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刹那は学校から帰って来るなり、真っ暗なままの部屋に眉を顰めた。
何事だろう。
そっとリビングを覗いてみると、電気の点いていない部屋に義理の姉のマリナが丸く蹲って膝を抱えていた。
ただならぬ彼女の後姿を見詰めて、刹那は何度か瞬きをした。

(マリナ…)

どうやら、またしても何か辛いことがあったらしい。
ぶつぶつと聞こえて来る単語は、掃除とか洗濯とか食事とか…。
察するに、何か家事のことで悩んでいるのだろうか。

部屋へ戻ってからも、何度か様子を見に行ってみたけれど、何時間経っても変化がなかった。

「……」

これは、またちょっと困ったことになった。
マリナがこうだと、刹那も何だか元気がなくなる。
それに、ご飯がいつまで経っても食べれない。
早く、マリナに元気を出して欲しい。
前は、どうだっただろう。
確か、カップラーメンを作って渡したら、喜んでくれて元気になった。

刹那は少し考えて、滅多に入らないキッチンへすたすたと足を進めた。
冷蔵庫を開けて、中を覗いてみる。
中には色々な食材が入っていたけれど、刹那の目に止まったのは卵だった。
何故か、一、二個つぶれていたので、無事なものを数個取り出す。
卵料理くらいなら、刹那にも出来そうだ。
いつもマリナは、朝にオムレツとか目玉焼きを作ってくれる。
刹那は頭の中で何度かシミュレーションすると、卵を割ってフライパンを火に掛け油を引いた。
けれど、フライパンを温め過ぎたせいか、それとも加減が解からず油を大量に入れてしまったせいか。
卵を流し込んだときに物凄い音がして、刹那はびくっと肩を揺らしてしまった。

「……っ」

しかも、油が跳ねて顔に掛かって凄く熱い。
更には、ここから一体どうして良いのか全然解からない。
でも、諦める訳にはいかない。

「ま、まだ…っ!」

ぐい、と顔についた油を拭って、刹那はキッとフライパンを睨み付けた。
けれど、そこで流石に騒ぎに気付いたのか、マリナが走って来る足音がした。

「せ、刹那?!どうしたの!!」

慌ててキッチンに飛び込んで来た彼女は、すぐに状況を察したらしい。

「あ、危ないわ。ちょっと貸してね、刹那」

そう言って、彼女は刹那の手からフライパンを受け取ると、あっと言う間にフライ返しでくるくると卵を纏めてしまった。
刹那はあんなに苦労したのに、こんなにあっさりと。

「これでいいわね…。刹那、お皿取ってくれるかしら」

言われるまま、平たいお皿を差し出すと、刹那は口元に笑みを浮かべた。

「ありがとう、凄いな」
「…!せ、刹那…」

刹那の顔を見て、マリナは驚いたように目を見開いた。
そして、少しの間の後。

「わたしこそ、ありがとう」
「……?」

突然そんなことを言われて、刹那も少し驚く。

「あなたが笑ってくれると、本当に全部吹き飛んでしまうわ」

首を傾げる刹那にそう言って、マリナは優しく笑ってくれた。




04.17