indulgent




(は……?)

突然、どさりとベッドに倒され、ロックオンは圧し掛かる人物を目を見開いて見上げた。
確か、押し倒そうとしていたのは、こちらの方だったはずなのに。今ベッドに背を付いているのは、明らかに自分の方だ。
伸ばした手が掴まれてベッドに押し付けられ、腰の辺りにアレルヤの重さを感じる。

「ロックオン」

その上、そんな熱の籠もった声で呼ばれて、背筋に嫌な予感が走った。

「ちょっ、ちょっと待て!」
「はい。何ですか」

柔らかい笑みを口元に浮かべたアレルヤが、暢気な返事をしながらロックオンのシャツを捲り上げる。
あまりの事態に思考がついていけず、何度か瞬きをしてみたけれど、状況が変わる訳ではなかった。
こちらが無抵抗なのを良いことに、アレルヤはいそいそと行為を進めている。熱い手の平が腹の辺りを辿りだした頃、ロックオンはようやく我に返って声を荒げた。

「ま、待てって!何で俺が押し倒されてんだよ!」

当然の抗議だと思ったのに、アレルヤは片方の目をきょとんとしたように見開いた。

「何でって、当然でしょう」
「な、何が!」
「あなたの方が、背が低いし」
「背って、1センチだけだろうが!」
「それに、色も白くて凄い綺麗だし」
「い、いやいや、そんなこたぁ」
「ぼくの方が鍛えてるし」
「お、俺だってそれなりに!」
「何より、ぼくがあなたを抱きたいから」
「う……」

さらりと強請られて、ロックオンは声を詰まらせた。
駄目だ。アレルヤのこう言う明け透けな物言いはかなり苦手だ。遠回しに誘う言葉なら軽くあしらえるのに、この直球。そして真っ直ぐな眼差し。

「嫌ですか?それなら、諦めますけど」
「……」

とどめとばかりに、悲しそうな顔でそんなことを言われて、ロックオンは完全に黙り込んでしまった。
それを肯定と取ったのか、アレルヤは潜り込ませた手をずらし、胸元の辺りを辿り出す。

「ア、アレルヤっ」
「大丈夫。優しくしますから」
「お、まえな…」

今度は少し照れたように微笑まれて、ロックオンは抵抗する力も気力もがたがたになってしまったことに気付いた。



そして、数時間後。

「ロックオン…」

穏やかに名前を呼ばれ、ベッドの上にぐったりと身を投げ出したまま、ロックオンは視線だけ動かして声の主を見上げた。
指先には力が入らないし、限界まで左右に押し広げられていた足は痛いし、腰もがくがくとしているし、何より、彼を受け入れていた場所がずきずきと痛む。やたらと満足そうにこちらを見下ろしているアレルヤに、文句の一つでも言いたくなるのは至極当然だ。
けれど、先ほどまでの行為の影響で声は掠れて喉はひりひりと痛み、きちんとした声は出なかった。

「み…ず…」

仕方なく、それだけ伝えてシーツに顔を埋める。頷いたアレルヤが、ベッドからするりと降りる気配がした。

「どうぞ、飲めますか」
「ああ」

差し出されたボトルを受け取り、身を起こした途端、ずきりと下肢が痛む。

「うっ」

思わず痛みに呻くと、アレルヤが眉根を寄せた。

「大丈夫?ロックオン」

逞しい腕に支えられて、ロックオンはようやく身を起こすと、ボトルの水をごくごくと飲み干した。
ようやく喉を潤わせ、ぐい、と手の平で口元を拭うと、アレルヤに険しい視線を送る。

「な訳あるか。優しくするとか言っておいて」

溜息混じりに吐き出してから、何でこんな女の子みたいな台詞を言わなくちゃいけないのかと、心底落ち込んだ。
つい流されてしまったのは自分だから仕方ないけれど。だからと言って……。

「二回も三回もすることないだろ!」
「すみません、どうしても我慢出来なくて」
「だからってな…」
「でも…ロックオン、あなたがいけないんですよ」
「は…?!な、何がだよ!」
「そうですね、例えば…」
「……?!」

言いながら、アレルヤは不意に身を屈めて、まだ少し上気したロックオンの首筋に唇を寄せた。

「……っ」

軽く吸い上げられて、敏感になった肌がざわりと粟立つ。

「こう言う風に、反応がいいところかな。あとは…」
「あ、おい、ア、アレルヤ?」

嫌な予感がして身を捩ろうとすると、瞬時に押さえ込まれてしまった。彼の方が元々力は強いし、この状況じゃどう考えても分が悪い。

「あ…っ!」

次いで、胸の突起をぎゅっと摘み上げられ、びくんと体が浮き上がってしまった。もう殆ど声も出ないと思っていた喉から、再び甘い声が上がる。

「こんな反応もそうだし。全部、あなたが悪いんですよ」

煽られたようにそんな言葉を吐き、再び手の平が肌の上を這い回る。

「ん…っ、お、おい…、アレルヤ、何して…」

思わず身を強張らせながら抵抗していると、掴まれた足が徐に左右に割られた。

「……っ!」

これは、まずい。物凄くまずい。

「な、なぁ、もういいだろ、流石にさ…」

引き攣った笑みを浮かべながらそんな言葉で誤魔化そうとしたのだけど。

「いえ、まだ足りません。全然」

これ以上ないほど照れたような純粋そうな笑顔で。でも何だか逆らえないような不思議な強さのある声でそんなことを言われて、ロックオンはそれ以上二の句が継げなくなってしまった。



「あっ、ぁ…っ、アレ、ルヤっ」

ぎしぎしと容赦なく揺すり上げられ、引っ切り無しに声が上がってしまう。呼吸を整えて抗議をしようにも、そんな余裕は微塵もない。
何とか名前だけ呼び掛けると、冷静な返答が返って来た。

「何、ロックオン」
「な、にって…よせっ、もう、無理」
「そうかな、まだ大丈夫ですよ、きっと」
「ど、こが、ぅあ…っ!」

根拠のない自信ほど、覆し辛いものはない。穏やかな柔らかい笑みを浮かべて、アレルヤはこちらの抗議を一蹴してしまった。
そして、再びゆっくりと律動が始まる。

「あ、こら!もう、動くなって…!」
「そんな、無理だよ」
「い…っ、つ、う…」
「ロックオンだって、良さそうじゃないか」
「ん、なこと…!あっ…、ん…、ぁ…っ」

彼の言う通り。敏感な場所を的確に突き上げられ、直接中心に刺激を送り込まれ、ロックオンは白い喉をぐっと仰け反らせた。



結局、また流されてしまった。
でも、隣で満足そうに幸せそうにしている顔を見ると、何も言えない。貧乏くじと言うか、苦労性に輪が掛かったような気がしないでもないけれど。アレルヤが相手なら、もう諦めるしかない。仕方ない。
ハァ、と溜息を吐くと、ロックオンはゆっくりと指先でアレルヤの髪の毛を撫でた。