ノック2




ベッドに投げ出されたままの彼の足を割って、その間に体を押し込む。
肢体を密着させると、喉の奥が渇くような興奮を覚えた。

彼を抱くことで、どんな変化が自分の中に訪れるのかは解からない。
何故受け入れてくれる気になったのかも、解からない。
ただ、そうすれば、今も時折ちくちくと胸を刺す痛みは治まるだろう。
何故かそんな確信だけはあった。

縺れるように身を重ねて、アレルヤはゆっくりとロックオンの体を弄っていた。
一度受け入れると決めたからか、彼は一切抵抗するような動きは見せなかった。
襟元から無造作に覗いた白い首筋に唇を押し付けると、彼の体がびく、と小さく揺れた。
敏感な反応に、アレルヤの興味が刺激される。

「ロックオン…」
「…ん?」
「今まで、こうやって…誰かに抱かれたことがあるんですか?」
「……」

ゆっくりと上着を捲くり上げながら尋ねると、彼は少し戸惑ったような顔をして、それからぽつりと言った。

「それは、内緒だ。守秘義務があるだろ、マイスターには」
「……」

言いたくない、と言うことか…。

「…そうでしたね」

落胆したような返事の後、アレルヤは彼の唇を強く奪った。

(ロックオン)

年上で、何かと周りに気を配り、面倒見が良い。
でも、何だか肝心なところには気付かなくて、要領が良いのか、悪いのか。
思わずハッとするほど白い綺麗な肌と、柔らかそうな髪の毛。
初めて触れる彼の唇は、アレルヤの胸の内を酷く高揚させ、同時にいけないものにでも触れたような、苦い味を齎した。

とにかく、彼を抱いて、自分のものにしてしまいたい。
一段と強い欲求が浮かび上がって、アレルヤは夢中で口付けを深くした。

「ん…っ、ん」

滑らかな口内を味わうように、舌を這わせて吸い上げると、苦しそうな声が上がった。
その声に酷く煽られる。
れっきとした、男の声。それなのに、妙に艶かしい。
衣服に手を掛けて、そっと襟元を左右に割り開くと、顕になった肌に一瞬息が詰まった。
ベルトを外し、下衣にも手を掛ける。
緩めた衣服の奥へ手を伸ばすと、ロックオンの吐き出した吐息がアレルヤの首筋を掠めた。
白い足を掴んで、膝を立てさせる。
けれど、その奥にある入り口はあまりにも狭い。

「本当に、出来るのかな」

思ったことをそのまま口にすると、ロックオンは勢い良く身を起こした。

「お前…!大丈夫なのかよ、本当に!」

焦ったように起き上がって、彼はアレルヤの体を押し退けようとした。
力を込められて、慌てて思い切り捻じ伏せる。

「平気ですよ、何とか、なるから」
「お前なぁ」
「大丈夫、本当に!」

そのままぎりぎりと力を込めると、彼は少し呆れたように深い溜息を吐いた。

「乱暴にするなよ…」
「…了解」

吐息混じりに吐き出される声。
やたらと艶のあるその声に、アレルヤの心臓が音を立てて鳴った。

濡らした指先を体の奥へと伸ばす。
ぐい、と深く捩じ込むと、ロックオンの背中が浮き上がって綺麗にしなった。

「う…っ、あ…」

同時に漏れた甘い掠れた声に、ぞく、と背筋に痺れが走る。

「感じるんだ、良かった」

本当に心底そう思って、手探りでその場所を柔らかく突き上げる。

「ん、ん…よせ、そんなに…」
「駄目ですよ、まだ…」
「ぁ……っ」

指先に絡みついて収縮する粘膜。
早くこのまま繋がりたい。
けれど、淫らに体を投げ出す彼の姿を、もっと見つめていたい。

「ん…、ぁ…っ」

やがて、一段と掠れた声を上げて、彼のものが弾けた。
そのまま、絶頂の余韻に浸るように内股を震わせて、甘い吐息を吐き出している。
もう、限界だ。
彼が呼吸を整える間も無く、その唇に吸い付き、アレルヤは彼の肢体を奥まで貫いた。

「んん……っ!!」

合わせられた唇の隙間から、ロックオンのくぐもった声が聞こえる。
ほんの少し辛そうだ。
でも、加減してやる余裕などない。
まるで生き物のように絡み付いて来る内壁を、アレルヤは訳も解からないまま突き上げた。

「ん、ぁ、ぁぅ・・・!」

白い足を掴んで、より繋がりを深くする為に持ち上げて左右に開く。
奥へと侵入すると、細い腰を抱いてゆっくりと揺らした。
彼の喉が仰け反り、小刻みに吐き出される吐息が甘さを含んでいく。
少しずつ揺さ振る速度を上げ、アレルヤは彼の最奥へと欲望を流し込んだ。

「ぁ、は、…はぁ…」

途切れ途切れに上がるロックオンの声。
小刻みに震える両足を掴むと、アレルヤは腰を引かずに、再び奥へと身を埋めた。

「あぁ…っ!!」

びく、と彼の体が揺れ、一段と掠れた声が上がった。
もう終ると思っていた刺激が更に激しく再開され、ロックオンは泣き声のような声を漏らしてベッドの上で身を揺らした。
必死に掴んだシーツが捩れてぐちゃぐちゃになる。

「ん、あッ、アレル…ヤ…!」
「ロックオン…!」

抜け切るほど腰を引いては、再び最奥まで打ち込む。
アレルヤの息も酷く上がって、じっとりした空気が溢れる室内には、荒い息遣いとロックオンの声だけが響いていた。

一度動きを止めると、アレルヤは顔を寄せ、夢中で口付けを落とした。
先ほどしたよりも強引に、舌を絡め取り、唾液を流し込み、隅々まで口内を侵食する。
唇を貪って呼吸まで奪うような口付けに、彼は小さく喘いで途切れ途切れに声を上げた。

このまま、可笑しくなってしまいたい。
彼を、自分だけのものにしておきたい。
他の誰かには、目を向けないで欲しい…。

「ロックオン…」

これで何度目になるか。
再び彼の名を呼んだときには、自身のものが再び弾け、彼の中が温かいもので溢れた。



「お前なぁ…誰が、二回もしていいと…」
「すみません…つい」

力なくベッドに体を投げ出したまま、ロックオンが恨みがましそうな視線を送っている。
確かに、無茶苦茶してしまった。
でも、何だか押さえが利かなくなってしまって。
負担を掛けることは解かっていたのに…。
少し自己嫌悪に陥っていると、ロックオンからまた声が掛かった。

「なぁ、アレルヤ」
「何ですか…?」
「お前は、どうなんだ」
「…?どうって…」

言っていることが解からなくて目を見開くと、ロックオンはばつが悪そうに顔を逸らした。
照れ隠しでもするように、柔らかい髪の毛を何度も掻き上げる。

「だから…今までこう言う経験が、あるのかどうか…」
「……ああ」

そう言えば。行為の最中にそんな会話を交わした。
上手くはぐらかされてしまったけれど…。

「そんなこと、解かってるくせに、聞かないで下さいよ」
「アレルヤ…」

ぼくは、あなたしかいない。
そう言う代わりに、ふっと口元を緩め、アレルヤは人の悪そうな笑顔を作った。

「守秘義務ですよ、言える訳ないじゃないですか」
「…っ!お、お前っ!」

きっと、生真面目な答えが返って来ると思っていたのだろう。
ロックオンはカッと白い頬を赤く染め、引き攣った声を上げた。
掴み掛かってくる彼の腕を取り、再びベッドに押さえ付ける。

「ロックオン」
「ああ?何だよ」

不機嫌な声すら、何だか耳に心地良い。

「また来ても、いいですか?ここに」
「…あ、ああ」
「ありがとう、ロックオン」

言いながら、アレルヤはそっと顔を寄せ、再び彼の唇を塞いだ。