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クラスメイトのティリア・アーデが12月9日の今日、誕生日だったらしい。
ロックオンがティエリアにお祝いの言葉を掛けているのを見かけて、刹那はふと、自分も以前マリナに誕生日をお祝いして貰ったことを思い出した。
そう言えば、あんまり考えたことがなかったけれど、マリナの誕生日はいつなのだろう。
何だか気になって、刹那は学校から帰るとすぐに尋ねた。
「マリナ。お前の誕生日はいつだ」
「刹那?どうしたの、急に」
優しく笑い掛けて来るマリナに、刹那は事情を話した。
以前彼女に祝って貰ったから、自分も知りたい。
そして、出来ればあのときの借りをちゃんと返したい。
そう伝えると、マリナは少し困ったように笑った。
「借りだなんて。いいのよ、刹那。気にしないで」
そう言いながらも、マリナはちゃんと誕生日を教えてくれた。
「来月の12日なの。まだ先よ」
1月12日。
何だか刹那の誕生日以上に覚えていなくてはいけないような気がした。
でも、問題が一つある。
刹那には、ケーキなど焼けない。どうやってお祝いしたら良いのだろう。
何かマリナの喜ぶものはないだろうか。
よく考えてみたけど何も思い浮かばず、刹那はひたすら首を傾げるばかりだった。
翌日。
放課後になっても机に付いたままの刹那のところに、ロックオンがやって来た。
「どうした、刹那。何か悩み事か」
「ロックオン」
明るく笑いかける彼の顔を見上げて、刹那は何度か瞬きをした。
いっそ、彼に相談してみようか。いや、でも、ロックオンにマリナの欲しいものなど解かるはずない。
少し間を置いて、刹那は首を横に振った。
「何も問題はない」
「そっか、ならいいんだけどな。クラスで何かあるなら、ティエリアにでも相談してみろよ」
それだけ言って、ロックオンは行ってしまった。
彼の言う通り、誰かに相談するのは手だ。
でも、ティエリアとは、マリナとのことで揉めた過去がある。では、別の誰かを。
一先ず目標が決まった刹那は、適当な相手を探して校内をさまよい始めた。
まず最初に目に止まったのは、保険医のスメラギ・李・ノリエガだった。
長い髪に露出の多い私服に白衣。校内でも美人だと有名だ。
「スメラギ・李・ノリエガ。聞きたいことがある」
彼女を捕まえて単刀直入に切り出すと、スメラギは足を止めて愛想良く笑ってくれた。
「あら、刹那。何かしら。何でも言ってちょうだい」
「今、お前が一番欲しいものはなんだ」
刹那の問いに、彼女は一瞬の間も開けずに即答した。
「そうね、お酒かしら」
「お酒…」
「ええ、そうよ。私はね、それがないと生きていけないの。家に買ってお風呂上りに飲む一杯は特に最高よねぇ」
「…そうか」
刹那の頭に、入浴後アルコールを飲み干してバスタオル一枚で寛いでいるマリナの姿がぽわんと浮かんだ。
「………」
あまりにしっくり来なくて、思わず眉根を寄せる。
「で、刹那、それがどうしたの」
「なんでもない、邪魔した」
不思議そうに首を傾げるスメラギを尻目に、刹那は次のターゲットを探した。
二番目に会ったのは赴任して来たばかりのクリスティナ・シエラだ。
「クリスティナ・シエラ」
「何…?何かあったの?刹那」
くったくのない笑顔を浮かべるクリスに、刹那はスメラギへしたのを同じ質問をした。
「お前が今欲しいものを言え」
「え…?何…?」
「いいから言え」
「う、うーん、そうねぇ、洋服かな。こんなのとか、こんなのとか!」
言いながら、クリスティナは丁度手に持っていた雑誌を開いて、幾つかの洋服を指してみせた。
どれもこれも、素晴らしい露出のものばかりだ。
刹那は、こんな服を着てるマリナを想像してみて、やっぱり眉根を寄せる羽目になった。
次に目にしたのは同じクラスのフェルト・グレイスだった。
彼女は何故か職員室の周りでこそこそとしていた。
「フェルト・グレイス」
「せ、刹那、何?」
刹那が話しかけると、彼女は少しびっくりしたようだったけれど、構わずに尋ねた。
「お前が欲しいものはなんだ」
「……え」
「何かあるなら聞きたい」
「そ、それは、ロ……」
「ロ……?」
「ロッ、…ウソク…」
「………」
「………」
「そうか…、意外だな」
何となく気まずい空気が広がった後、刹那はフェルトとも別れた。
次に出会ったのは、お金持ちのお嬢様と名高い王留美だった。
お迎えの車に乗り込もうとしている彼女を捕まえて、刹那は尋ねた。
「お前は今…何が欲しい」
「欲しいもの?そうね、もう車での送り迎えには飽きたから、自家用ジェットとかかしら…。それが、どうかして?」
「いや…、なんでもない…」
聞く相手は選ばなければいけない。
刹那はやっとそれに気付いた。
結局、何も参考にならなかった。一体、どうしたものか。
でも、まだマリナの誕生日までは日にちがある。それまでに考えればいい。
刹那はそう思って、今日は諦めてマリナの待つ家に帰ることにした。
終
12.11