怒られてしまった。それで、沙慈との関係を一から仕切り直す決意を固めた。
要するに改めてプロポーズをしようと思い、その練習をティエリアとしているところだった、と言う訳らしい。
それにしては、彼らの台詞はちょっと可笑しかったと思うけど、それはなかったことにしよう。

「そう、だったんだ…、刹那…」

何で、こんなにホッとしているのだと思いつつ、沙慈は思わず笑顔を浮かべていた。
沙慈の笑みに気付いた刹那も、安堵したように吐息を吐いて、止めていた足を進めた。

「解かってくれたのか。沙慈・クロスロード」
「う、うん…」

急に今までの態度が気恥ずかしくなって、沙慈は頷きながらも顔を背けた。
けれどその顎が刹那に捉えられて、彼の方を向かされる。

「沙慈…」
「せ、つな…、んっ…」

ゆっくりと柔らかくて温かいものが唇に触れて、沙慈はぎゅっと目を閉じた。
初めてしたときより、刹那のキスは少しだけ優しかった。
沙慈の腕を捕まえて、壁に押さえ付けて、ゆっくりと味わうようにしている。
やがてその手が離れて腕は解放されたけれど、何故か抵抗する気にはならなかった。
刹那の指先がそっと沙慈のシャツの襟元に掛かり、ぷつりとボタンを外しても、何故か。

「セカンド・ミッションだ、沙慈」
「せ、刹那…」

直後、背中に柔らかいベッドの感触がして、刹那の体温が降って来た。



「ミレイナは見ちゃ駄目」
「あ…、は、はいです!」

扉の隙間から中を伺いつつ、そんなやり取りをしながら去って行った女性陣にはやっぱり気付かず…。
何だかんだで刹那の言うミッションとやらに突入してしまったので、プロポーズの言葉も聞けなかったけれど…。
沙慈と刹那の心の距離は、またちょっとだけ縮まった。