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今日の夕食は何にしよう。
刹那の喜ぶ顔が見たいから、毎日マリナは考えに考えて、腕によりをかけて料理を作る。
と言っても、相変わらずあまり率直な感想は言って貰えないけれど。残さず食べてくれるだけで、本当に嬉しい。
そして、それが何よりも幸せだと思っていたのだけど…。
ある日、それが大きく揺らぐ事件が起きた。

恒例となっている夕飯の買い物を終えて帰路に着く途中、マリナは信号待ちで何人かの女の子たちと一緒になった。
彼女たちが楽しそうに話しているのは恋人やら好きな人の話。
聞き耳を立てなくても、マリナの耳にまで会話が聞こえて来る。

「それで、昨日も全然連絡取れなくて…。でも、ご飯作って待ってるってメールしたら来てくれたんだけど…」
「へぇ、良かったじゃない」

(……)

何となく、タイムリーな話題だ。
自分も、刹那の為にいつもご飯を作って待っているから、よく解かる。
思わずうんうんと頷いたマリナだったけれど。
続く会話に呆然とするハメになった。

「でも、それから…食べたらすぐどっか行っちゃって…」

一人の女の子がそう言って俯くと、隣にいた女の子が迷った末、言い辛そうに口を開いた。

「何か、それって…家政婦っぽくない?」

(か、家政婦…!?)

「ご飯作ってなきゃ価値ないって言うか」
「そうかな、やっぱり…」

(ええ!?)

「もう次の人見つけようかな」
「その方がいいよ!」

(…そっ、そんな!!)

実際に言われた本人よりもショックを受け―。
彼女たちが去った後も、マリナは呆然と立ち尽くし、挙句の果てには買い物袋をドスンと地面に落としてしまった。



ふらふらになりながらも取り敢えず帰宅して、マリナはすとんとソファに腰を下ろした。

(何の価値もないだなんて…)

そんなはずない。
落ち着いて…落ち着くのよマリナ。

(ご飯を作る以外で、わたしに…出来ること…)

よく考えてみると、すぐに色々浮かんで来た。
洗濯に買い物、それに掃除も…。

(ほ、ほら、色々あるわ!何もご飯だけじゃ…)

ホッとしかけたところで、先ほどの少女たちの会話が浮かんだ。

―それって、家政婦っぽくない?

「……!!」

家政婦とは、確か…正にそう言うことをする人では?

―家政婦っぽくない?
―家政婦っぽく…。

(うう…っ)

「どうしてわたしは…こんなに無力なの…」

頭の中にその部分だけが何度も何度も木霊して、マリナはついにソファからずるずる滑り落ちて床に膝を付いてしまった。




04.17