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―いいのか、沙慈・クロスロード。お前は、ガンダムを…。

先刻、刹那に言われた台詞を思い出して、沙慈はモニターを見詰めながらぼうっとしていた。

戦闘は一先ず落ち着いて、トレミーの中も静かになった。
でも、これは一時的なものだと解かっている。またきっと、戦うことになる。
先ほどの戦闘では、とにかくじっとなんてしていられなかった。
何かしなくてはいけないと思った。
結局、引き金を弾くことはできなかったけれど、自分に出来ることは他にもあると思う。
例えば、ガンダムの整備を手伝ったり…。
これは、戦いに参加していることになるのだろうか。
でも、守りたいと思ったから、行動した。
何かを守りたいと思うから引き金を弾くことも、あるのかも知れない。

刹那は、どうなんだろう。
刹那・F・セイエイ。
彼ともっと、話をしたい。

いいのか、お前はガンダムを…、ガンダムを憎んでいるのに。
彼は恐らく、そう言おうとしたのだろう。
あんな場面でも、沙慈の気持ちを汲んで、ああ言う風に言ってくれたのだとしたら…。

「刹那……」

思わず、ぽつりと小さく名前を呟いて、沙慈は視線を伏せた。

沙慈には、刹那の気持ちなど解からない。
今まで、どう言う風に生きて来たのか。
4年前、日本で会っていたときから、あんな小さな体で戦っていたなんて、信じられない。
どう言う経緯でそんな風になったのだろう。
イアンが言っていた。ゲリラに仕立て上げられた者がいると。
刹那は、そうなのだろうか。
沙慈が世界を知らないと、ティエリア・アーデが言ったのは、そう言うことなのか。

それに、あの刹那の笑顔。
初めて見る、優しい顔だった。
先ほど見た彼の笑顔が脳裏にくっきりと浮かび上がった途端、とくん、と心臓の音が大きく鳴ったようで、沙慈は思わず首を打ち振った。
弾みで、首筋で頼りなく揺れた指輪が、小さな音を立てる。
ゆらゆらとおぼつかない動き。
まるで、今の自分の立場のようだ。
何だか急に居た堪れなくなって、沙慈は腕を上げて指輪を強く手の中に握り締めた。

「ルイス……、ぼくにはよく…解からないよ」

迷いのようなものが生まれている。
それは、罪悪感から来るものだけじゃない。
きっと、あの、刹那と言う存在のせいだ。

目を閉じると、瞼の裏には懐かしいあの子の笑顔と、先ほど見た刹那の笑顔が交互に浮かび上がった。