翌日。
アレルヤはきちんと多めにビールを買って、それから家に帰った。
ビールだけじゃない、ロックオンの故郷のお酒や、ポテトのサラダなども忘れずに購入して。
それから、二人でまた一緒に飲んだ。
仄かに酔っているロックオンは、いつも真っ白な首筋が少し高潮していて、熱いと言って髪を掻き上げたときの仕草はドキっとするほど色っぽかった。
男の人なのに。そんな風に思うなんて。
でも、本当の気持ちだ。
こんな思いを抱いていると知ったら、彼は出て行ってしまうだろうか。
それは、嫌だ。ただでさえ、期限があるのに。
でも。缶に口を付けるときの口元に、思わず目が行ってしまう。
綺麗な横顔とか、すらりと伸びた手足とか。無性に触れたいと思う。
手を伸ばせば、すぐに触れられる距離にいるのに。何だか、もどかしい。
そんなことを考えていたアレルヤは、近付く気配に気付かなかった。
「どうしたんだよ、アレルヤ」
「え……」
不意に、すぐ側で声がして目を上げると、ロックオンの顔がすぐ間近で見えた。
「え、な、なに?」
思わず狼狽してうろたえた声を上げると、ロックオンはアルコールのせいか、とろりとした目でじっとアレルヤを見詰めて来た。
「お前、本当に大人っぽくなったよなぁ…」
「そ、そうかな」
そんなに至近距離でそんなことを言われて、心臓が早鐘みたいに鳴り出している。
ロックオンにまで、聞こえてしまいそうだ。
でも、動けない。
綺麗な顔が、こんなにすぐ側にあって、逃げることも出来ない。
「あの頃は、何て言うか可愛かったもんなぁ」
「……っ」
はは、とロックオンは声を上げて笑った。
楽しそうな声色。
でも、アレルヤの胸の内は相反して不穏に騒いだ。
このまま。このまま、触れてしまいたい。
ベッドはあんなにすぐ側ににある。
あそこに押し倒して、組み敷いて、思う存分、あの唇を味わいたい。
そして、あの白い肌をもっと見たい。衣服なんて、取り去ってしまいたい。
手首を掴んで押さえ付けて。止めろ、と言う声を喉に噛み付いて塞いで。
(ロックオン…)
酔っている、せいだろうか。いつもよりリアルにそんなことを思い描いて、アレルヤは思わずごくりと喉を鳴らした。
もう、押さえが利かない。
少し前に味わった、あんな缶ビール越しの冷たい感覚じゃなくて、もっと温かい唇を思う存分貪ってしまいたい。
「ロック、オン」
心の底から絞り出すような、震える声で、アレルヤは彼の名前を呼んだ。
唐突に、手を伸ばして腕を捕らえるとロックオンは蕩けたような翠の目を上げた。
ぼんやりとした、焦点の合っていないような、そんな視線。何も解かっていないようなその目に、罪悪感が込み上げたけれど、もう止まれない。
アレルヤは彼の腕を引いて引き寄せ、強くその唇を奪った。
「ん、…ぅ…?」
触れた瞬間、頭の奥まで痺れたような感覚が走った。
柔らかい唇の感触に、じわじわと広がる、甘い痺れ。それが、強烈な欲求になってアレルヤの下肢を蝕む。
「んっ、…っ!」
突然の行為に驚いて息を飲んだのか、ロックオンの喉はひゅっと小さく音を立てた。
微かにもがこうとする動きを封じるように、頭を背後から抱き抱えて、尚も深く口内を貪った。
逃げる舌を強引に絡め取り、無茶苦茶に吸い上げて、呼吸まで奪う。
ロックオンの胸板は忙しなく上下し、二の腕はアレルヤから離れようともがいた。
腕一本で抵抗を封じると、アレルヤはそのまま彼の肢体を押し倒した。
「アレルヤ!」
狼狽に揺れる声。見上げる双眸には怯えの色が浮かんでいる。
その声も目も、アレルヤにとって心地良い。
ずっと、こんな声が聞きたかった。あの頃から、ずっと。
本当は綺麗な憧れの思い出なんかじゃない。
もっと生々しく、この手で触れて、汚してしまいたかった。この人を、自分のものにしたかった。
「ごめん、ロックオン」
「…アレルヤ、お前」
「もう、止まれないよ、ごめん…」
静かな声でそう告げると、翠の双眸は驚いたように見開かれた。
でも、次の瞬間、抵抗はぴたりと止まった。
「……ロックオン?」
「お前が、そうしたいなら…」
「……?」
「してくれよ、アレルヤ」
「え……」
「アレルヤ、いいぜ、お前なら」
もっと、拒絶の言葉が返って来ると思ったのに。
思いもかけない受け入れの声に、アレルヤはグレイの目に不安の色を浮かべた。
でも。でも、こんな機会は、もう二度と来ないかも知れない。
彼も、酔っているから、だから受け入れてくれる気になっただけかも知れない。次は、ないかも知れない。
そう思うと、指先は勝手にロックオンの胸元を強引に弄りだしていた。
「ん……っ」
きゅっと突起を指先で摘みあげると、びくんと体が震えた。
同時に漏れる、甘い声。
息が詰まるほどの興奮を感じながら、アレルヤは夢中になってその場所を愛撫し続けた。
ひくひくと震える喉元と、反応を返す体に羞恥を感じたのか、ロックオンがアレルヤの下で僅かに身を捩る。
「あ…、い、やだ」
「…さっきはいいって言ったのに…嘘だった?」
「ち、違う…」
「酷いね、ロックオン…」
「あ、アレ…ルヤ…」
そんな揶揄する言葉を優しく吐きながら、アレルヤは赤く染まった両方の突起を撫で、首筋に熱い唇を押し付けた。
でも、やがてそれだけじゃ足りなくなって、手は脇腹を探るように伝って、下へと降りる。
始めは柔らかく、じれったい刺激をやわやわと与えていると、ロックオンは淫らに腰を浮かせて、次の行為を強請った。
「ロックオン」
「んっ、アレ、ルヤ」
甘い声が自分を呼ぶ。耳に心地良い、聴覚を刺激して更に煽るような声だ。
アレルヤは夢中で彼の衣服を取り去って、白い二の足を掴んで左右に開かせた。
内股をなぞって、指先を奥へと忍ばせる。
「んっ!」
ぐ、と力を込めて侵入すると、ロックオンは眉根を寄せて苦痛に似た声を上げた。
「ごめん、痛い?」
「…少しな、でも、大丈夫だ」
辛そうにしながらも、ロックオンは無理矢理その顔に笑みを浮かべて言った。
汗の浮かんだ額に、柔らかい髪の毛が張り付いている。は、は、と短く息を吐く唇。
こんなもの、知らなかった。こんなに胸の中を掻き回すものがあるなんて。
「ああ、あッ!」
そんなことを思いながら、アレルヤはずぶりと指を埋め込み、短い悲鳴を唇で塞ぎ、そしてゆっくりと抜き差しを始めた。
十分に慣らした後、侵入した彼の中は温かかった。
本当に心地良くて熱くて、アレルヤはただ夢中で身を進めた。
引き攣る白い足と、無意識に逃げるように揺れる腰は、薄暗い部屋の中でも解かるほど酷く扇情的で、我も忘れて快楽を求めた。
「ん…っ、んぁ、あ…」
「ロックオン!」
アレルヤが突き上げる度、白い喉が仰け反って掠れた声が上がる。
このまま、もう何もかも解からなくなってしまいたい。
そんな思いに急かされるように、繰り返しロックオンの体を掻き抱いた。
そんな行為を、どの位続けていたのか。
不意に、ずっと耐えるようにきつく閉じられていた彼の翠の目が薄っすら開いて、ゆっくりとアレルヤを見上げる。
苦痛の為か、生理的な物か、見開いたそこから零れ落ちた水滴に、全身の血が滾るような感覚を覚えて。
「…っ、ぅ!」
次の瞬間、アレルヤは彼の中に弾けた欲望を吐き出していた。
「はァ…っ、は、…」
荒く吐き出されるロックオンの吐息が、アレルヤの耳元を掠める。
びく、と引き攣った両足と、下肢を濡らす白い体液に、彼もこの行為で限界を迎えていたことが解かった。
「ロックオン、大丈夫?」
優しく労わるように声を掛けると、彼はゆっくりと視線を上げ、首を縦に振った。
「ああ、大丈夫だ、アレルヤ」
優しく返って来る言葉が嬉しい。
こんな欲情を彼に抱いて、こう言う形で犯してしまたったら、返って来るのは拒絶ばかりだと思っていたのに。
彼に、ひたすら受け入れて貰えた。
まだ力の抜けた肢体を逞しい二の腕で抱竦めると、これが幸せと言う気持ちなんだろうかと、アレルヤはぼんやりと思った。
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