「ラッセさんて、いい体してるよね」
「……………?」
聞き捨てならないその台詞に、刹那は一瞬自分が硬直していることに気付いた。ハッと我に返ると、金色の目まで発動させていたことに気付いて、慌てて隠した。
今、沙慈は何と言ったのか。
「沙慈……」
「うん?何?」
「お前は、ああ言う感じのがいいのか」
「え、いや……、いいって言うか、逞しくて憧れちゃうなって」
「…………」
――逞しくて、憧れる。
沙慈の言葉が、刹那の頭の中に何度も木霊した。
それから、数分後。
大量のプロテインを抱えてトレーニングルームへ入って行く刹那の姿を、何人ものクルーが目撃した。
そして、更に数時間後。
「クロスロードさん、セイエイさんが!」
慌てて部屋に駆け込んで来たミレイナの言葉に、沙慈は眉を寄せた。
「刹那が、どうかしたの?」
「何だか、ただごとじゃないです!様子、見てくれないですか」
「……?」
いまいち状況が飲み込めなかったけれど、とにかく心配だったので、ミレイナに言われるままトレーニングルームに向かった。
一歩足を踏み入れると、刹那が倒れているのが見えた。
「せ、刹那!どうしたの?!」
急いで駆け寄って抱き起こした彼は、苦しそうに荒い息を吐き、ぐったりと疲れたような顔をしていた。
「さ、沙慈……」
「刹那!こんなになるまで、一体どうしたんだよ!」
差し伸ばされた手を咄嗟に取ると、ぎゅっと握り締める。
彼が何事か呟いているのに気付いて、沙慈はそっと口元に耳を寄せた。
聞けば、刹那は先ほどの沙慈の言葉がきっかけで、自分もラッセのような体型になろうと、かなり無理をして筋トレをしてしまったらしい。
どうして、そんな無茶苦茶なことを。心配を通り越して呆れてしまった沙慈は、つい声を荒げてしまった。
「な、何してるんだよ!そんな無茶して、突然マッチョになる訳ないじゃないか!」
「あ、ああ……、そうだな……」
まだゼィゼィと肩で息をする刹那に、沙慈はふうっと吐息を吐いて気を鎮めた。でも、自分の言った一言でこんなことになるなんて。そのことを考えると、怒ってばかりじゃいけない気がする。そう思い直して、沙慈は刹那の体を抱き直し、優しい笑みを浮かべた。
「刹那……。きみは、そのままがいいんだよ」
「沙慈……」
ホッとしたような顔を見せた刹那は、そのまま沙慈の腕ですやすやと眠ってしまった。
でも、もし――。
あどけない寝顔を見詰めながら、ふと、沙慈の中にある疑問が浮かび上がる。
今回はラッセみたいな逞しい体がいいなって言う話だったけれど、もし、別のことだったらどうなんだろう。
彼のことを試すつもりじゃなかったけれど、何となく気になったので、沙慈は後日何気なく呟いてみた。
「フェルトの髪って、ピンクで凄い可愛いね」
「………………」
数分後。
ピンク色のヘアカラーを抱えてバスルームに向かう刹那を、沙慈は必死になって引き止めるハメになった。
終
トレミーのクルーが刹那にほだされ沙慈が孤立無援になったら…、とのコメントを頂いて書きましたv
続きです。