Pathos(L)




どうして、解かってしまうのだろう。
少し照れ臭そうに笑うアレルヤを見詰めて、ロックオンは苦々しく思った。
彼が今抱いている心境が、嫌でも解かる。
自分の気持ちにも相手の気持ちにも鈍感であれば、いつまでも気付かずにいれたのに。
こう言うとき、察しの良い自分の性格は禍だ。
恐らく、アレルヤ自身もまだ気が付いていないのだろう。それほど、淡い気持ち。
けれど、いずれは気付くだろう。
でも、それを指を咥えて見ているのはご免だ。
ロックオンは無造作に髪の毛を掻き上げ、すうっと静かな息を吐き出した。

「アレルヤ、良かったらさ、今晩飲まないか」
「ロックオン。どうしたんですか、急に」
「お前ももう二十歳だろ。いいじゃねぇか、たまには。年長組同士ってことで」
「ええ、解かりました」

明るい声で誘いを掛けると、彼は何の疑いもなく頷いた。



「ロックオン…っ!酔って…いるんですか?」
「そうかもな…」

何杯か酒を飲んだ後、戯れのように口付けると、彼は引き攣った声を上げた。
間近で見えるグレイの目が、少し怯えたように揺れている。無垢な目だ。
ロックオンはくったくのない笑顔を浮かべ、軽い調子で口を開いた。

「大したことじゃない、そうだろ。俺もお前も、男だ」
「ロックオン…」
「たまには必要だろ、こう言うのも」
「……っ!!」

徐に、引き締まった腿の辺りに手を伸ばし、ゆっくりと撫でると、彼の肢体はびくりと引き攣った。
突然与えられた刺激に、どう反応して良いのか戸惑っている。
冗談だとも思っているのかも知れない。
けれど、ロックオンは再び顔を寄せ、アレルヤの柔らかい唇に緩く噛み付いた。

「んっ、ロックオン!待っ…」

そのまま、ぐい、と衣服の上から直接刺激を与えると、アレルヤは一層身を硬くした。
咄嗟に拒絶出来ないのは、きっと彼の優しさだ。
それを良いことに、慣れた手つきで快楽を引き出して行くと、若い体はすぐに快楽に反応して熱を帯び始めた。

「ロ、…ロックオン!」
「大丈夫だって、良くしてやるから」
「っつ、う…」

ロックオンの手に翻弄され、少しずつ、アレルヤの吐き出す吐息は艶を帯び始める。

「ロックオン、もう、止めて下さい」
「止まらなくなる…か?」
「……っ!」
「俺は別に、構わないぜ」
「ロックオン…!」

耳元で甘く囁き、ロックオンはアレルヤの首筋に唇を寄せた。
項に添って、少しずつ唇をずらしながら、柔らかく吸い付く。
その度、アレルヤは身を揺らし、肌はサッと粟立った。
その間も緩く刺激を与えると彼は堪らないように小さく呻き、腰を浮かせた。

直後、力を込めて腕が捕まれ、視界が反転した。
同時に、ドサっと音がしてベッドに押し倒される。
圧し掛かるアレルヤの顔は、引き出された快感を持て余して混乱すると同時に、酷く高揚していた。
すぐさま、ぎこちない動きで唇が塞がれる。
潜り込んで来た熱い舌を絡め取って、ロックオンは強弱を付けて吸い付いた。
濡れた音が静かな部屋にやたらと大きく響き、淫猥さが増す。
アレルヤの屈強な手が、平たい胸板の上をなぞる。
行為の先を急かすように足を絡め、腰を押し付けると、彼の喉はひくりと鳴った。

けれど、その手がベルトに掛かり衣服を引き摺り下ろすと、顕になった光景に、彼は急に我に返ったように動きを止めた。
片方の目が、欲情と罪悪の狭間で酷く揺れ、困惑に溢れている。
それを見て取り、ロックオンは優しいとすら思える笑みを浮かべた。
誘うような視線を送り、上気した唇の間から赤い舌を覗かせる。

「どうした、止めるか?」
「……っ」
「来いよ、アレルヤ」
「ロック、オン…」

熱に浮かされたように呟きを漏らし、次の瞬間、アレルヤは我も忘れたように夢中でロックオンの白い足に手を掛けた。
続いて襲う痛みに、目を閉じて耐える。

(悪いな、アレルヤ)

きっと、彼は傷付いて悔やむだろう。
一時の欲求に負け、煽られるまま行為に及んだこと。
真面目で優しい彼は悩んで、胸の奥で仄かに抱いている思いは壊れてしまうかも知れない。

でも、それでも。
俺はお前が好きなんだよ、アレルヤ。



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