+ロク。
SS
「ねぇ、刹那。もう、勉強しなくていいのよ」
「マリナ?」
「もういいのよ、刹那」
「…マリナ」
「マリナ、じゃねぇだろ!やる気あんのか、刹那!」
「……!?」
優しく頭の中に響いていたマリナの声は、少し呆れたようなロックオンの声に摩り替えられた。
ハッと我に返り、慌てて目を上げる。
どうやら、眠っていたようだ。
「補習くらいちゃんとやれよなぁ。知らねぇぞ、また赤点とっても」
「ああ…すまない」
放課後の教室で、ロックオンと二人きり。
大きく溜息を吐かれて、刹那は素直に謝った。
その様子を見て、ロックオンが表情を和らげる。
「解かればいいんだけどな。で?マリナって、何だ?彼女か」
「違う」
「じゃあ、何…」
「俺の、姉だ」
「姉…ああ、あの人か。確か転入手続きのときに…。血は、繋がってないんだっけ?」
「ああ」
「どんな人だ」
ロックオンに聞かれて、刹那は少し色々考えてみた。
マリナ・イスマイールのこと。
彼女は、どう言う人だろう。
「マリナは…」
「うん?」
「いつも食事を作ってくれる」
「ふーん、あとは?」
「それに、全部美味しい」
「あ、あとは?」
「シチューもかなり美味しい」
「……」
「ケーキは、いまいちだったが、あれも問題ない」
「あ、そ……」
どんな答えを期待していたのか解からないけれど。
彼は少し拍子抜けしたように言って、それから悪戯っぽく笑った。
「そんなに美味いなら、今度俺もご馳走になりに行こうかな」
「……」
「な、いいだろ?刹那」
ロックオンの言葉に、刹那はまた色々考えてみた。
もし、ロックオンが家に来たら、マリナはきっと彼にも優しい言葉を掛けてあげるんだろう。
―ありがとう、ロックオン、とか。
―沢山食べてね、ロックオン、とか。
そこまで思い巡らしたところで、刹那は咄嗟に声を上げていた。
「それは、駄目だ」
「…釣れないなぁ、まぁ、いいけど」
「……」
多分、最初から冗談のつもりだったんだろう。
ロックオンは肩を竦めて、それから笑顔になった。
「じゃあ、姉さんの為にも、補習頑張れよ」
「…了解」
素直にロックオンの言葉に従いながらも、刹那はこの気持ちは一体何なのだろうと、ちょっとだけ考えた。
終
04.09