そのベッドが、あまりにも心地良かったせいか。
いつの間にか、眠ってしまったらしい。
「ん……」
目を覚ましたのは、首筋に何だかくすぐったいような感覚がしたからだ。
けれど、まだまどろんだ状態で意識ははっきりしていない。だから、今の段階ではその感じが何なのか、あまり気にならなかった。毛布か何かが軽く触れているだけだと思ったから。
びく、と身を硬くしたのは、濡れた感触が首筋にして、意思を持って吸い付くように触れられたからだ。
柔らかくて温かい感触。紛れもない、誰かの唇が首筋に触れている。
(誰かって……)
アレルヤしか、いないではないか。
「ア、アレルヤ?!お前、何して…!」
ひっくり返った声を上げ、ロックオンはベッドから勢い良く起き上がった。
そのつもりだった。
半分起こし掛けた体が、あっと言う間に押し返されて、再びベッドに沈む。
続いて、ぎり、と力を込めて手首が掴まれ、ベッドに沈んだ。
「アレ、ルヤ…」
呆然と呟くロックオンの双眸に、アレルヤの整った顔が映し出される。
そうして、彼はゆっくりと顔を寄せると、先ほどよりも強く白く滑らかな首筋を吸い上げた。
「んっ……ぅっ」
小さな痛みが走って、ざわりと背筋が痺れる。
熱い吐息が触れ、肌が強烈に粟立った。
「な、何して……おい、アレルヤ!」
圧し掛かるアレルヤの頭を引き剥がそうと、ロックオンは必死に手足を動かした。
けれど、どれだけ力を込めているのか、びくともしない。
何て強い力だ。あの柔らかい物腰で、人畜無害な顔で、こんな…。
呆然としている間に、両の手首は彼の腕たった一本であっさりと押さえ込まれてしまった。
更には腰の上に馬乗りになるように乗られ、ロックオンは自分がかなり不味い状況にあることにようやく気付いた。
「ア、アレルヤ!」
取り敢えずもがいても逃げ出せないので、代わりに大声を上げてみる。
その間にも、瞬く間にシャツがたくしあげられて、ロックオンは息を飲んだ。
何だ、この体勢は。押し倒され、衣服を緩められ。これは、まさか。
思い浮かんだ疑問を、首を振って打ち消す。
そんなことは、あるはずない。あってはいけない。
不安に挫けそうになる心を叱咤するように、ロックオンは敢えて大きな声を上げた。
「止めろって、お前!ふざけるのも……っ」
「静かにして下さい。あんまり騒ぐと……弟が起きちゃいますよ」
「……?!」
このとんでもなく異常な状況で、あくまで穏やかなアレルヤの声が響いた。
いつもと変わらない、優しいとすら思える声色。
けれど、そのギャップが、余計にロックオンに不信感を呼び起こした。
「なに、言って…弟なんて、どこに…っ」
「いるんですよ。今までだって、ずっと側にいた。いや、弟なんかなじゃい。彼は、ぼくの中に…」
「アレ…ルヤ?」
何を?何を言っているのだろう?
どく、どくと少しずつ鼓動が早くなって行く。
抱いた違和感が、得体の知れない恐怖に擦り変わる。
「いいんですか?他の人にも、こんなとこ見られて」
「な、なに……」
彼は一体、何を言ってるのだろう。
押し倒して勝手に上に乗っかって衣服をはだけさせ、更に脅迫めいた台詞を吐く年下の男を、ロックオンは呆然と見上げた。
「アレ、ルヤ…?」
「すみません、いきなり…。でも、あなたがいけないんですよ、無防備に眠ったりするから」
「え……?」
頭の中に盛大に疑問符が浮かんだ、直後。
伸びて来た手に下肢を弄られ、ロックオンは身を硬くした。
「あ…っ、なにっ…」
無造作に投げ出されていた足が、びく、と引き攣り、喉が鳴る。
すぐに我に返って必死で抵抗を始めたけれど、いくら暴れてもびくともしない。
それどころか、衣服の上から直に擦り上げられ、撫で回され、体は呆気なく反応してしまう。
「アレルヤ、や…っ、よせ!!」
「可愛い、先生…。最近、してなかったんですか」
容易に硬く立ち上がり始めたものに気付いたアレルヤが、揶揄するように囁く。
その言葉に反応して、耳が真っ赤になるのが解かった。
「仕方、ねえだろ!お、お前の、せいで…っ、忙しかったんだよ!」
て、何をバカ正直に弁解しているのか。
「じゃあ、ぼくが責任取らないといけないですよね」
その上、揚げ足を取らんばかりにそんなことを言われ、ひゅっと短く息を飲む。
「ば…っ、よせ!アレルヤ!」
先ほどよりも大胆に愛撫を加え出した手の平に、ロックオンは余裕のない声を上げた。
衣服の中にまで手を差し入れられ、血液の集中した場所を容赦なく握り込まれ、舌先が項を這い、強弱を付けて吸い付かれ、抵抗する気力が削られる。
「んっ、ん…お前、よせって…ぅあ…っ」
アレルヤの頭を引き剥がそうともがいていた手が、ずるりと滑り落ちてベッドに落ちる。
代わりに、強過ぎる快感をやり過ごそうと、ロックオンは必死でシーツを掴んだ。
「でも、良かった。何もないって解かって」
すっかり余裕などなくした自分を見て、アレルヤが満足そうに呟きを落とす。
「な、何が…っ!」
「てっきり、この前の人たちと何かあったのかと…思っていたから」
静かな台詞に、頭の中に衝撃が走った。
「お前、やっぱり、怒って…っ!」
では、これは、この前の報復だとでも?
目を見開いて見上げると、彼は唇を皮肉な形に歪めた。
「下らない嫉妬ですよ、大目に見てやって下さい」
「な、にを、言って…」
「今は、それよりも…」
「っ、ぅ!!」
再び容赦のない愛撫が開始された。
ベルトを外され、下衣を掻き分けて、アレルヤが中心をゆるゆると扱く。
耳元に掛かる息は熱く、肌を吸われる度に甘い痺れが下腹部に生まれる。
「ぁあ…ぅ、ああ…」
「凄い、びくびくしてる」
白い腿を掴んで左右に押し広げ、羞恥を煽る台詞を吐かれる。
けれど、もう何か言い返す余裕はない。
巧みに追い立てられた体は、快楽を求めて小刻みに震え出した。
「ん、は…、もう、離せ!アレルヤ!」
「いいですよ、いっても」
アレルヤの手が早まる。
びく、と引き攣った両足が、シーツを掻いて滅茶苦茶に乱す。
「んん…っ、あ…!」
ぎゅっと下肢が縮こまり、次の瞬間には快楽に頭が弾けた。
内股が震え、欲望の証が溢れてアレルヤの指を濡らす。
「はぁ、は……っ」
肩を上下させて呼吸を整えると、アレルヤの指先を白く濡らしてしまったことに、ロックオンは無意識に謝ろうとした。
けれど、その言葉が次のアレルヤの行動で喉の奥へと飲み込まれる。
「……っっ!」
ぬめりを帯びた指が、足の奥、後ろへと潜り込んで来たのだ。
戸惑いなど何もない。
当たり前のように双丘を割られ、ロックオンは息を飲んだ。
「そ、そんなとこ!止めろ!!」
「でも、狡いですよ、あなただけ」
「な、何…?何が…」
だからと言って、そんなところに触る意味が…。
パニックになりがら、ロックオンは焦った声を上げた。
「ぼくだって、気持ち良くして貰いたい」
「……?!」
途端、彼の指がその奥の入り口をそっとなぞり、ロックオンはようやく相手の意図に気付いた。
同時に血の気が引き、引き攣った声が勝手に上がる。
「そ、…んなこと…む、無理だ!無理に決まってるだろ!!」
もう、恥も外聞もない。
泣きそうで余裕のない声が出て、ロックオンは死ぬほど情けなくなった。
年下の、しかも一応生徒の前で、どうしてこんなあられもない格好をして、哀願をしなきゃいけないのだ。
どこで間違えたのだろう。何が彼にこんなことをさせるのか。
下らない嫉妬だと言った。それでは、まるで。
「ア、アレルヤ!」
考える間も無く、閉じようとした足が広げられて、ロックオンはハッとして、激しく首を振った。
「よせ、頼むから!アレルヤ!」
必死に訴えると、両腿を掴んでいた指先から、ゆっくりと力が抜けた。
「仕方ない、ですね…」
そんな台詞と共に離れて行く指先に、ホッとしたのも束の間。
「じゃあ、代わりにしてくれますか?」
「……っ」
続いて強請られた要望に、またしても呼吸が止まった。
する?するって、何を……。
呆然とするロックオンに、アレルヤはいっそ優しいと取れるほど、綺麗な笑みを浮かべた。
「ここで……して欲しい」
「……っっ」
言葉が出なかったのは、驚いたからだけではない。
アレルヤの指先が優しい仕草でなぞったのは、ロックオンの唇。
まさか。
想像した事態に、血の気が引く。
けれど、恐らく間違ってはいないだろう。
「先生、口を開けて…」
「……!!」
その証拠にさらりと告げられ、ロックオンは思わず喉を引き攣らせた。
「どうする、先生?」
どうする、と問い掛けているのに。選択肢はない。
逃げ出そうにも、先ほどの快感で腰が抜けてしまったように、動けない。
アレルヤが衣服を緩め、彼のものが目下に晒された。
(……うそ、だろ……)
こんなものが中に入ったら、確実に死ぬ。
だったら……。
だったら、やっぱり選択肢はないのか。
酷く混乱した頭と、現実離れした状況が、理性を極端に鈍らせた。
「先生…」
「……ッ」
促すように耳朶を指先でくすぐられ。
やがて、ロックオンはおずおずと口を開いた。
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