初体験




初めて触れた柔らかい唇がそっと離れて行くと、アレルヤは小さな吐息を吐き出した。
嘆息の吐息とでも言うのか、唇から勝手に漏れてしまったものだ。
戯れだけで触れたそれは、柔らかくて温かかった。何て気持ちの良いものだろう。
きっと相手がロックオンだからだ。
離れていった唇をもう一度求めて、アレルヤはそっと彼の髪の毛を掴んだ。

「何だよ、足りない?」
「ええ凄く…」

大真面目に答えると、間近にあった彼の目がちょっと意表を突かれたように見開かれた。

「キスなんて、初めてしたから」
「…そっか」

バカ正直な告白に、ロックオンは何だか困ったように視線を逸らした。
今すぐにでも触れたいと思っていたアレルヤは少し焦れて、掴んでいた髪の毛をぐいと引っ張った。
さっきの感触がまた戻って来たので、今度は軽く吸いつくようにしてみる。

「……んっ」

途端、小さく漏れた声に、じわりと何かが疼く。
もっと今のような声を上げて欲しくて、アレルヤは生温い舌で唇をそっとなぞった。

「…ん、ぅ」

促されたようにゆっくりと開く唇を割って、舌を入れてみる。
すると、すぐに体が押し返されてしまった。

「ロックオン…」

酷い物足りなさに、少し恨みがましい視線を向ける。
視界に映った彼の頬は、少し高潮しているように見えた。
アレルヤが不思議そうな顔をすると、彼はごほ、と少し咳払いをして、照れたように口を開いた。

「あのな、アレルヤ」
「はい」
「もう、いいだろ」
「いえ…まだ」

即座に首を横に振ると、彼はますます困惑したような顔になった。

「お前な…ちゃんと、好きな人ともした方がいい」
「それなら、問題ない」
「ん?」
「ぼくが好きなのは、あなたですから」
「…そう、か」
「あとは、何か問題が…?」

もう、しても良い?
尋ねるように首を傾げると、彼は急に何か吹っ切れたように、乾いた声で笑い出した。
何が何だか解からず目を見開くアレルヤの前で、彼は一通り笑って、それからぐっとアレルヤの両肩を掴んだ。
先ほどまで浮かべていた困惑の色など少しもない、不敵な目で見詰められる。
獲物を落とすみたいな、ぞくぞくする目だ。

「ないよ、俺もお前が好きだ」
「…!ロックオン!」

ドキ、と鼓動が跳ねて驚きの声を上げる唇に、今度は彼の方から触れて来た。

「ん…、ロックオン…」

軽く触れては離れ、やがて少しずつ深くなるキス。最初にしたときよりも、もっと気持ち良い。
この人とのキスは、きっと何度味わっても初めてのような味がするんだろう。
胸の中が騒ぐ。心地良い痺れが全身に広がる。
これからも、もっと、数え切れないほどしたい。
ぼんやりと痺れて行く頭の中で、アレルヤはそんなことを思い巡らして、静かに目を瞑った。