Smack
「ハレルヤ」
静寂を破って呼び声を上げると、デスクに向かい合って退屈そうに頬杖を突いていたハレルヤは、ただ無言で目を上げた。
肩に手を乗せて、引き寄せてみても反応はない。拒絶されないのを良いことに、アレルヤはそのまま顔を寄せ、ゆっくりと彼にキスをした。
けれど、暫くの間続けても無反応な相手に何だか虚しくなり、ややしてそっと離れた。
「どうしたんだい、珍しいね。嫌がらないなんて」
不機嫌な顔を覗き込むと、少しの沈黙の後、投げ遣りな返答が返って来た。
「どうせ暇だからな」
「……」
釣れない台詞にがくりと肩を落としたくなる。
けれど、抵抗しないのならそれに越したことはない。いつもなら、戯れでキスをしただけで止めろだの何だの言って邪険にされるのだから。気を取り直して、アレルヤは彼の襟元を掴んでもう一度唇を塞いだ。
触れ合う瞬間に、まるで何かに挑むような、生意気で鋭い金色の光が目に入る。
目くらい閉じたらいいのにと思ったけれど、彼の気が変わるのを恐れて、敢えて口には出さなかった。
代わりに柔らかく唇を押し付け、そっと甘く噛んで吸い上げる。
後頭部に手の平を回して抱え、段々と激しさを増して行くと、ようやくハレルヤも目を閉じたのが気配で解かった。
「……っ、は」
一度きつく吸い上げてから離すと、長いキスに息が上がったのか、ハレルヤは短い吐息を吐き出した。
いつの間にやら…ぴたりと隙間無く密着していた体を更に引き寄せ、腰に腕を回して逃れられないようにする。
暴れるかとも思ったが、ハレルヤは大人しく腕の中に納まった。
でも…。そうすると、何だか物足りない…などと思ってしまう。抵抗されたり邪険にされるのが好きな訳ではないのに。手強い相手ほど、落とすのが楽しいからだろうか。
せっかく大人しくしているのだから、このまま進めれば良いのに。浮かび上がった悪戯心を満たす為、アレルヤは深く貪っていた唇から舌先を引き抜き、指先で頬を辿るように撫でた。
「ハレルヤ」
熱の籠もった声で呼び掛け、再びそっと唇を塞ぐ。
深く侵食し、ハレルヤの舌が応えるように絡み付こうとすると、ゆっくりと顔を離す。
何度も、激しく触れて噛み合っては離れ、アレルヤは焦らすように彼の唇を弄んだ。
じり、とハレルヤが苛立ちを感じるのが、手に取るように解かる。毛を逆撫でした猫のように、吐息が荒くなり、雰囲気が刺々しくなる。そして、数秒後。
何度目になるか、温かい唇を押し付け、歯列を割って舌を捩じ込んだ直後。
「……んっ!」
舌先にガリ、と痛みが走り、アレルヤは小さな呻きを上げて唇を離した。歯を立てられた舌に血の味が滲む。
血塗れた舌先で唇を舐めると、錆びた鉄の匂いがじわりと滲みた。
「痛いじゃないか、ハレルヤ」
それでも尚、緩やかな笑顔を浮かべて静かな声で告げると、ぎらぎらと殺気立ったように輝いた目が見えた。
何度も重ねられたキスのせいで呼吸は上がって、上気した頬は少し赤みがさしていて、何だか可愛い。
「キスの最中に噛み付くなんて、行儀が悪いよ」
「てめぇのせいだろうが、アレルヤ」
お前が、可笑しな真似をするからだ。
挑戦的な瞳に見つめられて、アレルヤは視線を伏せ、口元を歪めた。
改めてハレルヤの肢体を引き寄せ、血の味がするキスを深く繰り返す。胸元を辿り、衣服を緩めると、くい、と感じ入るように背後に仰け反った喉元に指を這わせた。
足を割って奥へと手を伸ばすと、既に熱を孕んでいた肢体に気付いて、耳元に唇を寄せた。
「嫌がらないのは、本当に暇だからってだけかい?」
「……」
「ハレルヤ?」
「んっ、……」
答えを促すように名前を呼んで、腿の辺りをなぞると、ハレルヤは吐息のような声を漏らし、それからアレルヤを軽く睨んだ。
まだ、聞き分けのない抵抗を試みるかもと思ったけれど。
少しの間の後、ハレルヤは観念したように溜息を漏らし、そして体から力を抜いた。
視線が合うと、彼は先ほどの問い掛けに答えるように首を横に振る。
そうして、ゆっくりと持ち上がった腕が、アレルヤの首へと回された。
「いいぜ。好きにしろよ、アレルヤ」
挑発するような熱い声が耳元を掠めたのを合図に、アレルヤは彼をその場へ押し倒した。
終