「好きなんですよ、あなたのことが」
「おいおい、俺は男だぞ」
「そんなことは解かっています。でも、好きになってしまった」
「アレルヤ」
「あなたが好きです、ロックオン」
アレルヤとそんな会話を交わしたのは、数日前のことだ。
散々迷ったのだろうか。真っ直ぐにこちらを見詰めて来たアレルヤの目の下には、くっきりと隈が浮き上がっていた。握り締められた両の拳には、ぎゅっと力が入ってる。
けれどそんな彼に、ロックオンは躊躇いなく答えた。
「アレルヤ。お前の気持ちは嬉しいが、受け入れることは出来ない」
「……」
「悪いな。お前のことは大事な仲間だと思ってる。でも、それだけだ」
「そう、ですか…」
率直過ぎる台詞に俯いて応えると、彼はそのまま背を向けて行ってしまった。
彼の気持ちは嬉しい。でも、そう言う関係になることは出来ない。
「ごめんな、アレルヤ…」
見送った後姿を思い浮かべ、ロックオンはもう一度謝罪の言葉を呟いた。
その数週間後。
ミッションを終えてトレミーに戻って来たアレルヤを見つけて、ロックオンは擦れ違いざまに笑顔を向けた。
「ご苦労さん、今回は結構大変だったろ」
「ええ、まぁ」
「ゆっくり休めよ」
軽く肩に手を置いて、そのまま行こうとすると、不意にその手が掴まれた。
「ロックオン」
「ん…?」
ぐい、と引かれて、足を止める。
顔を上げると、アレルヤは困ったような顔で笑った。
「優しいんですね、あなたは」
「…アレルヤ?」
「ぼくの気持ちを受け入れてくれないけど、優しくはしてくれる。でも、残酷です」
捕まえられたままの手に、ぐっと力が入る。彼の葛藤が伝わって、ロックオンは短く息を飲んだ。
彼の言うことも解からない訳ではない。けれど…。
「言っただろ、アレルヤ。俺はお前のことは仲間として大事に思ってる。だから…」
「それが残酷だと言っているんですよ」
「仕方ねぇだろ。俺に、お前とは口を利くなと?」
「そうじゃない、そうじゃなくて」
緩く首を打ち振って顔を伏せると、アレルヤはそのまま黙り込んでしまった。
悲しそうな顔に、ちくりと胸が痛む。そんな顔をされたら、やはり自分は優しくしてしまいたくなる。
残酷だと言われても、放ってなんておけないのだ。
少し迷った末、ロックオンはそっとアレルヤの頬に手を伸ばした。
長い髪に覆われていない頬を手の平で包んで、そっと自分の方を向かせる。
彼の目に自分の姿が映るのを確認すると、優しい口調で尋ねた。
「アレルヤ…。俺にどうして欲しいんだ」
「それを言えば、聞いてくれるんですか」
「さっきも言ったが、お前は大事な仲間なんだ。お前は迷惑かも知れないが、弟みたいに思ってる。でも、心はやれない。だから…」
だから、他のことなら。
言い終えると、アレルヤの目は困惑に揺れた。
でも、やがてその目は落ち着きを取り戻し、好きだと言ったあのときのように、真っ直ぐにこちらを見詰めて来た。
そっと持ち上がった手の平が、頬に触れているロックオンの手を覆う。触れられた場所から、アレルヤの熱が伝わって来た。
触れ合ったまま、暫くそうして。やがて、彼はゆっくりと口を開いた。
「じゃあ……あなたの体を、ぼくに下さい」
「……?」
(え……)
ゆっくりと、吐息のように吐き出された要望に、一瞬耳を疑う。
アレルヤは、ロックオンの手の甲を愛撫するようにそっと撫でた。
「心はやれないと言うなら、体だけでも」
「お、い…何言って…」
「本気ですよ。抱かせて下さい」
銀色の目に射抜かれたように、ロックオンはそれ以上身じろぎすることが出来なくなった。
元より、アレルヤに告げた言葉は嘘ではない。本当に、心以外なら、与えてもいいと思っていた。
でも、ぶつけられた欲求はあまりに真っ直ぐで明確で、一瞬躊躇してしまった。
まさか、アレルヤがそんなことを言うとは思っていなかった。好きだから、抱きたいとか触れたいとか、それは自然なことなのだろうけど。
(俺には、解からねぇ…)
解からないけれど、でも。そんなことで構わないなら…。
頭の中で思いを巡らせ、少しの間の後。
「解かったよ、アレルヤ」
そう言って、ロックオンは首を縦に振った。
「俺の体は、お前の好きなようにしていい。ミッションに支障が出ない限りは、自由だ。ただし、心はやれない。だからお前も、欲しがらないと約束しろ」
「ええ……。解りました、ロックオン」
アレルヤが頷いたのを確認すると…何かの印のように、二人は顔を寄せ、触れるだけの口付けを交わした。
温度を感じるだけの、無機質で感情のないキス。
それが、密かな行為の始まりだった。
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