Infinity2




「ただいま」
「お帰りなさい、遅かったんですね」
「ああ、今日も忙しくてな」

アレルヤが家に来て、もう一ヶ月経つ。
最初は戸惑うことばかりだったけれど、彼はなかなか出来の良い人形だった。家事も教えればそれなりに出来るし、掃除もしてくれた。
それに、最近では段々とキスにも慣れて来て、ベッドの上で交わすそれは確実に深く欲求を煽るものになっていた。
でも、関係はまだない。それでもいいと思えているから不思議だが。

「出来が、いいんだな、お前」
「え……?」

ふと、食事の片付けをしているアレルヤの背中に、ロックオンは呟きを漏らした。
きょとんとしたグレイの目に、優しい笑みを浮かべてみせる。

「最初は悪いと思ったけど、そうでもないぜ」
「あ、ありがとう、ロックオン」

褒め言葉に、彼の目は輝き、そして口元は綻んだ。
本当に、精巧に出来ている。返品する気など、もう更々なかった。



今晩も、ベッドに寝転んで、ゆっくりと唇を合わせた後。頬を撫でていたアレルヤの手は、ゆっくりと首筋を伝い、そしてロックオンの胸元へと伸ばされた。久しい刺激に反応して、びく、と肢体が揺れる。アレルヤの手の平は熱く、胸を撫でる手は優しい。

「ん、アレ…ルヤ」

思わず掠れた声で名前を呼ぶと、彼の息が上がったような気がした。
そのまま体が押され、背中にベッドの感触がする。押し倒され、その上に圧し掛かるアレルヤの体。もう、他のアンドロイドとは何度となく体験しているはずの光景に、ロックオンはやたらと興奮と緊張を覚えた。
彼の変なのが、自分にもうつってしまったのだろうか。でも、耳に届く心臓の音は、何故か心地良い。

「ロックオン」

欲情を孕んだ声に名前を呼ばれ、顔を上げる。アレルヤは未だ優しくロックオンの胸を撫でながら、もう片方の手で腰を抱えた。ぐっと密着され、腹の底に痺れるような熱が生まれる。

「ぼくは、あなたを抱いてみたい」
「え…、ああ、そう…、か」

正直、遅過ぎる申し出だった。

「いいですか?そうしても」

それに、何故許可など取ろうとするのか。

「ああ、ってか…、その為のもんだろ、お前は…」

そう言うと、彼は悲しそうに首を横に振った。

「そんな風に…言わないで下さい。ぼくは、あなた以外の人は、抱きたくない」
「アレルヤ」
「あなた以外、欲しいなんて思えない」
「アレ…ルヤ…」

それは、そう言う風に登録されているからだ。今までの人形たちだって、そうだった。
あなたは最高だとか、綺麗だとか、そんな褒め言葉を当たり前のように囁き、甘いひと時を与える。それが、当然のことだったのに。
今は、アレルヤの言葉に胸を熱くしている自分がいる。何だろう、この、妙な感覚は。
ロックオンは震える吐息を吐き、そしてゆっくりと頷いた。

「ああ、解かった。いいぜ、アレルヤ」
「ロックオン…」

受け入れの言葉に、アレルヤは表情を輝かせ、グレイの目に昂ぶった欲望の色を浮かべた。



「ぁ、…う、…あ…」

しつこいまでに中を抉られ、指を抜き差しされ、ロックオンはベッドの上で白い足を引き攣らせた。アレルヤの愛撫は、以前初めてキスを交わしたときのように、ぎこちなく荒っぽいものだったが、その全てに反応して甘い声を上げてしまう。正直、頭が霞んで、自分が何を口走っているのかも、解からなくなっていた。

「んっ…、もう、もういい…アレルヤ、もう…」
「駄目ですよ、もっと」
「ぁ、…あ!アレル…ヤ…っ」

奥深くまでアレルヤの指を咥え込んだ秘部が彼を求めてあさましく収縮し、仰け反った喉は彼の名を呼んで震えた。

「アレルヤ、頼む、これ以上は…っ」

耐え切れなくなって叫ぶと、ズっと内壁が擦れて指が乱暴に引き抜かれた。
膝が抱えられて、アレルヤの目下に奥が晒される。羞恥を感じた直後、彼のものが深く割り入って来た。

「う、…くっ、ああ…!」

短い悲鳴を上げ、敏感な場所を擦り上げられ、ロックオンは限界へと達した。ぽたぽたと零れる体液を掬い上げ、アレルヤが微笑む。

「ロックオン、凄い」
「あ、よせ……」

何故、羞恥など感じるのか。相手は、ただの…。
でも、考えを巡らせている暇などない。彼が腰を使い始めて、ロックオンは再び掠れた声を上げて喘いだ。
肌がぶつかり合う音と、二人の呼吸と、自分の鳴き声のような情けない声しか聞こえないのに。どうして、早く終わってしまえとは思えないんだろう。

「ん、ぁ、…アレルヤ…」

善いところを突かれると、内壁が収縮して彼をきつく締め付ける。
アレルヤの吐息も上がり、彼は腰を打ち付ける速度を早めた。
そして、耳元で熱い吐息と共に囁きかける。

「このまま、あなたの中でいきたい」
「えっ、…あ」

意外な申し出に、ロックオンはびく、と肩を揺らした。
後が大変だから、それは…。そう言う間もなく、アレルヤは更に強く律動を始め、そしてロックオンの腰を両手で抱え上げた。

「よ、よせ…っ、駄目だ!」

どこまでも貫かれるのではと思うほど深く犯され、恐怖と共に目を見開いた直後。

「あ……ッ!」

内壁に熱いものが叩き付けられ、ロックオンは体を震わせた。

「ロックオン…」

彼は肩を上下に揺らして荒い呼吸を吐き、そしてロックオンの中からずるりと自身を引き抜いた。

「お、前…駄目だって、言ったろうが…」

息も絶え絶えに抗議すると、アレルヤは汗で濡れた長めの前髪をゆっくりと掻き上げ、そして笑顔を作った。

「すみません。我慢が、利かなくて」
「後が大変なんだぞ、全く…」

行為の余韻に浸りながらも、溜息混じりに言うと、アレルヤは反省する様子もなく、小さく肩を竦めた。

「大丈夫ですよ。浴室に行きましょう」
「あ……?」
「ぼくが、してあげます」
「いっ?いや、そ、そんなの、いい!」
「いえ、させて下さい」
「ア、アレルヤ」

返事を聞く間もなく、腕が引かれ、彼の腕に抱き抱えられた。なんて凄い力だ。
アンドロイドだから、当然だろうけれど。主人の要望は無視か。
文句を言う間もなくバスルームに押し込まれ、熱い湯を浴びせられた。

「後ろ、向いて下さい」
「あ、ああ…」

戸惑いつつも、彼の言うまま背中を向ける。途端、ぐいと寄せられた体温に、ロックオンは身を硬くした。

「大丈夫です、力を、抜いて」
「っ、ぁ…!」

先ほどまで彼を受け入れていた場所に、指先が強引に潜り込んで来た。行為の痕跡を流すように、指先が流し込まれた体液を掬い取る。酷い羞恥と共にじわりと疼く痺れを感じて、ロックオンは必死に身を捩った。

「あっ…よ、よせ、やっぱり、自分で…」

後ろを向こうとした背が、壁に押し付けられて押さえられる。

「おい、アレルヤ?!」

驚いて声を荒げると、耳元に彼の唇の感触がした。

「もう一回、したくなるから…?」
「……っ」
「だから、嫌なんですか」
「アレ…ルヤ…」

低く囁かれ、背筋に痺れが走った。違う、と…否定したいのに、咄嗟に言葉が出ない。
どうして、こんな…。
再び体を這い出した手の平の感触に溺れながら、ロックオンはただきつく目を閉じた。



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