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その日は、春先にしては肌寒い晩だった。

「何だか、冷えるわね…」

一人呟きを漏らして、マリナはベッドに潜り込んだ。
手足が冷たい。でも、暖房するほどではないし、こうして毛布に包まっていれば、いつかは温かくなるだろう。
思った通り、何度も寝返りを打っている内に、段々と温かくなって来て、やがてうとうとし出した。

それから、ぐっすり眠ってしまったのか、目が覚めたときにはもう朝だった。

「うーん…」

そろそろ起きて、朝ご飯を作らないと。今日は何がいいだろう。
結局、ガンダムが何なのか解からなかったから、いつものようにトーストとか玉子料理とか…。

そんなことを思いながら、ぱち、と目を開いた途端。
視界に飛び込んで来た光景に、マリナは数回瞬きをした。

(え……)

すぐ側…ぼやけるほど近くに、何かがいる。
寝起きで頭がよく回らないけれど、これは…。

(な、何……?)

少し顔を離して、もう一度よく見たところで、マリナは思わず息を飲んでしまった。
自分のすぐ横で、すやすやと気持ち良さそうに眠っているのは…。
間違えようもない。

「せ、刹那っっ!!」

ガバっと起き上がると同時に、思い切り素っ頓狂な声を上げてしまった。



一体、いつの間に潜り込んで来たのだろう。
部屋には鍵なんて付けていないから、いつでも入って来れたのだろうけど。
マリナの悲鳴で目を覚ました刹那は、驚きのあまり口も利けないでいる自分を放って、ごしごしと目を擦りながら行ってしまった。
でも、これは…ただごとではないかも知れない。ちゃんと、言わないと。

散々悩んだ末、朝食を食べている刹那に、マリナは思い切って声を上げた。

「せ、刹那…あのね…」
「何だ」
「気を悪くしないで欲しいんだけど…。け、今朝みたいなこと、良くないと思うの。いくらわたしたちが姉と弟って言っても、血は繋がっていないのよ。だから、色々と問題が…」
「問題はない」
「……え?」

途中まで言い掛けたところで、突然刹那のきっぱりとした声に遮られた。
思わぬ意思表示に、目を見開く。

「せ、刹那…?」
「問題ない。とても、温かかった」
「刹那…」

何だか満足そうにそう言われて、思わずぐっと来てしまった。
そうだ。刹那に、全く他意はないのだ。
きっと、母親のベッドに潜り込むような気持ちで、寒かったから入って来てしまったんだろう。

(それなのに、わたしったら…)

反省すると同時に、何だかとても嬉しくなってしまって、マリナは弾んだ声を上げた。

「そ、そうね。問題ないわよね。まぁ、刹那がそう言うなら、これからだって、遠慮しないで入って来ても……」
「じゃあ、行ってくる」
「……あっ、刹那!」

そんな感じで、いつものように最後まで話を聞いては貰えなかったのだけど。
それでも、その日はずっと笑みが零れてが止まらなかった。




ちょっと接近。
04.03