+ティエリア+ロックオン。
3と19絡み。

SS




「刹那・F・セイエイ。きみに聞きたいことがある」

突然、放課後そんな言葉を掛けられて、まだ椅子に座っていた刹那はゆっくりと顔を上げた。
目の前には、同じクラスのティエリア・アーデの姿。
彼は怒ったような顔で整った目を吊り上げており、その口調もきつい。

「…何だ」

素っ気無くいつも通りに返事をすると、ティエリアはバン!と刹那の机を両手で叩いた。

「しらばっくれないで貰おう。刹那・F・セイエイ。きみが、不純異性交友をしていると言う噂がある、しかも、複数の女性とだ!」
「何のことか解からないな」

さらりとした口調で即座に返答すると、ティエリアの目は増々きつくなった。

「しらばっくれるなと言っている。そんなことは、学級委員であるこの俺が許さない」

きっぱりと言われ、刹那は眉根を寄せた。
ちょっと考えてみて、少しだけど思い当たることがあった。
でも、それは誤解もいいところだ。

「ネーナ・トリニティのことを言っているなら、誤解だ。俺は何もしていない」
「きみが彼女とキスをしていたのは、クラス全員が知っている」
「あくまで一方的だった。俺に弁解する必要はない」

そう言うと、ティエリアはぐっと息を詰めた。
でも、すぐにその表情に余裕の笑みを浮かべ、ポケットから一枚の写真を取り出した。

「では、この女性とは?」
「……」

彼の差し出した写真を見て、刹那はぱちぱちと瞬きをした。
写真に写っているのは、紛れもない。今日の朝も笑顔で自分を送り出してくれた、義理の姉、マリナだ。

「マリナがどうかしたのか」
「ふっ、認めたな。きみはこの女性と、こともあろうか同棲しているそうだな」
「どうせい、とは」

何が何だか、と言う顔をして聞き返したけれど、ティエリアは聞いてない。

「それだけじゃない。ネーナ・トリニティとその兄の証言から、きみが彼女の…」

そこで一度こほんと咳払いをして、ティエリアは続けた。

「きみが彼女と如何わしい行為をしていると聞いている」
「そんなことはしていない」
「では何故、きみは彼女の胸のサイズを知っているのだ」
「………」

刹那はまた少し考えて、それで思い当たることがあった。
この前、ネーナの兄のミハエルが家を訪ねて来たときのことだろう。
マリナのことを侮辱するような発言に、少しカッとしてしまった。
ネーナの方が発育が良くて、マリナはそうではない、と言うようなこと。
結果的にはフォローに失敗した訳なのだけど、そのとき、確かに関節的にだが、マリナの胸のサイズについて触れた。

「どうなんだ、刹那・F・セイエイ」

ティエリアに促されて、刹那は真っ直ぐな眼差しを上げた。
どうして、そのことを知っているのか。
そんなこと、答えは一つしかない。

「簡単だ。俺が、彼女のベッドに潜り込んだときに知った」
「…?!な、何だと!」
「枕の代わりにしようと頭を乗せたが、上手くいかなかった。だからだ」
「き、貴様!そんなことを、よくもぬけぬけと!」

刹那にしてみれば、以前マリナのベッドに潜り込んだのは、本当にただ寒さを凌ぎたかっただけで、全く他意はない。
でも、そうとは知らないティエリアは、あまりの事実に酷くショックを受けたようだった。

「ま、まさか、このクラスで…そんなことを許してしまうなんて、ぼくが、ぼくともあろうものが」
「ティエリア・アーデ…」

何だか突然、ぶるぶると震えだしてしまったティエリアに、刹那は心配そうに眉根を寄せた。
そのとき。

「おい、何してんだ、お前ら」

そんな声と共に、担任のロックオン・ストラトスが側にやって来た。

「ロックオン…」
「何かあったのか?」

刹那が事情を話すと、ロックオンは何となく察してくれたようだった。

「大丈夫だ、ティエリア、その人なら刹那の義理の姉だ。それになぁ、そんなに気に病むことじゃねぇよ。だいたいそれくらいはさ…刹那じゃなくても皆やって…」
「あなたは黙っていろ!」

軽薄な発言が許せなかったのか、キっと涙ぐんだ視線を向けて、ティエリアは猛烈な勢いで走って行ってしまった。

「やれやれ、生真面目なのはいいことなんだけどなぁ…」

ロックオンは小さく肩を竦め、それから刹那に向き直った。

「刹那。でも、本当か?お姉さんのベッドに潜り込んだって」
「ああ」
「何で、そんな…」
「温かかったからだ」
「…!へ、へぇ、そりゃまた、何て言うか…」

狼狽した感じのロックオンに真っ直ぐな目を向けて、刹那はちょっとだけ満足そうに口元を綻ばせた。

「本当に……、温かかったんだ、マリナは」




10.08