technic
ハレルヤが起こしたいざこざから数日。
ようやくまともに口を利いてくれるようになったマイスターたちに、アレルヤはホッとしていた。でも、この前からやたらと気になることがある。
どうしても落ち着かなくて、アレルヤは通路で擦れ違ったロックオンの腕を捕まえた。
「ロックオン!」
「どうした、アレルヤ」
優しい口調の彼にホッとしつつも、真相を知るために、彼を掴む手に力を込める。
「ロックオン、本当のこと教えて下さい」
「ん、何が…」
「スメラギさん、あれからぼくの顔を見ると目を逸らすんです、しかも今にも泣きそうな目で。一体あの時、スメラギさんに何があったんですか」
「…!そ、そうか、ミス・スメラギが…。そりゃ、無理ないかもな…」
「や、やっぱり!何か知ってるんですね」
「い、いや…、それは、俺の口からは…」
言葉を濁すロックオンに、アレルヤは蒼白になってしまった。
実は、ロックオンに尋ねる前に刹那にも聞いたのだけど、彼は『俺は子供だから解からない』とか、意味深な台詞しか言ってくれなかった。ティエリアに至っては、口にしたくもないとか、何とか。
「ハレルヤは、スメラギさんに一体どんな酷いことを…」
思い悩むアレルヤを気の毒に思ったのか、ロックオンは慌ててフォローするように声を上げた。
「いや、アレルヤ。きっとミス・スメラギは泣きそうになってるんじゃなく、何て言うか、目が潤んでるだけだ」
「う、潤んでる?どうして、スメラギさんがそんな」
「いや、あのテクニックを味わえば、無理もねぇ…。数秒で落とされたからって、ミス・スメラギを責めるなよ」
「………」
告げられた内容は結構ショックなことだったけれど。それ以上に何と言うか…引っ掛かる箇所があった。
アレルヤは片方しか見えていない銀色の目をすぅっと細め、疑うような目でロックオンを見詰めた。
「…ってロックオン。何か、今の口ぶり…自分もそのテクニックとやらを知っているような感じですね?」
「え…っ?」
あからさまにぎくりとした彼の様子に、アレルヤの顔から血の気が引く。
「まさか、まさか…、あなたも…」
「い、いや…違う」
「違うなら、ぼくの目を見て違うと言って下さい!」
「違うぜ、アレルヤ。俺はハレルヤとは何もない」
「お、思い切り目を逸らして…?しかも顔が赤いよ、ロックオン」
「あ、いや、その…」
「やっぱり、あなたも、ハレルヤに数秒で…!」
「い、いや!俺は、数秒ってことは…」
「…!!じゃ、じゃあ、落とされたのは事実なんですね!」
「う…っ、いや、まぁ…、その…」
すっかり歯切れの悪くなったロックオンを目の当たりにして、アレルヤはこれ以上ないほど呆然としていた。
「ひ、酷い、酷いよ、ロックオン」
「お、落ち着け、アレルヤ」
ぶるぶると拳を震わせるアレルヤに、ロックオンが慌ててなだめるように声を掛けるけれど、もう遅い。
「ぼくがずっと、あなたのこと好きだって、知ってるくせに」
「いや、だからその…違うんだって!俺はただ…」
「あんまりだよ、ロックオン!!」
「アレルヤ!」
呼び掛けるロックオンの声など耳にも入っていないように、アレルヤは脱兎の如く彼の前から逃げ出してしまった。
部屋に戻ると、アレルヤは早速もう一人の自分に向かって呼び掛けた。
「ハレルヤ!ハレルヤって!」
―あぁ?何だよ、うるせぇな。
不機嫌そうな声にはお構いなく、ぐっと拳を握り締めて尋ねる。
「きみ、ロックオンに何かしたのかい?正直に答えてよ!」
―何だぁ?喚くなよ、アレルヤ。
「いいから!早く!」
軽口を一喝すると、ハレルヤは嘲るように鼻で笑った。
―ロックオンて、ハッ、あいつか。ガンダムマイスターの年長者さまもちょろいもんだ。
「そ、そんな、何で…」
―知るかよ!てめぇがぼやぼやしてるからだろうが!
「……っ」
ガン!とショックを受けたアレルヤだったけれど。続くハレルヤの言葉に、ハッとしたように顔を上げた。
―けど、安心しろよ。別に最後までヤった訳じゃねぇ。
「え……」
―後はてめぇが好きにしな。抱くのも抱かれんのも、好きにすりゃいいだろ。
「ハ、ハレルヤ…」
―まぁ、せいぜい頑張れよ、アレルヤ。
「ハレルヤ!ありがとう!」
先ほどと打って変わって目を輝かせると、アレルヤはくるりと身を翻してロックオンの元へと足を進めた。
そして、数分後。
「そう言うことですから、大人しくしていて下さい」
「え、そう言うことって、急に言われても、おい、アレルヤ!?」
「ロックオン、ぼくも頑張るから、ハレルヤに負けないように」
「え、あ…、っっ?!」
問答無用でその場に押し倒されてぐっと唇を塞がれ、ロックオンは何がなんだか解からないまま翠の双眸を大きく見開いた。
終