我侭




「ロックオン!」

地上で久し振りに顔を合わせたアレルヤは、弾んだ声でロックオンの名前を呼んで、顔を綻ばせた。

「よう、アレルヤ」
「ゆっくり会えるのは、何日ぶりでしょうね」
「ああ、そうだな」

ロックオンが相槌を打つと、彼は急に何かを考えるように黙り込み、それから躊躇いがちに口を開いた 。

「そう言えば…何だかずっと忙しくて、ちゃんと言ってませんでしたけど」
「うん?」
「あのときはありがとうございました。それに、すみません…。あなたの忠告も聞かずに、勝手なことして」

あのとき。少し考えて、思い当たることがあった。
アレルヤが、ミッションより独自の判断を優先させたときのこと。

「何言ってんだ、人命救助だろ?」

肩を竦めながら軽い口調で言うと、彼は何だかホッとしたように笑った。

そんな会話の後、二人でロックオンに宛がわれた部屋に来た。
扉を潜るなり、屈強な腕に抱き抱えられる。
壁に押し付けられて、何度かキスを交わすと、やがてアレルヤは仄かに酔ったような声を上げた。

「でも、本当に流石でしたね、あなたの腕は」
「あ、ああ…。まぁ、そりゃな…」
「感謝しますよ、ロックオン…」
「俺はミス・スメラギの支持に従ったまでた。それよりアレルヤ、お前こそ…ずっと独房入りだったんだろ?辛かったな」
「いえ、仕方ないですよ。命令違反をしたのに変わりない。それに、色々考えることもあったし…」
「……そうか」

目を伏せたアレルヤを見て、ロックオンは神妙な顔になった。
彼が戦いに葛藤していることは知っている。
アレルヤは優しい。だから悩む。何か、気の効いた言葉でも。
そう思って言い掛けた言葉が、熱っぽい彼の声に重なった。

「でも、辛かったのに違いはないですよ、ロックオン」
「……アレルヤ?」
「それに、今回だってそうだ」

ぐっと、徐に体を寄せられ、驚いて顔を上げる。
間近に迫った眼差しに、ロックオンは息を飲んだ。

「あなたに会えないのは、辛いよ」
「お、おい…アレルヤ」

咎める声には力がない。自分も、思ったよりずっと彼の体温を求めていたみたいだ。
でも、僅かに働く理性が歯止めを掛ける。

「ロックオン…」
「ん……」

アレルヤに唇を塞がれ、上手く息が出来ないほど深く口内を侵食される。

「こら、お前…そんなにがっつくな」

そのまま体のラインをなぞるように撫で、性急に衣服を緩める指先に、焦って声を上げると、彼は緩く頭を打ち振った。

「そんなこと言われても…無理だよ」
「ちょ、ちょっと、待て…!せめて、シャワーでも…」

苦し紛れに言うと、アレルヤは動きを止め、それから指先で浴室を差し示した。

「じゃあ、そこで」
「いっ…?!」

さらりと返って来た返答に、ロックオンは思わず息を飲んだ。



「んっ、ん…」

耳元に聞こえるのは、煩く降り注ぐ水音と、自分の押し殺した声。
結局バスルームに押し込まれそこで行為に至っている。
アレルヤに足を抱えられて、ロックオンは浴室の壁に押し付けられていた。
背中を預けている分は少し楽だけど、立ったままの姿勢は辛い。
せめて、ベッドに。声を枯らしてそう言うと、あまり我侭を言うなだなんて返答が返って来た。

「そりゃ、こっちの台詞…」

言い掛けた言葉が、緩く突き上げる動きのせいで途切れる。

「あなたが、浴室でしたいって言うから」
「ち、違うだろ、先にシャワーを…っ、浴びたいって」
「そう、でしたっけ」
「うぁっ、く…っ!」

ぐい、と腰を抱かれて、反動で繋がりが深まり、ロックオンは喉を鳴らした。
抵抗しようとしていた腕から力が抜ける。
代わりにアレルヤの背中にしがみ付いて、ロックオンは下肢を突き上げる衝動に耐えた。
結局、こうして流されてしまう。解かっているから、彼はこうして真っ直ぐに求めて来るのだろうか。
でも今は、流されていることすら、眩暈がするほど心地良い。
彼のことを欲しがっているのが、自分でも解かってしまう。
やがて、降り注ぐ湯を次々と浴びて、背中に回していた腕がずるりと滑り落ちた。
体勢を崩すと、アレルヤに両手で抱き留められる。

「ロックオン、大丈夫?」

気遣う声は、穏やかで本当に優しい。
顔を上げると、心配そうに覗き込んでいる目と視線が合った。
無茶しているのは、彼なのに。全く、どうしようもない。
もう一度腕を上げてアレルヤの背にしがみ付くと、ロックオンは彼の耳元で囁いた。

「あんまり、勝手すんなよ…」
「ええ、解かっていますよ…」

嬉しそうな声の後、アレルヤはゆっくりと動きを再開した。



「結局、俺はお前に甘いよなぁ」
「え、どこが…?」

衣服を整えながら、そんなぼやきを漏らすと、きょとんとしたような目に見詰められた。
この目、本当に本気だ。ロックオンは思わず深い溜息を吐いた。

「どこがってさ…。いつもその、聞いてやるだろ、お前の我侭とか…色々」

別に、するなと言っている訳ではないけれど、もっとこう…。
口籠もりながらも恨み言を告げると、何度か瞬きした後、アレルヤはふっと口元を緩めた。

「ぼくは別に、我侭を言ってるつもりはないですよ…。あなたが本当に嫌がっているなら、したりしないし」
「っ…!おっ前な…」

反論しかけて、ロックオンは言葉を止めた。
何を言っても、悪足掻きだ。
やがて、二度目になる大きな溜息を吐くと、投げ遣りな感じでベッドに身を投げ出した。

「ああ、全く…その通りだ。お前の、言う通りだよ」

観念したように言うと、アレルヤはそっと優しい笑みを浮かべた。

―ああ、きっと、この顔に弱いんだ。

そんなことを思いながら、ロックオンは再び振って来た彼のキスに応えた。