+ネーナ

SS




夕方頃。突然、家のチャイムが鳴った。

(誰かしら…)

夕食の支度をしていたマリナは一端手を止めて、玄関へと小走りで向かう。
扉を開けると、そこには赤い髪で目の大きな女の子が立っていた。

「ねぇ、刹那、いる?」

こちらの姿を認めるなり、彼女はずい、と身を乗り出してマリナに尋ねた。

「え?あ、あなたは?」
「あたし、ネーナ・トリニティ。ねぇ、刹那は?」

(刹那の…友だちかしら)

それとも、クラスメイト?
ここにまで訪ねて来るなんて、仲が良いのだろうか。

「ちょ、ちょっと待ってね」

マリナは慌てて返答すると、刹那を呼びに二階へと上がった。

「ねぇ、刹那…」
「何だ」

ノックをして中に入ると、机に向かっていた刹那がくるりと振り返る。

「今、あなたのお友だちが下に来ているの。ネーナさん、て言っているのだけど…」
「……!!!」

名前を告げた途端、刹那の顔は急にぴき、と凍りつき、物凄い険しい表情になった。

(え……?)

今まで、こんな顔は見たこともない。

「刹那?」

不審そうに首を傾げると、彼は落ち着かない様子で声を荒げた。

「い、いないと言ってくれ!」
「せ、刹那…?でも…」
「俺はいない、いないんだ!」
「せ、つな…わ、解かったわ」

ただならぬ雰囲気に押されて、マリナは急いで部屋を出て、階段を降りた。

「ご、ごめんなさい。刹那、いつの間にか出かけていたみたいで、今はいないの…」
「ええー!つまんない!」
「ご、ごめんなさい」

可愛い頬がむぅっと膨らんで、マリナは焦って謝った。
何だか、こう言うタイプの子は自分の周りにはいないので、どうして良いか解からない。

「じゃあ、帰るね。また来るから!」
「え、ええ…」

でも、すぐに諦めたのか、次の瞬間にはにこりと笑顔になって、そんなことを言った。
けれど、扉が閉まる瞬間…。

「あーあ、折角チュウまでした仲なのに」
「……?!!」

独り言のように呟かれた一言に、今度はマリナが凍りつくハメになった。



(せ、刹那が…)

チュウ?
チュウって、いわゆるキスのこと、だろう。
刹那が、キスを。
あんなに可愛くてわたしより胸がある…いえ、そこはこの際関係ないのよ、マリナ。
でもでも、その子と…。

(キ、キスしたって言うの?!)

刹那が、大人になってしまった…。

「そ、そんな…」

呆然と玄関に立ち尽くしたまま呟きを漏らしたマリナだけど、やがて我に返ってふらふらとキッチンに戻った。
あまりのショックで頭がよく回らない。
でも、ここは姉として、ガールフレンドの存在を喜んであげるべきだろう。
笑顔で、おめでとうくらい言ってあげなくてどうするのか。
優しく明るく、良かったわね、刹那って、言ってあげればいい。

「……」

そう、笑顔で。優しく。明るく。

「……」

(……って)

「……で、出来る訳ないじゃない、そんなこと!!」

思わずわっと泣き崩れ、マリナは顔を両手で覆いながら家を飛び出した。




04.15