ハロウィンネタ。

SS




「明日はハロウィンですって。知っていた?刹那」

朝食の時間。もくもくと食事を口元に運んでいた刹那に、ふとマリナがそんな言葉を掛けて来た。
ハロウィン。聞き覚えがある。
去年、学園祭か何かだったと思うけど、ハロウィンの仮装パーティがあった。
そのとき、ロックオンが簡単に説明してくれたので、何となく覚えている。

「ああ、知っている」

こくんと頷いて去年の話をすると、マリナは目を丸くした。

「仮装パーティって、刹那、あなたも参加したの?」
「ああ」
「そ、そう。一体、何に?」
「ミイラ男だ」
「ミイラ男!?あなたが…」
「ああ。包帯で、これでもかと言うほどぐるぐるにされた」
「そ、そうなの…」

そのときの刹那の様子を想像したのか、マリナはふふ、と笑顔を浮かべた。

「……」

何が面白かったのか解からないけれど、マリナが笑っているのを見るのは嫌いではない。
刹那がぼんやりとしていると、マリナは笑顔のままで、思いついたように言葉を続けた。

「じゃあ、明日の為に何かお菓子を作っておかないとね」
「お菓子?」
「ええ、わたしもよくは知らないのだけど。お菓子をねだって、貰えなかったら、相手に悪戯してもいいみたいよ」
「いたずら、とは…」
「そ、そうね…」

何だかしっくり来なくて眉根を寄せて聞くと、マリナはうーんと唸って、それから思いついたように声を上げた。

「もしわたしだったら、あなたのガンダムに変なポーズを取らせるとか、そう言った他愛もない…」
「それのどこが、他愛もないことだ」
「……!!」

じっと、真顔で見詰めて問いただすと、不穏な空気をひしひしと感じたのだろう。

「せ、刹那、冗談よ、ごめんなさい…」

マリナは慌てて両手を上げて弁解して来た。



その日の放課後。
刹那は帰り支度をしながら、マリナの言ったことを思い出していた。
ハロウィンは、確か明日。ガンダムに悪戯されないように、何かお菓子を買っていかないと…。
そう思って、駅の側にあるスーパーに寄った。
一体何が良いのか模索していると、背後から聞き覚えのある声が掛かった。

「よう、刹那。お前も買い物か」
「ロックオン」

目の前には、担任の教師の姿がある。
彼は手にした籠に沢山のお菓子やら飾りのようなものを入れていた。
察するに、彼もハロウィンの準備をしているのだろう。

「お前も、ガンダムの為か」
「は?」

刹那の不可解な台詞に、ロックオンは首を傾げたけれど、いつものことだと思ったのか、それ以上は追求してこなかった。

それから、ロックオンと一緒に店内を見て回っていると、刹那はふとあるものに目を留めた。
ハロウィンの飾りが売っている場所に、大きな黄色のカボチャが置いてある。
両手で持ち上げると、どっしりと思い。

「このカボチャはなんだ」

刹那が尋ねると、ロックオンは優しく説明してくれた。

「これを怖い顔にくり貫いて、家の戸の前に飾っておくんだよ」
「家の前に…」
「悪いものを追い払って家を守ってくれるって訳だ」

ロックオンはそう言って、大きなカボチャを取り上げて刹那の代わりに持ってくれた。
刹那が欲しがっているのが解かったのか、ロックオンはそれを買って刹那を家まで送ってくれた。
家まで持って帰るのは少し大変だったから、ありがたい。

「すまない、助かった」
「いいんだよ、じゃあ明日な」

ロックオンと別れると、刹那は早速玄関の前に大きなカボチャをドカっと置いてみた。
確か、くり貫くとか言っていたけれど、そんな難しいことは出来ないから、これでいいだろう。
きっとこれで、この家に変なものは入って来ない。
いつも刹那に優しくしてくれるマリナと、二人。二人のいる場所を守ってくれる。

満足して家に入った刹那だけど、時間が経つと、何だか急に怪訝な顔になって来た。
あんな、ただのカボチャごときが、本当に家を守ってくれるんだろうか。
刹那は少し考えると、何かを思い立ったようにマジックを手に取った。
そして、マリナに気付かれないようにこっそり外に出て、カボチャにガンダムの顔を描いた。




10.30