旧約3




アレルヤが言うままに彼の行為を受け入れてから、もう大分経つ。
彼の要望を聞き入れ、なすがままにベッドに横たわる。場所はロックオンの部屋だったりアレルヤの部屋だったり。あるいは他の場所だったこともあった。
例えば、二人で買出しに出かけたときなど……。

「あとは何かいるか、アレルヤ」

尋ねた自分に、荷物を積んで車に乗り込んだアレルヤは、そっと首を横に振った。

「いえ。もう買う物はありませんけど……二人になりたい」

告げられた言葉に、どき、と鼓動が跳ねる。咄嗟に取り繕うとして、ロックオンは見当違いな台詞を吐いた。

「今、二人だろ」
「そう言う意味じゃなくて…帰ったら、出来ないでしょう」
「……アレルヤ」

彼の気持ちは、こんなものでは覆らない。寧ろ、ロックオンが上手くかわそうとすればするほど、気乗りしなければしないほど、彼は深くのめり込んでいくように見えた。

「いけませんか?今は休暇中だ。ミッションに、支障は出ないと思いますけど」
「ああ、そう…だな」

こう言うとき、行為を請うアレルヤは常に淡々としていて、何を考えているのか、よく解からない。普段から穏やかであまり激高することのない彼だけど、ロックオンを抱くときの激しさには驚かされる。だからこそ、今の冷淡な態度に混乱する。
でも、何も考えることはない。体はやると約束したのだから。

人気のない場所へ着くと、アレルヤは車のシートを倒し、ロックオンの体を自分の方へと抱き寄せた。腕を引かれ、運転席からずれた体がアレルヤの上へと圧し掛かる。体を合わせると、既に彼の体温が熱くなっているのが解かった。
行為は即座に始まり、余計な感傷に溺れている暇などない。そこにはただ、アレルヤの要望があるだけ。自分はそれをどこまでも受け入れるのみだ。
それでも、必要な部分だけ衣服を寛げ、巧に入り込む指先に、ロックオンは甘い吐息を漏らした。
狭い車内で、満足に身を揺らすことも出来ない状態で、彼は愛撫を施す。

「ん……っ、く」

上に圧し掛かり、促されるまま腰を沈めて行くと、掠れた声が勝手に漏れる。
何度も短く息を吐きながら、彼の手で快楽を引き出された体が、徐々にアレルヤを飲み込んで行く。
けれど、こんな場所で十分に慣らせるはずもなく、彼を受け入れる度、粘膜の擦れる音が聞こえるようで、内股は引き攣って小刻みに震えた。

「アレ、ルヤ……」

苦し紛れに発した声は、行為を促しているのか、制止したいのか、自分でも解からない。

「…っう、あ…!」

けれど、彼はこちらが最後まで身を沈めるのを待たず、下からゆっくりと突き上げを始めた。引き攣る痛みを堪えて、アレルヤの肩にしがみ付く。

「はっ、ぁ……う」

やがて、完全に彼を中へ迎え入れると、アレルヤは強く腰を揺らし始めた。

どんな場所であれ状況であれ、ロックオンは可能な限りこうしてアレルヤを受け入れ続けた。拒否することはほぼなかった。
最初でこそあんなに苦痛を感じた行為も、慣れるとあさましいまでの快楽に変化していた。アレルヤの手は優しく情熱的だったから、尚更だ。
そうやって何度も重ねられる行為に、ロックオンは次第に自分の中で何かが可笑しくなっていくのを感じていた。

「ロックオン」
「……んっ」

欲情を湛えたアレルヤの声に名前を呼ばれる。それだけで、何だか気分は酷く高揚した。
流されているのだろうか。それは、そうかも知れない。

でも、最近少し考えることがある。
もし。もしも……。

「ロックオン」
「え、あ……何だ」
「何を考えているんです」
「何でも…」
「………」

視線から逃れるように目を逸らすと、何か言いたげに息を吸い込む気配がした。
けれど、その唇はそれ以上言葉を紡ぐことなく、代わりに突き上げる動きが開始された。

引っ切り無しに与えられる快楽に酔いながら、もう一つ、思うこともある。
何度行為を重ねても、アレルヤは唇には触れようとしない。ただ一度、約束を交わしたときに触れたあの感触が、ロックオンが知っている彼とのキスだ。
求められないから、ロックオンからすることも勿論ない。どんなに淫らに体を抱いても、アレルヤはそうしようとしなかった。
残っているのは、あの冷たいような感触だけ。
それがどうしたのだと言われたら、何も言えない。
でも……。
何だか複雑な思いに駆られて、ふと、自分を征服している男を見下ろすと、何だか余裕のない表情が見えた。
片方しか見えない彼の目は熱と快楽に確かに酔っているはずなのに、何だか苦しそうで、そんなはずないのに、泣いているようにも見えた。

(何だよ、アレルヤ)

そんな顔をするな。
言葉にならない台詞を、胸中で呟く。同時に、自分の胸の中もちくりと痛んだ。
アレルヤ。
もし、あの時あんなことを言って来たのが彼でなければ。それでも、自分はこうして受け入れたのだろうか。
初めて受け入れた瞬間、確かにそんなことを考えたような気がする。
その疑問に、答えてくれる者はいない。けれど最近、それだけが頭の中に巣食って離れなかった。



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