旧約2




触れていた唇を離すと、アレルヤはそっと囁いた。

「ぼくの、部屋に」
「……」

告げられた要望に、短く息を飲んだ。
勝手に強張る体を落ち着けようと、一度深く息を吸い込んで吐き出す。
改めて腹を括ると、ロックオンはゆっくりと頷いた。

「了解だ…アレルヤ」

無言のまま、アレルヤの部屋へ向かう。いつもは何気なく通過している通路が、何だかやたらと長く感じた。だが、それはいつまでも続いている訳ではなく、やがてアレルヤの部屋へと辿り着く。この扉を潜ってしまったら、もう引き返せない。
いや、先ほど唇を合わせた時点から、もうとっくに手遅れだ。
未知の行為に震える手足を叱咤して、ロックオンは部屋の中へ足を踏み入れた。

「で、どうすりゃいい…?」

今更、羞恥に戸惑っていても仕方ない。もう腹は決まっているのだ。
半ば開き直ったように問い掛けると、静かな視線と目が合った。
アレルヤの指先がすっと持ち上がって、後ろにあるデスクを指し示す。

「後ろを向いて。そこに手を…」
「あ、ああ…」

言われるまま、アレルヤに背を向けて、デスクの上に両手を突いた。
背後に感じる気配に、思わず四肢が強張る。
当然だけど、こんなことをしたことはない。知識はなんとなくある。でも。

「ぁ……っ」

そんなことを思い巡らしていたら唐突に伸びた手に腰を抱かれ、ロックオンは身を硬くした。
空いた方の指先は背中に触れ、肩甲骨の辺りをなぞる。
びく、と身を硬くして反応を返すと、熱を帯びたアレルヤの吐息が首筋に掛かった。

「ロックオン」
「……っ」

欲情に駆られた声に名前を呼ばれ、ぞくりと肌が粟立つ。
自分に向けて注がれる剥き出しの欲に、ロックオンは知らず恐怖を感じた。
背中に合わせられた屈強な胸板から、彼の鼓動が伝わって来る。熱を持って触れる手は、アレルヤのものではないような気さえする。
やがて、背から徐々に胸元にずれて来た手の平が、突起を摘んでぎゅっと力を込めた。

「ん……っ」

突然与えられた強い刺激に、ロックオンは歯を食い縛って耐えた。
けれど、腰に回っていた手に直接中心を弄られ、その忍耐も呆気なく崩れ去る。

「ぅ、ん……っ、あッ!」

柔らかく中心を握り込んだ手に、ゆるゆると愛撫を加えられ、胸元を強弱をつけて弄られる。

「ぁ、ぅ……んっ」

次いで、耳元に触れるぬるりとした、アレルヤの舌。びくりと肩が震え、堪えていても勝手に息が上がってしまう。
薄暗い部屋と、交わされることのない会話が、背徳感に輪を掛ける。どくどくと早鐘のように鳴る鼓動に、吐き気が込み上げる。

「アレ、ルヤ…」

堪らずに、背後から圧し掛かる男の名前を呼ぶと、彼の体温が明らかに上昇したのが解かった。
衣服が殆どはだけられて、アレルヤの目下に晒される。
あり得ない屈辱だ。自分で望んだのでなければ、耐えられることではない。
それに、相手が…アレルヤ、彼でなければ。

(アレルヤ…)

余裕のない自身を叱咤するように、ぎゅっとデスクを掴む手に力を込める。

「うぁ…っ!」

直後、ぐっと割り入って来た指先に小さく悲鳴を上げた。

「力を抜いて」
「わ、かってる…、ぅっ」

ロックオンが四肢から力を抜くのを見計らって、アレルヤは奥へと進む。
唾液でほんの少し潤っただけの指先が、ロックオンの内部を犯し、徐々に侵食しようとしていた。

「足をもっと、開いて」

言われるままに、震える足に鞭打って両足をゆるりと開くと、即座に増やされた質量に息が詰まった。


どの位、そんな時間が続いたのだろうか。
慣れない痛みに、ロックオンの額には汗が浮き上がり、噛み殺そうとして失敗した声は幾度も唇から溢れて、手足は小刻みに震えていた。
それでも、まだ終焉には程遠い。
ようやく出て行った指先の代わりに宛がわれたものに、びくりと身を強張らせ、息を吐いた途端。

「うあ…っ!あ――っ!!」

ぐい、と押し入って来る熱い塊に、ロックオンは引き攣った悲鳴を上げた。
体の中心に走る痛みに、デスクに突っ伏して呻きを上げる。

「うッ、ぐ…、ん…っ!」

アレルヤが両手で腰を抱き、手加減なく揺さ振り出した。
体を支えきれなくてデスクからずり落ちると、彼の手に抱き抱えられる。

「ちゃんと捕まっていて下さい」
「は、……ぁ、あ!」

言われるまま力を入れ直すが、すぐに始まる律動に再び体が崩れ落ちる。
やがて、上手く行かない行為に痺れを切らしたのか、アレルヤは一度自身を引き抜いて、それからロックオンの体をベッドに投げ出した。
うつ伏せに組み伏せられ、腰が抱かれる。

「ロックオン」
「ああ…ッ、あ!」

いつもより低い彼の声に名前を呼ばれ、再び奥まで貫かれた。
アレルヤと繋がっている部分が、酷く熱くて、内側から溶けそうだ。
それでも、与えられているのは痛みだけではない。時折、彼が戯れのように与えて来る愛撫に、無意識にシーツを手繰り寄せ、きつく握り締めて堪える。

そうして、更に長い時間が続き、アレルヤが自分の中で弾ける瞬間。
そう言えば…ここへ来てから一度も唇を合わせることはしなかった、などと場違いに思いながら。ロックオンの意識は薄れ、暗がりの中へと飲み込まれて行った。



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