rascally




「ハレルヤ…?」

片割れの姿を探して、アレルヤは先ほどから校内をうろうろしていた。一緒に帰ろうと思ったのに、姿が見えない。いつも、何だかんだいいながら教室でちゃんと待っていてくれるのに。担任のロックオンと話していて、遅くなってしまったから、今日に限って先に帰ってしまったんだろうか。
でも、きっとどこかにいるに違いない。普段人がいない空き教室の付近にまで来てきょろきょろ辺りを見回していると、急に人の気配がするのを感じて、アレルヤは足を止めた。
続いて、小さく聞こえて来る女の子の声。

(…?なんだろう)

何だか、不穏な感じがする。曲がり角の向こうから聞こえる。薄暗い廊下をそちらへ向かって足を進めていると、急に一層大きな声が響いた。

「離して!」
「……?!」

そんな、切羽詰ったような声。続いて、パン!と空を切るような大きな音が聞こえた。
そして、焦ったように走ってくる女子生徒。

(あの子は……)

どこかで、見たことがある。確か、隣のクラスで、何度か挨拶を。そこまで思い巡らしたところで、走り去って行く彼女はこちらに気付いて、驚愕したように息を飲んだ。

「あ、あの…」

でも、こちらを見たのはほんの一瞬で、アレルヤが呼ぶ声にも耳を貸さず、彼女は走って逃げて行ってしまった。
一体、何が。厄介ごとに巻き込まれることよりも、彼女の身が心配だった。一応、顔見知りだ。それに、確かいつも優しく笑い掛けてくれた子だ。ぐっと拳を握って、恐る恐るその先へと足を進め、曲がり角の向こうを覗き込む。
その途端、視界に飛び込んで来た人物に、アレルヤは大きく息を飲んだ。

「ハ、レルヤ?」

そこにいたのは、紛れもない。今自分が探していた片割れのハレルヤだ。アレルヤと同じ背格好で、同じ顔。ただ、漂う雰囲気と、目の色だけが違う。何故彼がここに。
アレルヤが呼びかけると、彼は反応して顔を上げ、それから鬱陶しそうに手の平で頬を撫でた。

「ったく、いてぇよな、思い切り引っ叩きやがって」
「な、に…」

何が起きたのか。想像するより早く、嫌な予感が胸の内に走った。

「ハレルヤ?あの子に、何をしたんだい?」
「そう騒ぐなよ、ちょっとからかっただけだぜ」
「でも!泣いてたじゃないか!」
「そうか?知らねぇよ」
「ハレルヤ!」
「何だよ、うるせぇな」

問い詰めると、ハレルヤは面倒臭そうに手をひらひらと振った。無造作に乱れたシャツの前に、どきっと鼓動が鳴る。

「それに…こんな、人気のないところで、どうして二人で…?」
「へっ、どーでもいいだろ、あんな女。そんなに気になるなら、追い掛けて慰めてやれよ」
「……っ」

何となく、それは出来ないような気がした。アレルヤの顔を一瞬見た彼女の目に宿っていたのは、明らかに怯えたような色だった。



「どうして、あんなことしたんだい」

家に帰った後も、アレルヤはハレルヤの部屋に入って、静かに問い質していた。あんなことを、これから続けられたら困る。けれど、ベッドに身を投げ出したハレルヤは、鼻先で笑い飛ばすように嘲笑う。

「さぁな…」
「本気じゃないくせに、よくないよ」
「何でんなことがてめぇに解かるんだよ」

ぶっきらぼうに言うハレルヤに、アレルヤはゆっくりと手を伸ばした。

「解かるよ。ハレルヤ」

寝転がったままのハレルヤの胸元。幾つかボタンの外れたそのシャツの襟元に、アレルヤはそっと指先を滑らせる。ぴく、と反応を返したハレルヤの肢体は、緊張するように強張った。本人も無意識なのだろうけど、アレルヤの目は誤魔化せない。そのまま、殊更ゆっくりと、優しい手つきで、アレルヤは彼の引き締まった胸元へ手の平を這わせた。

「きみが好きなのは、ぼくだけだからね」
「…!アレルヤ…。よせよ…」

抵抗の声は小さく、覇気がない。払い除けようとする手を捕まえて、ぐっとベッドに押さえ付ける。上に圧し掛かって体を寄せると、間近にあった金色の目が熱を帯びたように輝きを増した。

「これだけで、我慢できなくなるくせに」
「ん……っ」

巧みに蠢く指先で、ハレルヤの肢体を愛撫する。引き締まった胸元を弄り、腿を撫でて中心へと手を伸ばすと、ハレルヤは喉を仰け反らせた。

「なのに、どうしてあの子を傷付けるようなことをするんだい」
「……」
「答えてよ、ハレルヤ」

ぎゅっと強く下肢の中心を握る指先に力をこめると、びくんと背中がベッドから浮き上がった。強く刺激しては優しく撫で回して、強弱を付けて快楽を引き出して行く。

「んっ、…く」
「ハレルヤ」

衣服を緩めながら、耳朶を口に含み舌先でなぞる。首筋をきつく吸い上げて赤く痕を残すと、アレルヤは焦らすような愛撫をしつこいほど続けた。ハレルヤの腰が浮き上がり、強請るように震えるのをみて、もう一度問い掛ける。

「ねぇ、ハレルヤ」
「…ふっ、う…、あ、あの女が…」
「あの子が?」
「…ぁ、…な、何でもねぇよ」
「ハレルヤ」
「あ、ぐ…っ!」

ぐっと、まだ潤っていない場所に指先を潜り込ませると、掠れた悲鳴が上がった。

「あっ、…ぅ、あの女が、お前を」
「ぼくを?」
「好きだとか、抜かしやがるから」
「……ハレルヤ」

はぁ、と溜息を吐くとアレルヤはゆっくりと指先を引き抜いた。

「だからって、駄目じゃないか、そんなことしちゃ」
「てめぇに指図される謂れはねぇだろ!」
「心配しなくても、ぼくはきみしか好きじゃないのに」
「そう言う問題じゃねぇんだよ!」
「そんなこと言っても、ぼくだって嫌だよ、きみが誰かにそう言うことするの」
「いっ、いてっ、あ…!」

中でぐるりと指先を回すと、ハレルヤは喉を鳴らして悲鳴をあげ、それから借りてきた猫のように大人しくなった。



「血の味がするね」
「ん……っ」

深く口内を侵蝕した後、アレルヤは濡れた舌先でゆっくりと唇を舐めた。先ほど平手打ちを食らったときに切れてしまったのだろう。錆び付いた金属のような味に眉を寄せて、アレルヤはもう一度深く口付けを落とした。お互いの唾液で濡れた唇を深く求め合って、荒くなった呼吸も声も飲み込んでしまいそうな勢いだ。舌先の感覚が鈍感になるほど繰り返していると、やがてハレルヤがアレルヤの髪の毛を掴んで引き剥がした。

「ふっ、…ぁ、苦しい、だろ…」
「うん、解かってるけど」

解かっているけど、加減出来ない。暗にそう思わせるような口調で囁くと、アレルヤは困ったように笑った。けれど、こんな戯れだけで満足できる訳がない。アレルヤは改めて手を伸ばし、すっかり形を変えているハレルヤのものに指先を絡ませて、緩く刺激を与え始めた。

「んっ、…んっ、よせ、もう」
「もう?」
「あっ、う…、く」

声を堪えるように拳を口元に当て、ハレルヤは首を振る。足を大きく開かせると、いつもアレルヤを受け入れている部分がひくひくと引き攣っているのが見えた。物欲しそうにひくつくそこに幾度か指を抜き差しし、アレルヤはあやすような声を上げた。

「明日謝らないとね、ハレルヤ」
「あ……?」
「あの子にだよ、どんな理由があっても、女の子を傷付けちゃ駄目だよ」
「はっ、んなこと、後で」
「駄目だよ、ハレルヤ。ちゃんと言わないと」
「あッ、…ああ、は…」

言いながら、ぐっと差し入れた指先をぎりぎりまで引き抜き、更に押し込む。ハレルヤはびくっと身を揺らして、掠れた声を上げた。見開いた金色の目は、勝手に浮き上がってきた涙で潤んでいる。こんな姿を見るのは、本当に自分だけでいい。

「ハレルヤ?」
「ああ、解かったぜ、言やいいんだろうが」
「うん、よろしくね」

不貞腐れたような返事を確認すると、アレルヤは満足そうに頷いた。



「んっ、…んっ」
「少し、荒いよ。もっと丁寧に」

口内いっぱいに頬張ったものに必死で舌を這わせ、愛撫を加えるハレルヤの顎を、アレルヤはそっと捕まえて嗜めた。

「ふっ、…は、んなこと言ったって、てめ」
「いいから、ハレルヤ」
「んっ、…ぐっ」

口を離し、顔を上げて文句を言うハレルヤの口内に再びずぶりと自身を埋めて、アレルヤは後頭部を抱え込んだ。
始めこそ嫌がってこんなことは絶対にしようとしないハレルヤだったけれど、今は本当に大人しくなった。と言うか、苦労してそうさせたのだけど。
それでも時折、興奮やら劣情やらが相まって、粗相をしてしまうことがある。ぎらぎらと熱を帯びた金の目を見れば解かる。彼が欲しがっているのは解かっているけれど、もう少し。

「もう少し楽しませてよ」
「ふっ、ん…っ、ん!」

ぐ、ぐ、と腰をスライドさせると、ハレルヤは眉根を寄せ、金の目には涙が浮かび上がった。ぎり、と腿の辺りに爪を立てる手をそっと取って握り締める。ハレルヤの抵抗なんて、文字通り仔猫が爪を立てるほどにしか思わない。

「ハレルヤ…」

行為を促すように耳元を撫でると、ハレルヤは嫌がるようにもがいて、もっと奥までアレルヤを咥え込んだ。

「きみがいけないんだよ、あんなこと言うから」

あんな、可愛いことを。
今日のハレルヤの行動は、アレルヤへの独占欲みたいなものだ。可愛い嫉妬だ。そう正直に言ったつもりだったのに、果てしなく気分を害したのか、ハレルヤはぎろりとこちらを睨み付けて来た。快楽に酔っているのに、鋭さを失っていない眼差しに、ぞく、と痺れが走る。

「んっ、もういいよ、ハレルヤ」

ぐっと後ろ髪を掴んで顔を引かせると、体勢を入れ替えて彼の肢体をベッドに組み敷いた。

「はっ、ああ…!!」

宛がったものを一気に奥まで埋めると、ハレルヤの喉がひゅっと短く音を立てて鳴る。十分に鳴らしていても、きついことに変わりはない。けれど、少しずつ腰を揺らしていると、抵抗も少なくなってくる。

「あっ、アレルヤ!てめ、今日は、何だか…」

何だか意地が悪い。そう言いたいのは解かっている。

「仕方ないじゃないか、ぼくだってやきもちくらい妬くよ」
「な、んだよ、それはっ」

言い掛けたハレルヤの声は、掠れた喘ぎに擦り変えれた。もう、無駄話をしている余裕はない。
ゆっくりと中を突くスピードを早めて行きながら、アレルヤは切れた唇の上をそっとなぞった。