Pull Me4




アレルヤに手を引かれるまま、ロックオンは黙って長い通路を歩いていた。
彼が向かっているのは、恐らく自分の部屋だ。
さっきみたいに、振り解いてしまいたいのに、有無を言わさない強さに、言葉が出ない。
それに、彼はさっき解かったと言った。だから、きっと大丈夫だ。
そんなことを考えながら、前を行くアレルヤの背中を見詰めて、ロックオンは何とも言えないような複雑な思いに駆られた。

部屋に着くと、扉が開くと同時に中に押し込まれ、ぐっと強く身を寄せられる。

「ん……っ」

抗う間も無く唇を塞がれ、その部分から彼の熱が伝わって来る。しかも、触れた途端にじくりと頭の奥が痺れ息苦しさを感じる。
無意識に酸素を求めて、ロックオンは唇を緩く開いた。それを待っていたかのように、アレルヤの舌が口内に潜り込んで、ゆっくりと侵蝕するように蠢く。

「んんっ、…つ」

強く掴まれた手首は壁に押し付けられて、ろくに動かすことも出来ない。いや、きっと、こうされていなくても、逃げ出せない。先ほど振り解いたとき、あれで全ての気力を使い果たしてしまったようだ。
どうしてこんなにアレルヤの言動に戸惑い、彼の存在に理性が痺れたように上手く働かないのか。
ロックオンが大人しくされるままになっていると、アレルヤのキスは更に深くなった。絡み付く舌の感触も、吸い付くような唇の動きも、溢れた唇を濡らす唾液までも、心地良くてどうにかなってしまいそうだ。

どれだけ長く、そうしていたのか。
ようやく顔が離れる頃には、頬は上気して赤く染まり、乱れた呼吸は不規則に唇を突いて出た。
アレルヤは、何をしようとしているのか。今彼は、どんな顔を。
恐る恐る視線を上げて、ロックオンはぎくりと身を硬くした。
アレルヤの目が、こちらをじっと見ている。片方しか露になっていない、いつもは静かなグレイの目が、強い熱を帯びてロックオンの姿を捉えていた。
こんな目には見覚えがある。いつも、ロックオンのことを組み敷いて、欲情に濡れた息を吐く男と、同じだ。
でも、いつもと違う。相手は、アレルヤだ。アレルヤだから。

「あ、……っ」

そこまで思ったところで、ぐっと腰が強く抱かれて、ロックオンは思わず小さな声を上げた。既に反応している下肢が、押し付けるように密着させられる。
彼が触れた部分から痺れが走って、ロックオンはごくりと喉を上下させた。腰の辺りから嘘のように力が抜ける。アレルヤが屈強だと言うだけではない。明らかに、力が入らない。
そのまま側にあったベッドに転がされて、ロックオンは今更ながら慌てた。
これは、まずい。これでは、このまま。

「ア、レルヤ」
「大丈夫ですよ。抱いたりは、しません」
「……っ」

胸中の不安を汲み取ったような台詞に、それ以上は何も言えなくなってしまった。
ベルトが外され、勢い良く引き抜かれる音に恐怖に似た感情を抱く。アレルヤが、彼の屈強な腕が、引き締まった肢体が自分を組み敷いている。
早く逃げなくてはと思うのに、どうしようもない。
そのまま下衣を引き摺り下ろされて、アレルヤの目下に白い肌が晒される。するりと腿の辺りを撫でられ、ロックオンは思わずびくりと肢体を引き攣らせた。けれど、彼の手は止まることなく、足の間の奥へと伸ばされる。

「アレルヤ!」

制止の声など、もう聞き入れる気配もない。
一体何を?そう叫びたいのに、上手く声が出ない。

「ロックオン」
「あ…っ!」

尚も、彼は優しい声で名前を呼びながら、そこにぐっと力を込めた。

「よせ、…う…っ!」

慣らされてもいない場所に侵入されては一たまりもない。訪れる恐怖に身を震わせると、アレルヤが上からぐっと押さえ付けて来た。指はゆっくりと抜かれて、その代わり探るように入り口を撫でる。

「ここに、誰かを受け入れているんですか、いつも…」

羞恥を煽るような台詞に、どく、と心臓の音が大きく鳴る。頭に血が昇って、頬が高潮するのが解かった。

「や、めろ…アレルヤ」
「こうやって、淫らな格好をして」
「アレルヤ!駄目だ!」
「いきなり入れたりしませんよ。よく解からないけど…痛い、ですよね」
「……!」

揶揄するような、弄るような台詞にぞくっと寒気に似た恐怖が背筋を駆け上がる。
アレルヤの優しい指先が、無理矢理開かれた足の奥を、尚もゆっくりと撫でる。

「それとも、ここが痛みに血を流せば、他の人を受け入れることはしなくなるのかな」
「……な、っ!」

感情の籠もらないその言葉に、再び背筋に寒気が走った。アレルヤが、本気でそんなことをするとは思えなかったけれど、無防備な格好を晒しているこの状態で、恐怖を感じない訳がない。それに、こんなときだと言うのに、やたらと落ち着き払った彼の物腰も、不穏なものを感じさせる。
翠の双眸を見開いて思わず息を飲み込むと、こちらの動揺を感じ取ったアレルヤが、ふっと口元を緩めた。

「冗談ですよ。あなたの血なんて、見たくない」
「アレルヤ…っ!」

言い終えると、アレルヤはそっと指先を口元に運んで、潤すように中へ含んだ。
濡れた音が耳元に聞こえて、目を見開いた直後。

「うぁっ!」

ぐっと割り入って来た指の感触に、ロックオンは掠れた声を上げた。

「ロックオン」
「ふっ、ぁあ、アレ、ルヤ」

ゆっくりと、固い感触が中を掻き回す。こちらの反応をうかがうように、丁寧に、じっくりと。動き回る指先に内部が圧迫され苦しいのに、突かれる度に甘い痺れが浮き上がってくる。

「よ、せ、アレルヤ」
「………」
「あ、…あ…」

何もかも暴かれるような感触に、ロックオンはぶるりと身を震わせた。こんな状態なら、抱かれてしまった方がまだましだ。
でも、それは、出来ない。

「ぁ、よせ…、もうっ」

首を振って叫んだ瞬間、不意に柔らかな粘膜に中心を包まれ、ロックオンは息を飲んだ。アレルヤが顔を寄せ、既に昂ぶりきったものに舌を這わせ、ゆっくりと上下に移動している。

「ア、レルヤ!お前っ!」

何をしているのかと、頭を殴られたような衝撃が襲った。こんなことは、信じられない。
アレルヤが、こんなことを…。
そう思うのに、引っ切り無しに与えられる刺激に思考も何も纏まらない。

「バカやろ、よせ、もう…」

濡れた音がしつこいくらいに響き渡り、生温い口内に吸い付くように啄ばまれた途端、ロックオンは目の前が真っ白になった。

「はっ、っぁあ、や…、め」

力の限りアレルヤの髪の毛を引っ掴んで引き剥がすと、ロックオンは四肢を強張らせて達した。溢れ出た体液がアレルヤの指をどっと濡らす。

「はぁ…、は、ぁ…」

四肢が弛緩して、ベッドにうずもれるように身を投げ出すと、ハァハァと荒く呼吸を吐き出す唇を、アレルヤの濡れた指先がぞっとなぞった。

「満足した?ロックオン」
「……」

声は冷たく、いつもの穏やかさなど微塵も感じられない。酷い気だるさの中、視線だけ動かして彼を方を見上げると、透き通るグレイの目が静かに見下ろしていた。

「これで、今から街へ行くなんて、もう言わないよね」
「アレルヤ…」

掠れた声で名前を呼びながら、ロックオンは割り開かれた両足をのろのろと閉じた。



「どうして、こんなことまで…」
「好きだからです、あなたが…」

きっぱりと、強い口調で落とされた言葉は、何故かロックオンの胸にきつく突き刺さった。

「アレルヤ…」
「他の誰かに、あなたがこんなことをしていると思うと…どうにかなりそうで…」

ぐっと握り締められた拳が、震えている。
アレルヤの静かな怒りがひしひしと伝わって来て、それ以上何も言えなくなってしまった。

「ぼくのことが、好きじゃなくてもいい」
「……」
「ぼくとは出来ないと言うなら…。せめて、他の人にはこんなこと、許さないで下さい」
「アレ…ルヤ」
「お願いです、ロックオン。でないと、きっとぼくはどうにかなってしまう…」

真っ直ぐな目、けれど、どこか危なげな視線に見詰められ、ロックオンは自由を奪われたように身じろぐことも忘れた。この目に射抜かれたみたいに、動くことが出来ない。

「ああ、解かった」

呆然と身を投げ出したまま、ただ首を縦に振って、掠れた声を吐き出した。

「解かったよ…アレルヤ…」

言い終えない内に、ぐっとベッドに押し付けられ、彼の唇に強く塞がれた。



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